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  • 河原 行郎≪神経遺伝子学≫ 「Ataxin-2は、mRNAの3’非翻訳領域にある特定の配列に直接結合することによって、mRNAの安定性を促進しタンパク質発現を増加させる」

河原 行郎≪神経遺伝子学≫ 「Ataxin-2は、mRNAの3’非翻訳領域にある特定の配列に直接結合することによって、mRNAの安定性を促進しタンパク質発現を増加させる」

免疫制御学-1
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2014年6月19日 発表
掲載誌Molecular Cell(2014) doi:10.1016/j.molcel.2014.05.022

Ataxin-2は、mRNAの3’非翻訳領域にある特定の配列に直接結合することによって、mRNAの安定性を促進しタンパク質発現を増加させる

Ataxin-2は、RNAプロセッシングに関与するLSmタンパク質ファミリーに属し、poly(A)鎖結合タンパク質PABPC1と直接結合することから、何らかのRNA代謝に関与しているのではないかと予測されてきました。しかし、in vivoでの標的RNAが不明であったことから、具体的な生理的機能の詳細についても分かっていませんでした。
今回私達は、PAR-CLIP法と呼ばれる蛋白質に結合するRNAを、低バックグラウンドに回収する手法を用いて、Ataxin-2がPABPC1非依存的に何らかのRNAと直接結合していることを見出しました。このため、回収したRNA断片を、次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析しました。その結果、Ataxin-2が、主にmRNAの3’非翻訳領域(UTR)に存在するウリジンに富んだ配列 (U-rich element)を認識し、直接結合することを発見しました。この中には、AU-rich element (ARE)と呼ばれるmRNAの安定性を規定する既知の配列も含まれていました。
Ataxin-2がmRNAの安定性に影響するのかどうかを解析するため、Ataxin-2の発現を抑制または過剰にし、その後の全遺伝子の発現変化を、マイクロアレイを用いて解析しました。その結果、Ataxin-2は、標的mRNAの安定性を促進することが分かりました。さらにレポーターアッセイなどを通して、Ataxin-2が直接mRNAに結合することが、安定化に必要不可欠であることが確かめられました。
もともとAtaxin-2は、遺伝性脊髄小脳変性症2型 (SCA2)の原因遺伝子産物として同定されたものです。SCA2は、ポリグルタミン病の1つであり、Ataxin-2中のポリグルタミン鎖が異常伸長しています。また、最近では、Ataxin-2中のポリグルタミン鎖の中等度伸長が、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の発症を高めることも知られています。今回、私達は、ポリグルタミン鎖の伸長が、Ataxin-2の機能に与える影響を解析しました。その結果、標的RNAは正しく認識できましたが、ポリグルタミン鎖が伸長するほどmRNAを安定化させる能力が低下することが分かりました。Ataxin-2の標的には、神経変性疾患と深く関連するTDP-43などが含まれていたことから、ポリグルタミン鎖伸長が、これら遺伝子の発現調節能を低下させることが、神経変性の一因になっている可能性が示唆されました。

 

URLhttp://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/rna/index.html