柴田 久美、堤 一仁 、村上 拓、保仙 直毅≪血液・腫瘍内科学≫ 多発性骨髄腫の治療に使われる二重特異性抗体に反応して
一部の免疫細胞だけが大きく増えることを解明
~「血液のがん」治療の効果増強法開発に期待~
2026年6月11日
掲載誌 Leukemia
図1.二重特異性抗体に反応して一部のCD8T細胞が増殖する
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研究成果のポイント
- 血液悪性腫瘍の治療の一つであるT cell engager(TCE)により腫瘍細胞と結合したCD8T細胞(腫瘍細胞を攻撃する免疫細胞)は、一部のT細胞が顕著に増殖することを発見。
- TCE治療において腫瘍傷害能をになうCD8T細胞のグループはエフェクターT細胞と考えられていたが、ナイーブT細胞も関与する可能性が明らかに。
- 再発・難治多発性骨髄腫の患者におけるTCEの治療下で拡大するT細胞の性質や重要な因子についての解明の糸口となることに期待。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生の柴田久美さん(博士課程)、堤一仁さん(博士課程)、村上拓さん(博士課程)、保仙直毅教授らの研究グループは、多発性骨髄腫※1の新規免疫療法であるBCMAxCD3二重特異性抗体治療(T cell engager※2, TCE)において、CD8T細胞のごく一部が増殖し、腫瘍細胞の傷害を担うことを明らかにしました。
これまでTCEの治療において、T細胞の中のどのグループのCD8T細胞が長期的に増殖するにかについては十分に解明されていませんでした。
今回、研究グループは、TCEと腫瘍細胞を末梢血単核細胞(PBMC)と共培養することにより早期から拡大する一部のT細胞が腫瘍細胞を傷害すること、さらにそれらの細胞はエフェクター分画だけではなくナイーブ/SCM分画にも由来することを解明しました。
これにより、再発・難治性の多発性骨髄腫の患者において拡大するCD8T細胞の性質の解明が期待されます。
本研究成果は、「Leukemia」に、4月27日に公開されました。
研究の背景
TCEは再発・難治性の血液疾患において近年効果が期待されている新規免疫治療法です。腫瘍細胞に発現する抗原とT細胞を結びつけることで抗腫瘍効果を発揮しますが、TCEの投与により、どのようなグループのT細胞が増殖して腫瘍細胞の傷害に寄与するのかについては明らかにされていませんでした。
これまでの患者検体を用いた研究から、CD8T細胞でnaïve/SCM分画(未分化に近く、増殖・分化能をもつ初期状態のT細胞集団)が豊富な患者や、疲弊マーカーの発現が低い患者において治療効果が高いことは知られていました。また、TCEの治療によりエフェクター様のT細胞の増加を認めることも報告されていましたが、これらの細胞がエフェクター細胞の増加によるものか、naïve/SCM分画の細胞の分化によるものかは不明であるという課題がありました。
研究の内容
研究グループでは、PBMCを腫瘍細胞とBCMAとCD3のT cell engagerであるエルラナタマブと共培養し、CD8T細胞の増殖能と腫瘍傷害能について検証しました。それによりTCEの存在下で腫瘍細胞を傷害するCD8T細胞はnaïve/SCM分画とそれ以外の分画の両者に存在することが示されました。
さらに、シングルセルRNAシーケンス解析により共培養下で拡大するT細胞は早期に拡大した一部の細胞に由来することが判明しました。これらの増殖クローンは全体のごく一部であり、CX3CR1+EOMES+のエフェクター様T細胞として特徴づけられました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、TCE治療における抗腫瘍効果は一部の優位なクローンに由来することと、ナイーブT細胞がこれらのエフェクター細胞の供給源となりうることを示しました。これによりTCE治療において抗腫瘍効果をになうT細胞の性質が解明され、TCE治療の効果増強法の開発が期待されます。
研究者のコメント
<保仙教授のコメント>
二重特異性抗体治療は血液がん治療の領域で驚異的な有効性を示しております。二重特異性抗体のコンセプト自体は極めてシンプルでがん細胞とT細胞をくっつければがんを殺してくれるだろうというものです。しかし、T細胞のバイオロジーはそんなにシンプルなものではなく、実はどのT細胞がその効果発現を担っているのかはよくわかっていません。本研究はその端緒となる研究と言えます。
用語説明
※1 多発性骨髄腫
白血球のなかのリンパ球のうち、B細胞が分化した形質細胞が異常に増殖する血液のがん
※2 T cell engager
がん細胞とT細胞に結合可能な二重特異性抗体であり、がん細胞とT細胞を接合させることで抗腫瘍効果を発揮するがん免疫療法
特記事項
本研究成果は、2026年4月27日に「Leukemia」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】
“A small population of CD8 T cells expand robustly when stimulated with BCMAxCD3 bispecific T-cell engagers in vitro”
【著者名】
Kumi Shibata, Kazuhito Tsutsumi, Hiraku Murakami, Emiko Mizuta, Shunya Ikeda, Yosuke Kogue, Mizuki Kano, Kazuhiro Sanda, Yuto Maehara, Hiroki Akamine, Ryuhei Kawamoto, Mayuko Noguchi, Makiko Suga, Shuhei Kida, Yuta Yamaguchi, Yo Mizutani, Hisashi Kato, Yasutaka Ueda, Jiro Fujita, Shinsuke Kusakabe, Hidenori Kasahara, Akihisa Hino, Daisuke Motooka, Daisuke Okuzaki, Tomoaki Ueda, Kentaro Fukushima, Michiko Ichii, Naoki Hosen
DOI: https://doi.org/10.1038/s41375-026-02969-4
なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(24K02479)の協力を得て行われました。
【参考URL】
保仙直毅 教授(血液・腫瘍内科学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/31a96e686be68ce1.html
