診療

診療内容のご紹介(患者さん向け)

二次性高血圧とは

高血圧の大半は生活習慣や遺伝要因による発症する本態性高血圧ですが、中には他の疾患が原因で血圧が上昇する二次性高血圧があります。高血圧患者さんの10人に1人程度が二次性高血圧であると言われていますが実際に二次性高血圧と診断されている高血圧患者さんはそれよりも少なく、二次性高血圧の多くが本態性高血圧として治療をされているのが現状です。二次性高血圧の診断が重要である理由は、その原因となる疾患に対する治療を行うことで高血圧や高血圧に伴う合併症が改善する可能性があるためです。高血圧は長期間治療薬を飲み続ける必要がある生活習慣病であり、その初期段階で二次性高血圧を発見し適切に治療することは極めて重要なのです。(高血圧全体の説明は 高血圧をご参照ください。)

二次性高血圧の種類は?

高血圧を症状の一つとする疾患は全て二次性高血圧の原因となります。図1に主な二次性高血圧の原因疾患を示します。高血圧から発見されやすい二次性高血圧として、原発性アルドステロン症褐色細胞腫などの内分泌疾患、腎血管性高血圧などの血管疾患、睡眠呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群薬剤誘発性高血圧などがあります。

図1. 主な二次性高血圧:示唆する所見と鑑別に必要な検査

どのような場合二次性高血圧を疑う?

全ての高血圧は二次性高血圧の可能性がありますが、次のような場合特に、二次性高血圧の可能性が高いと考えられます。

若い時に発症する高血圧
急速に進行した高血圧、複数の薬剤を内服してもコントロールできない高血圧(難治性高血圧)、血圧変動の激しい高血圧
電解質異常(血液を循環するナトリウム、カリウムなどのイオンの濃度異常)を伴う高血圧
心肥大や腎障害などの臓器障害の進行が早い高血圧

主な二次性高血圧

原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症とは?

アルドステロンが過剰に産生されることによって高血圧になる病気です。人体には血圧を調節するレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系というシステムがあります(図2)。このシステムは血圧が下がることや、塩分(塩化ナトリウム)不足になることで活性化し、血管を収縮させることや腎臓からのナトリウム排泄を抑えることによって血圧を上昇させようとします。アルドステロンは腎臓からのナトリウム排泄を抑えることで血圧を増加させるホルモンであり、副腎という腎臓の上の方にある小さな臓器の一部である副腎皮質から分泌されます。原発性アルドステロン症は副腎でアルドステロンが過剰に産生されることで発症する病気です。健常者の場合、アルドステロンの分泌は腎臓で産生されるレニンが増加する事で促進されますが、原発性アルドステロン症ではアルドステロンが過剰に分泌されることで、ネガティブフィードバックという現象が起こりレニンの産生が減少します(図3)。原発性アルドステロン症を起こす二大疾患としてアルドステロンを産生する良性腫瘍(腺腫)が副腎にできるアルドステロン産生腺腫(APA)、アルドステロンを産生する細胞が副腎で過剰に増える特発性アルドステロン症(IHA)があります。非常に稀に悪性腫瘍が原因であることもあります。原発性アルドステロン症は二次性高血圧の中で最も多い原因疾患と言われています。原発性アルドステロン症は本態性高血圧に較べて心筋梗塞、脳卒中などの合併症が多いことが知られています。また糖尿病や睡眠時無呼吸症候群を合併しやすいことも知られています。

図2. レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系

図3. 正常のアルドステロン産生と原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症の症状は?

本態性高血圧と同様に症状がないことがほとんどです。高度の低カリウム血症がある場合、脱力などの症状を伴うことがあります。

原発性アルドステロン症を疑う検査異常は?

アルドステロンが腎臓でのカリウム排泄を促進するため低カリウム血症が40%程度の患者さんで認められますが、カリウム濃度が正常でもこの病気は否定できません。また、APAは検診などで副腎に腫瘍が見つかることにより発見されることもあります。この病気が疑われた場合、血液検査でレニン活性(あるいは活性型レニン濃度)やアルドステロン濃度を測定し、両者の比(アルドステロン濃度/レニン活性(活性型レニン濃度), ARR)を測定します。原発性アルドステロン症ではアルドステロンが増加し、レニンが低下するためARRが上昇します。ARRが基準を超えた場合、スクリーニング検査陽性として確定診断のための検査を行います。

原発性アルドステロン症の確定診断は?

ARRが基準値を超えた場合、専門医において負荷試験を行います。負荷試験にはカプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験、立位フロセミド負荷試験などがありそれらの結果を総合的に判断して診断を行います。腫瘍の有無は主にCTを用いた画像診断により評価します。

原発性アルドステロン症の治療は?

原発性アルドステロン症の治療はAPAとIHAで異なります。APAの多くは片方の副腎が原因であることから、副腎摘出により治癒する可能性があります。副腎摘出を行う場合、副腎静脈サンプリングというカテーテルを用いた検査を行い、アルドステロンが左右の副腎どちらから過剰に分泌されているのか判断します。この結果と、CTなどの画像検査の結果を合わせて副腎摘出の適応を決定します。小さいAPAの場合CTで見えないことがあり、その場合は、副腎静脈サンプリングの結果により手術の適応を判断します。副腎摘出のほとんどは開腹手術ではなく腹腔鏡手術により行います。APAで副腎摘出を選択しない場合や、IHAの場合は薬物治療を行います。薬物治療ではミネラロコルチコイド受容体拮抗薬というアルドステロンの働きを抑える薬剤を主に用います。この薬剤を用いて血圧値が目標値まで下がらない場合や副作用で使用できない場合は、他の降圧薬を用いることもあります。

褐色細胞腫/パラガングリオーマ(PPGL)
PPGLとは?

カテコラミンが過剰産生されることで高血圧になる病気です。カテコラミンはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミンなど交感神経を活性化させる神経伝達物質として働くホルモンの一種です。人体はストレスにさらされるとカテコラミンを分泌することで交感神経を活性化し、ストレスに対応した興奮状態となります。カテコラミンは傍神経節と呼ばれる器官で作られますが、その一つである副腎髄質(アルドステロンは副腎皮質)を起源とする腫瘍が褐色細胞腫です。また、副腎以外の傍神経節由来の腫瘍は傍神経節腫瘍(パラガングリオーマ)で、褐色細胞腫(Pheochromocytoma)とパラガングリオーマ(Paraganglioma)を合わせてPPGLと呼びます。PPGLは原発性アルドステロン症に比べ稀な病気ですが、一過性の激しい血圧上昇を誘発することや腫瘍が悪性の可能性があることなどから放置すると大変危険な病気と言えます。

PPGLの症状は?

高血圧、頻脈、蒼白、頭痛、発汗、動悸、不安感、便秘、高血糖、体重減少など多彩な症状を引き起こします。褐色細胞腫による高血圧は常に血圧が高い持続性のタイプと一過性に血圧が上昇する発作性のタイプがあります。血圧上昇時には動悸や発汗、頭痛などを伴うことがあります。発作性のタイプでは、日常生活にあるような刺激によって発作が誘発されることがあり注意が必要です(図4)。起立時に血圧が低下してふらつきなどの症状を引き起こす起立性低血圧の合併が多いことも知られています。

図4. 発作を誘発する可能性のあるもの

PPGLを疑う検査異常は?

血圧値の変動が激しい場合疑われます。但し、血圧変動の原因は心理的な要因を含めて数多くありますので血圧変動が激しい=褐色細胞腫ではありません。また、原発性アルドステロン症と同様に検診などで副腎に腫瘍が見つかることにより発見されることもありますが原発性アルドステロン症よりも大きな腫瘍が見つかることが多いです。この病気が疑われた場合、血液検査でカテコラミン量を測定します。カテコラミン量の上昇があれば疑われますが、正常であっても褐色細胞腫でないとは断定できません。

PPGLの確定診断は?

PPGLが疑われる場合、専門医において確定診断のための各種検査を行います。尿中カテコラミンやカテコラミンの代謝産物(カテコラミンが分解された物質)であるメタネフリンを測定し基準値以上に増加していることを証明します。診断困難な場合は薬剤負荷試験を行うこともあります。画像検査によって腫瘍を発見することも重要です。画像検査にはCTやMRI、MIBGシンチグラフィーなどが用いられます。副腎外にできることや(パラガングリオーマ)、悪性の場合もあるため全身を検索する必要があります。

PPGLの治療は?

治療の基本は腫瘍を摘出する手術になります。手術を行う場合は、手術時の合併症を予防するため投薬治療も含めた慎重な管理が必要となります。PPGLは再発しやすい病気であるため、手術で一旦完治しても再発を発見するための検査を継続することが必要です。薬物治療の場合はカテコラミンによる交感神経の興奮を抑制するα遮断薬やβ遮断薬を用いて行います。悪性のPPGLに対しては化学療法や放射線治療を行うこともあります。

腎血管性高血圧
腎血管性高血圧とは?

腎動脈が狭窄する(細くなる)ことにより起こる病気です。腎血管高血圧においても原発性アルドステロン症と同様にレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系という人体のシステムが大きく関わっています(図2)。RAA系は血圧が下がることや、塩分(塩化ナトリウム)不足になることで活性化しますが、その最初のステップは腎臓の緻密班という領域からレニンが分泌されることです。レニンは全身を循環し、アンジオテンシンノーゲンと言われる蛋白からアンジオテンシンIIという血管収縮物質を産生することや、副腎からのアルドステロン分泌を促進させることで血圧を上昇させます。腎血管性高血圧は腎臓に血液を供給する腎動脈に狭窄が生じることで、緻密班からレニンが過剰に分泌され血圧が上昇する病気になります。腎動脈が狭窄すると腎臓に到達する血流量が減少しますので、緻密班が血圧や塩分量の不足と錯覚してレニンを分泌する結果、血圧が上昇します。腎動脈が狭窄する原因としては高齢者では動脈硬化が最も多く、若年から中年の女性に好発する線維筋性異形成という血管の異常を起こす病気や大動脈炎症候群などの血管炎なども原因となります。但し、腎動脈の狭窄が軽度であれば高血圧の原因とならないこともあり腎血管性高血圧=腎動脈狭窄症ではないことに注意が必要です。

腎血管性高血圧の症状は?

本態性高血圧、原発性アルドステロン症と同様に症状がないことがほとんどです。高度の低カリウム血症がある場合、脱力などの症状を伴うことがあります。

腎血管性高血圧を疑う検査異常は?

アルドステロンが増加することで低カリウム血症を認めることがありますがカリウム値が正常でもこの病気は否定できません。腹部の血管雑音が聴こえることがあります。

血液検査でレニン活性(あるいは活性型レニン濃度)の増加を認めた場合この病気の疑いが強くなります(*)。レニン活性は体位(立位で上昇)や服用している薬剤の影響を強く受けること、レニン活性が増加する他の病気があることなどからレニン活性上昇=腎血管性高血圧ではありません。またレニン活性が増加しない腎血管性高血圧があることにも注意が必要です。腎機能が急速に悪化することにより疑われる場合もあります。

*最近の高血圧治療ガイドラインでは血中レニン活性を腎血管性高血圧のスクリーニング検査として推奨していません。

腎血管性高血圧の確定診断は?

腎血管性高血圧が疑われる場合、専門医において腎ドップラー検査を行います。腎ドップラー検査は腎動脈から腎臓にかけての血流パターンを評価する検査です。腎血管性高血圧では腎動脈の血流速度が上昇している事や腎臓内の血流が変化している事などの異常が認められます。その他、放射性物質を用いたレノグラムや薬剤負荷試験などを用いることもあります。画像検査は造影剤を用いたCTやMRIがあり、腎動脈の狭窄が判定されます(図5)。腎動脈狭窄が画像検査で示され、その腎動脈狭窄が高血圧の原因となっていることが示されることで腎血管性高血圧は確定診断されます。

図5. 右腎血管性高血圧のCT

腎血管性高血圧の治療は?

狭窄した腎動脈をバルーンやステントで広げるカテーテル治療があります。この治療により高血圧が治る可能性がありますが、広げた血管が再び狭窄することがあります(再狭窄)。また、最近の研究では腎臓脈狭窄に関するカテーテル治療が薬物療法と較べてその後の経過が優れていることが否定されています。この為、カテーテル治療は個々の患者さんの病態に応じて慎重に適応を決定することが必要です。カテーテル治療をおこなわない場合、降圧薬を用いた治療を行います。降圧薬のアンジオテンシン受容体拮抗薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬はRAA系を抑制する薬剤であり腎血管性高血圧の治療薬として用いられます。但し、両側性の腎動脈狭窄などこれらの薬剤を使用できない場合もあります。

薬剤誘発性高血圧
薬剤誘発性高血圧とは?

高血圧以外の治療薬が原因でおこる高血圧です。良く処方される薬剤として鎮痛剤として用いられる非ステロイド性消炎鎮痛剤があります。漢方薬に含まれる甘草が原因となる偽性アルドステロン症も重要であり、原発性アルドステロン症と同様に低カリウム血症を伴うことがあります。

薬剤誘発性高血圧の診断は?

薬剤の投与開始と血圧上昇の時期が一致することで疑われ、薬剤を中止することで高血圧が改善することで診断されます。

薬剤誘発性高血圧の治療は?

原因となる薬物を中止や変更する事が治療となりますが、中止や変更困難な場合は降圧薬を追加する事もあります。

薬剤誘発性高血圧における注意点は?

異なる科で新たに処方された薬剤は漢方薬も含めて全て医師に伝えることが重要です。また薬剤による血圧上昇が疑われる場合でも自己判断で中止せず、必ず医師に相談して方針を決めることが重要です。

(文責:大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 山本浩一)

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