生化学・分子生物学

遺伝学

オートファジーの謎に迫る
  • 特異な膜動態を伴う細胞内大規模分解系オートファジーの分子機構の解明
  • 様々な病態におけるオートファジーの関与の解析
  • オートファジーの寿命延長作用の機序解明
  • オートファジーを標的とする治療戦略の開発
生化学・分子生物学講座 遺伝学
遺伝学教室は、初代吉川秀男先生のあと、大久保舜三先生、本庶祐先生、吉川寛先生、長田重一先生から現在へと続き、6代を数えます。現在、当研究室では細胞生物学的研究を行っています。

イメージング、細胞工学、分子生物学、生化学などの多角的アプローチにより、謎多きオートファジーの分子機構と病態抑制機能を明らかにする

当研究室の研究テーマであるオートファジーとは、膜構造オートファゴソームによって細胞質の物質を囲い込み、リソソームに運び分解する細胞内メンブレントラフィックの一経路です。

図1オートファジーの過程

オートファジーの発見は1950年代に遡りますが、その分子基盤は永く不明のままでした。その状況を打破したのが、1993 年の大隅良典東京工業大学栄誉教授による酵母オートファジーの分子機構解明でした。このブレイクスルーを端緒にオートファジーの理解が急速に進み、オートファジーの生理的病理的重要性が明らかになったため、大隅博士は2016年ノーベル生理学医学賞を受賞されました。

この10年にオートファジー分野は劇的に発展しましたが、多くの研究は哺乳類を対象としています。オートファジーは細胞内浄化により細胞の恒常性を維持し、感染症、腎症、脂肪肝、炎症性疾患、神経変性疾患、発がん、心不全などの多岐に亘る疾患を抑制していることが明らかになってきました。さらには寿命延長にも関わります。当研究室教授の吉森は、1996年の大隅研発足時に助教授として招かれ、大隅博士の発見を哺乳類に拡大し哺乳類オートファジー研究の基礎作りに貢献しました。例えばオートファゴソーム結合タンパク質LC3を同定しオートファジー動態のイメージングを可能にしたことで、研究は飛躍的に進みました。当該論文の被引用数は4,000を超え分野で1位です。最近には分野最大の謎として永年論争の的となってきたオートファゴソームの起源について、小胞体とミトコンドリアの接触部位が形成の場であることを示しました。私たちはオートファジーが病原性細菌の排除も行うことを世界に先駆け報告し、その解析から選択的なオートファジーが存在することも明らかにしました。

また障害を受けたリソソームを除去する選択的オートファジーを新たに見出し、それが高尿酸血症性腎症の抑制に重要であることを腎臓内科との共同研究で示しました。私たちが同定したオートファジー抑制因子Rubiconの増加が高脂肪食摂取による非アルコール性脂肪肝発生の主要因であることも消化器内科との共同研究で突き止めました。現在は、まだ不明の点が多いオートファジーの分子機構解明を進めると同時に、本研究科附属オートファジーセンターにおいて多くの臨床教室と分野横断的共同研究を展開し、病態との関わりのメカニズムを明らかにし治療戦略を開発することを目指しています。

図2 細胞内に侵入したA群レンサ球菌を捕捉するオートファゴソーム