2008年

 

月田 早智子 ≪分子生体情報学≫ 「IQGAP3は、Ras/ERKを介して細胞増殖を制御する。」


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2008年8月 発表
掲載誌 Nature Cell Biology, 10:971-978, 2008

IQGAP3は、Ras/ERKを介して細胞増殖を制御する。

要旨:生体において、細胞増殖がいかに時空間的に制御されるかは、生体の機能のみならず、発生、分化の上でも 重要であり、細胞接着と関わる問題であると思われる。本研究では、細胞接着部位に局在するIQGAP3が細胞増殖が行われている細胞のみに発現し、活性化 型Rasと強く結合することが示された。これによりIQGAP3がRasの活性化型に影響を及ぼすことが考えられ、IQGAP3の発現をおさえたノックダ ウン細胞においてRasの活性化状況を調べると、Rasの活性は低い状態にあることが分かった。またIQGAP3ノックダウン細胞に、活性化型Rasを発 現させると細胞増殖が盛んになった。以上のことからIQGAP3はRas/ERKのシグナル伝達経路を活性化することで細胞の増殖を維持しており、その局 在から増殖の接触阻害に関与することが示唆された。マウス個体レベルの小腸においては、幹細胞に由来する増殖の活発な細胞でIQGAP3が働くことも確認 できた。
このように、IQGAP3は分裂する細胞すべてで働いていると考えられ、特にがん遺伝子Rasの制御に関係していることから、IQGAP3をうまく制御で きれば癌の治療にもつながると期待できる。再生医療に応用すれば、移植に必要な細胞を素早く増やせる可能性もあり、今後の進展が期待される。

URL http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/tsukita/