情報統合医学

精神医学

精神疾患の解明と治療法の開発を目指す多角的研究
  • 臨床症状、心理検査、生理学的検査、画像検査、血液や脳脊髄液の解析、遺伝子解析、iPS細胞などの多角的な研究アプローチ
  • 基礎研究と臨床研究の成果をもとに疾患バイオマーカーを開発
  • 質の高い臨床研究と、臨床ガイドラインの作成
  • 認知症・統合失調症・健常者の臨床データーベースの構築
  • アルツハイマー病や前頭側頭型認知症の発症分子メカニズムの解明
教授 池田学
情報統合医学講座 精神医学
私が8代目の教授に就任し、新たな研究体制を構築しつつあります。当研究室は、質の高い臨床を基盤とした臨床研究を展開する一方で、最先端の生物学的研究の伝統を有しています。精神医学は未解明の問題も多いため、基礎と臨床の幅広い課題に対応する研究と人材育成を行っていきます。

質の高い臨床活動に支えられた臨床研究と臨床データーベースの構築
そして多角的な生物学的研究と臨床の融合

当研究室では認知症や統合失調症、睡眠障害、発達障害などを中心に、質の高い臨床活動を行っています。これを基盤に各種の臨床データーベースを構築しています。正確な臨床診断、神経心理検査、画像検査、血液・髄液・遺伝子検査や生理検査などの結果が蓄積されています。正常圧水頭症のデーターベース(SINPHONI)からはL-Pシャント術の有用性を示すエビデンス[1]が得られ、国際的なガイドラインの改定につながりました。統合失調症などの精神疾患についても、さらに多様な表現型を含むデーターベースCOCOROを構築してており、様々な知見が得られています。例えば統合失調症においては淡蒼球(たんそうきゅう)体積が左優位に大きいことを発見しました[2]。治療抵抗性統合失調症の治療薬であるクロザピンによる副作用の無顆粒球症は、臨床現場では大きな問題です。このリスクに関連するHLA(ヒト白血球抗原)遺伝子型をGWAS(ゲノムワイド関連解析)により同定しました[3]。

ICT(情報通信技術)を使うユニークな研究もしています。認知症ケアのための情報収集・蓄積とグッドプラクティス自動抽出システムの開発を行っています(認知症ちえのわnet)。次世代インフラとして注目され、首相官邸のホームページでも取り上げられました。

認知症や統合失調症は患者数が多い疾患にもかかわらず、その発症メカニズムはほとんど明らかにされていません。これらを解明する基礎研究を行っています。アルツハイマー病の中心病理であるAβ(アミロイドβタンパク質)については、その産生機構について一連の先駆的な研究[4,5]を行っています。現在これらの成果を応用した疾患バイオマーカーの開発も進めております。またアルツハイマー病理を出現しやすい体質をもつマウスを網羅的に解析することでAβ蓄積規定遺伝子産物KLC1vEを発見しました[6]。前頭側頭型認知症については発症原因遺伝子C9orf72の機能解析として、ジペプチド(アミノ酸が二つつながったもの)合成という予想外の現象を発見し、多方面から注目されています[7,8]。

詳しい研究内容や最新の情報は医局ホームページもご参照ください。

【文献】

1. Kazui et al. Lancet Neurol.14(6):585-594, 2015.
2. Okada et al. Molecular Psychiatry 21, 1460–1466, 2016.
3. Saito et al. Biological Psychiatry 80(8):636-42, 2016.
4. Okochi et al. EMBO J 21(20):5408-16, 2002.
5. Okochi et al. Cell Rep 3:42–51, 2013.
6. Morihara et al. PNAS 111(7):2638-43, 2014.
7. Mori et al. Science 339(6125):1335-8, 2013.
8. Mori et al. EMBO Reports 17(9):1314-25, 2016.