生化学・分子生物学

組織生化学

細胞と組織分化を制御して病気を治す
  • 骨と軟骨ができるしくみを調べ、理解する
  • 関節軟骨損傷の新しい治療方法を開発する
  • 成長軟骨障害の治療薬を開発する
教授 妻木 範行
生化学 分子生物学講座・組織生化学
骨格は軟骨から作られ、軟骨には関節軟骨と成長軟骨があります。関節軟骨の異常は、関節運動障害を、成長軟骨の異常は骨格の成長障害を引き起こします。これら軟骨疾患の治療は難しく、長年にわたりチャレンジングなテーマです。当研究室では生化学、分子生物学、組織学の技術を用いて、軟骨の形成・分化を制御するしくみを調べ、軟骨疾患の病態解明を試みています。そしてiPS細胞技術を使った新しい軟骨再生治療と創薬開発を行っています。

細胞と組織分化のしくみを分子レベルで理解し、病態の制御につなげ、疾患の新しい治療方法の開発をめざす

動物が体を動かすには骨格と関節が欠かせません。それらは軟骨で作られます。そのため軟骨の疾患では骨格形成や運動機能が障害されますが、多くの軟骨疾患には根治的な治療方法がありません。

軟骨は軟骨細胞と細胞外マトリックスからなる組織(tissue)です。軟骨が正常な機能を果たすには、細胞だけでなくマトリックスも必要です。当教室では軟骨の組織ができるしくみを知るため、軟骨細胞シグナルとマトリックス形成に重要な遺伝子の機能を調べる基礎研究を行っています(J Cell Biol 1996; 1999; 2004; J Clin Invest 2011; Nature Commun 2016)。主には遺伝子改変マウスを用いてその表現型を生化学的・分子生物学的・組織学的手法を用いて分子レベルで解析します。そして、これらの研究で得た知見を元にして様々な軟骨疾患を根本的に治す治療方法の開発研究を行っています。

私たちは軟骨の基礎研究で得た知識を使って、iPS細胞から軟骨細胞を分化誘導し、さらに軟骨細胞外マトリックスを作って軟骨組織を作り出す方法を開発しました(Nature 2014; Stem Cells Transl Med 2020)。関節軟骨損傷に対しては、iPS細胞由来軟骨を移植することで再生治療する臨床応用を行っています。また、骨系統疾患に対しては、患者由来iPS細胞から軟骨を作り、根治的な治療薬を探索する創薬研究を行っています(Osteoarthritis Cartilage 2018; Sci Rep 2020)。

教室では、軟骨をはじめとする研究対象を細胞だけでなく細胞外マトリックスを含めた組織として捉え、組織が分化するしくみを生化学・分子生物学的手法を駆使して分子レベルで調べる研究を行います。教室名の組織生化学(Tissue Biochemistry)には、その意味がこもっています。生命現象を調べる手法は、遺伝子改変マウス、iPS細胞技術、遺伝子編集、そしてシングルセルRNAシークエンスが開発され、それまで調べられなかったことが調べられるようになってきています。疾患のしくみを解き明かし、責任病態を標的とした、本当に効くこれまでに無かった治療方法を科学的に開発することが期待されます。