診療

診療内容のご紹介(患者さん向け)

高血圧

1.血圧とは

私たちの身体を流れる血液は、全身の組織や臓器に栄養素や酸素を送り届ける役割を担っています。血液を送るポンプである心臓は規則的に拍動することで、全身のすみずみに血液を行きわたらせています。血圧とは、心臓から送り出された血流が血管の内壁を押す力のことで、血液量(心拍出量)と血管の硬さ(血管抵抗)によって決まります。

私たちヒトをはじめとする陸上生物は長い進化の過程で、血管を収縮させたり体液量を調節したりし、血圧を維持する機構を獲得しました。食塩摂取量は、血圧と密接に関係しています。ヒトの身体では、体液の塩分濃度を一定に保つ仕組みがあり、濃度を一定に保つため、過剰な塩分摂取では体液量も増加し、その結果血圧は上昇します。塩分摂取過多や主に腎臓での塩分調節障害により高血圧が発症します。塩分摂取量の多いわが国では高血圧の罹患率は高く、さらに高血圧によって脳卒中や心臓病、腎臓病などの動脈硬化性疾患の発症リスクが上昇することから、血圧管理は極めて重要です。

私たちが血圧を測定すると、例えば、144/78 mmHgというように上の血圧と下の血圧が表示されます。上の血圧と下の血圧は、正式には「収縮期血圧」、「拡張期血圧」といいます。収縮期血圧は、心臓が収縮して血液が大動脈に押し出される時の圧力であり、拡張期血圧とは、心臓が拡張して心臓に血液が戻っているときに動脈壁の弾性によってのみ維持される圧力です。

2.高血圧について

高血圧は、診察室での収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上、家庭血圧が135/85mmHg以上で診断されます。正常血圧は診察室血圧120/80mmHg未満、家庭血圧115/75mmHg未満です。診察室血圧120-139/80-89mmHgは、生涯のうちに高血圧に移行する確率が高く注意が必要です。

加齢に伴い血圧値は変化します。収縮期血圧は年とともに高くなる一方、拡張期血圧は50歳代をピークに年齢とともに低下し、その差(「脈圧」といいます)は大きくなります。

高血圧は我が国で最も患者数の多い病気で、患者数は加齢とともに増加しています。厚生労働省による2016年の国民健康栄養調査によると、現在約4300万人の患者さんがいると推計されていますが、適切に血圧がコントロールされているのはわずか1200万人程度であり、残る3100万人は未診断や未治療の方、あるいは治療を受けていても目標の血圧に適切にコントロールをされていない方です。

通常、高血圧の方の多くは自覚症状がありません。知らず知らずのうちに高血圧により動脈硬化は進行し、気づいたときにはすでに脳血管障害や心臓病、腎臓病などが悪化していることもあり、高血圧は沈黙の殺人者(サイレントキラー)と呼ばれます。まずは、定期的な健診や病院の受診の際に血圧を測定してみましょう。

3.家庭血圧と血圧変動

自宅や職場など日常生活で測る血圧(家庭血圧)と病院を受診した際に測る血圧(診察室血圧)は必ずしも一致しません。通常、診察室では緊張やストレスのため血圧が上昇しますが、家庭血圧が135/85mmHg未満であるのに診察室血圧が140/90mmHg以上の場合、「白衣高血圧」と呼びます。逆に診察室血圧は正常であるのに家庭血圧が高い場合を「仮面高血圧」と呼びます。家庭血圧・診察室血圧ともに高い場合を「持続性高血圧」と呼びます。

白衣高血圧は治療の必要はありませんが、将来治療が必要な高血圧に移行する可能性があるため注意が必要です。

仮面高血圧は、持続性高血圧と同等に脳心血管疾患を発症しやすいため、治療が必要です。

家庭や職場では静かで安定した環境で繰り返し血圧測定ができます。近年、家庭血圧は、診察室血圧よりもより正確に脳卒中や心臓病の発症を予測できることが分かり、家庭血圧の測定はとても大切とされています。

健常者でも血圧は測定条件や時間によっても多少変動します。その理由の一つには、自律神経の働きと深い関わりがあり日内変動があります。睡眠中の血圧は低く、起床とともに上昇していきます。日中の活動時間の血圧は高く、活動量が低下する夕方から夜にかけて再び低下します。夜間に血圧が低下しない(夜間血圧が120/70mmHg以上の場合、「夜間高血圧」といいます)方や、早朝から起床後にかけて急激に血圧が上昇する(「モーニングサージ」といいます)方は、脳心血管疾病を起こす危険性が高く注意が必要です。できれば家庭血圧は、朝と夜の1日2回測定し、血圧手帳などにすべて記録しましょう。また、自律神経の働きが変化しやすい食後や排尿・排便後は血圧が下がりやすく注意しましょう。

さらに血圧変動は気温差や寒暖差でも生じます。夏は、気温の上昇や脱水に伴い血圧が低くなる傾向にあり、寒くなる冬にかけて血圧は上昇します。特に冬場の外出時や入浴時など、温かい場所から急に寒い場所に移動するときは血管が収縮し、急激に血圧が上昇し、脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管疾病を発症する危険性が高くなりますので、寒暖差には十分注意しましょう。

また、高齢者では、立ち上がり時に血圧が上昇する(「起立性高血圧」といいます)や立ち上がり時に血圧が低下する(「起立性低血圧」)方も多く、脳血管疾患や転倒、失神とも関連します。食後に血圧が低下し(「食後低血圧」といいます)、めまいや気分が悪くなる方も多く、このように血圧は体位や時間帯によっても変動します。

4.血圧の測り方

患者さん自身が自宅や職場で血圧を測定することはとても大切です。血圧を毎日測定、記録することで、ご自身の血圧の状態や特徴を実感できます。また、主体的に高血圧治療に取り組むきっかけにもなります。そして何よりも、家庭血圧は脳卒中や心臓病の発症リスクを評価するのに最も信頼できる指標の一つだからです。

血圧は1日2回朝(起床後1時間以内)と夜(就寝前)、落ち着いた静かな環境で、カフ(測定部の腕や手首に巻き付ける腕帯のこと)の位置は心臓と同じ高さになるようにして測定します。同一時間帯につき1回、もしくは2-3回の測定値すべてとその平均値を記録します。血圧計は、手首式血圧計の場合、想定する高さの測定条件が測定毎に異なったり、動脈硬化の程度によって誤差が生じたりすることがあるため、可能であれば上腕式血圧計を使用しましょう。

5.高血圧の成因について

高血圧は、原因が一つに特定できない「本態性高血圧」と、血圧を上げるホルモンの分泌異常や主に心臓・腎臓・血管に原因があり血圧が上がる「二次性高血圧」に分けられます。また、極めてまれですが単一の遺伝子の異常が原因となる「遺伝性高血圧」もあります。日本人の高血圧の約9割が本態性高血圧であり、生活習慣やストレス、体質、遺伝、加齢によって発症します。二次性高血圧については、別項(二次性高血圧)で詳しく解説します。

6.高血圧の検査について

高血圧の検査は、①血圧測定により血圧値の重症度評価を行うと同時に、②本態性高血圧と二次性高血圧の鑑別(詳しくは 二次性高血圧の項をご覧下さい。)、③脳心血管病の危険因子の評価、④高血圧による臓器障害の評価を行います。代表的な検査としては、以下の表に示す通りですが、これらの検査のうち、症状や状態によっていくつかの検査を組み合わせます。
検査によっては入院が必要な検査もあります。

7.高血圧の治療について

まずは、食事や運動、嗜好品などの生活習慣を修正することが大切です。具体的には、減塩や野菜果物の積極的な摂取、運動、アルコール摂取は適量にとどめる、禁煙です。とりわけ、減塩は重要で、高血圧治療における減塩目標値に関して、日本高血圧学会では一日塩分摂取量6g/日未満を推奨しています(なお、一般の人の食塩摂取量について、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」では男性7.5g未満、女性6.5g未満を目標に設定、また世界保健機関(WHO)ではすべての成人の減塩目標を5g/日に設定)。日本高血圧学会作成の 減塩啓発動画)や 減塩レシピなどを是非参考にして下さい。

その上で、薬物治療をはじめとする降圧治療を行います。薬物治療は、血管拡張作用や利尿・ナトリウム排泄作用のある薬剤による降圧を図ります。主に、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬を単剤もしくは組み合わせて使用します。適切な降圧剤や降圧目標は患者さんの年齢や高血圧の状態、合併症により異なりますので、主治医の先生とよく相談して選びましょう。

(文責:大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 野里陽一)

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