生化学・分子生物学

医化学

医療につながる生化学 “医化学”
  • 生化学・タンパク質機能解析・相互作用タンパク質の同定
  • 独自に構築するエネルギー代謝イメージングと生体への展開
  • 疾患関連遺伝子の同定と生化学を駆使した病態の解明
  • 私たちが同定した疾患関連分子を標的とする化合物スクリーニング系の構築、創薬につなげる研究
教授 高島成二
生化学・分子生物学講座 医化学
私たちは、”分子レベルの生物学的現象をまず新たに発見する探索的研究”を優先し、それを独自の生理機能解析系につなげることで、小さな発見を大きな生命機能に結び付けること、そして最終的には病態の理解や疾患治療につなげることを目標としています。主に標的とする疾患は心不全や虚血性心疾患など循環器疾患ですが、このような目的の達成には、循環器・心血管分野にとどまることなく、分野の垣根を越えた多くの研究者、研究機関との連携・協力が必須だと考えています。

小さな発見を大きな生命機能に結び付ける ~病態の理解と疾患治療を目指して~

心臓は刻々と変化する全身の循環血液需要に対応して即座に適応しなければならず、全身の臓器の中でも最もエネルギー(ATP)を消費します。私たちは昨年、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生の新規調節分子(Higd1a)を発見し報告しました[1]。Higd1aは低酸素環境で発現が誘導され、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体IV(チトクロームcオキシダーゼ)に結合して、エネルギー産生効率を上昇させます。酸素を利用したミトコンドリアにおけるエネルギー産生は高等生物の根幹的機構であり、その異常は神経変性疾患やミトコンドリア病など多様な臓器障害を呈することが知られています。現在、この研究を展開させ、チトクロムCオキシダーゼの活性を上昇するHigd1aのような働きをする薬の開発を進めています。またATP産生の中心であるミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を担う複合体の生化学的解析から、私たちの研究室ではin vitro, in vivoにおける心臓ミトコンドリアATP動態の可視化技術を確立し、ATP産生制御因子G0S2を同定しました[2]。G0S2タンパク質のATP産生制御メカニズムとタンパク質分解制御メカニズムの解明を進めると同時に、G0S2タンパク質を標的としたユニークな化合物スクリーニングシステムを構築し、ATP産生を増強する創薬候補化合物のスクリーニングも行っています。

心臓病の終末状態である重症心不全は未だに大きな医学的、社会的課題であり、最先端医療を享受できる重症心不全患者は一握りです。私たちの研究室では、心不全患者さんの組織を使った解析により、世界で初めて心臓特異的なミオシン軽鎖のリン酸化酵素を発見しました[3]。心筋ミオシン軽鎖のリン酸化は心筋収縮性を増強する生理的因子として知られており、神経体液性因子の活性化や心筋酸素消費量の増加を伴わずに強心作用を発揮します。そこで私たちはミオシン軽鎖のリン酸化状態を制御する複数のタンパク質を標的とした化合物の開発を進めています。従来の強心薬と異なり心不全患者の予後を悪化させず、重症心不全患者のADLを改善できる新しいタイプの経口強心薬を目指します。

【文献】

1. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Feb 3;112(5):1553-8.
2. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Jan 7;111(1):273-8.
3. J Clin Invest. 2007 Oct;117(10):2812-24.