共同研究講座

医薬分子イメージング学

前臨床から臨床へ~生体イメージングで医薬品開発を促進する
  • ドラッグ・ラグ(Drug lag)と分子イメージング
  • 放射性核種標識による医薬品候補化合物の体内分布の可視化
  • 医薬品候補化合物の定量的評価
  • 分子イメージングの臨床試験・治験への応用
  • PET・SPECTマイクロドーズ臨床試験体制の構築

医薬品開発のトランスレーショナル・リサーチ(Translational Research)を推進する

創薬の分野では、開発された医薬品が患者さんに届くまで膨大な時間と費用が必要であり、Drug lagと呼ばれて問題になっています。分子イメージングは、生体内で作用する分子の動きを画像化し、機能を評価する方法で、医薬品の候補化合物や誘導体の構造を変えずに可視化し、少数の動物や母集団で薬物動態や薬効を効率的に評価することができます。単光子を用いたシンチグラフィーや断層撮影法(SPECT)、陽電子断層撮影法(PET)は放射性核種で体内分子や医薬品を標識し、定量的かつ生理的な状態で画像化する最も有効な核医学的手法です。一例として、認知症治療薬である塩酸ドネペジル(アリセプト®)のラットと健常人の生体イメージングを示します。

この医薬品は脳が標的臓器ですが、実際には脳への分布量は少なく、かつ心臓や肝臓への分布に種差があることが明らかとなりました。

また、放射性化した医薬品や誘導体化合物では、体内分布や投与量を動態的に測定することにより、数理モデルを用いて組織分布量を定量的に測定することが可能です。われわれは難治性悪性腫瘍のホウ素中性子捕捉療法において、治療薬であるB-10 BPA-フルクトース(fructose)の誘導体F-18 FBPAのイメージングを用いてB-10の正常臓器への分布量の変化を定量的に推定しました。

その結果、中性子を照射した時に発生する正常臓器の障害は照射を開始する時間に依存し、特に尿路系臓器では障害が大きくなることが予想されました。

臨床試験や治験では、非放射性と放射性の医薬品を同時に投与し、競合させることにより、薬効が飽和状態になる限界量を計測し、副作用が発現しない適正な用量を効率良く決定することができます。さらに、対象症例のスクリーニングや治療効果判定のバイオマーカーとして微量の放射性化合物を用いたPET・SPECT製剤が診断に応用されています。これらはPET・SPECTマイクロドーズ臨床試験と呼ばれています。前臨床研究で探索された医薬品候補化合物や診断用イメージング製剤を臨床研究に展開し、社会に還元するべく、私たちは大阪大学医学部附属病院核医学診療科においてマイクロドーズ臨床試験体制を確立し、短半減期のPET核種をGMP準拠下で安定的かつ高い品質で製造し、精度管理された装置で安全に検査する仕組みを構築しました。このように当研究室では前臨床から臨床へ繋がる医薬品候補化合物の開発と支援に取り組んでいます。