ゲノム生物学

器官システム創生学

命を救う細胞の革命―オルガノイド医学の光明
  • 幹細胞生物学や発生生物学分野の最新知見を駆使して、ヒトiPS細胞から複雑臓器を形成するための細胞操作技術を開発します。
  • 疾患模倣システムを通じて非アルコール性脂肪肝炎や薬剤性肝障害などの病態を再現・理解し、創薬開発に貢献します。
  • 情報科学などの手法を組み合わせ、人工臓器モデルを用いることで人類の疾患多様性に迫る個別化医療の実現を目指します。
  • 人工臓器や移植医療を通じて重篤な肝疾患に対する再生医療の可能性を追究します。
教授 武部貴則
ゲノム生物学講座 器官システム創生学教室
末期臓器不全への治療手段を生み出すべく、私たちはiPS細胞から複雑器官形成を実現する細胞操作技術を開発します。さらに、臨床医学への還元を目指して、人工的に誘導した器官を活用し、個別化医療・創薬・再生医療への道を切り拓きます。

器官システム創生を武器に新たな医療を開拓

末期臓器不全 ― 移植医療が唯一の救いとされる様々な病の終末像。ドナー臓器の不足は極めて深刻です。私たちの研究室では、この課題に立ち向かうため、ヒトのiPS細胞から立体的な臓器、オルガノイドと呼ばれる人工的な器官を創出する革新的な研究を進めています。

2013年、私たちはヒトiPS細胞から肝臓の原基である「肝芽」を人工的に誘導する技術を開発しました。この技術により、重篤な肝不全を持つ患者の命を救う可能性が示されました。さらに、2019年には、肝臓と十二指腸をつなぐ胆管含めて、複数の臓器を連続的に再建する「多臓器連結再生」の概念実証に成功し、長期的な肝機能の維持に必要な胆道再建の技術を確立しました。これは、将来の再生医療における重要な基盤技術となると考えられます。

さらに、私たちは疾患研究にもこの技術を応用し、非アルコール性脂肪肝炎や薬剤性肝障害、ウイルス感染症などの病態を再現するシステムを構築し、創薬開発に貢献しています。2022年には、脂肪性肝疾患の遺伝的要因を解明し、個別化医療への道を開きました。

私たちの研究室では、要素還元的に分子・細胞レベルで生命現象を捉える基盤を持ちつつも、より系統的な視点に立って、多細胞―多組織―多臓器―多システムへと、より高次の反応を再現した新たな疾患研究の機軸を築いています。さらに、多様性に満ちた人類の持つ個性が、どのように生まれているのか、という問に向き合っていきます。

このような複雑な器官形成技術を核として、情報・数理科学や工学技術などの叡智を結集し、臨床医学への実質的還元を目指す新しい医療概念―オルガノイド医学の実現へ向けて研究開発を進めていきます。

【主な研究成果】
1. Takebe T, et al. Nature, 499, 481–484, 2013.
2. Camp JG, et al. Nature, 546, 533–534, 2017.
3. Koike H, et al. Nature, 574(7776):112-116, 2019.
4. Takebe T, Wells JM. Science, 364 (6444), 956-95, 2019.
5. Kimura M, et al. Cell, 185(22):4216-4232.e16, 2022.
6. Kawakami E, et al. Cell Stem Cell, 30, 1315–1330, 2023.