放射線統合医学

放射線治療学

「切らずに治す」放射線治療
  • 放射線治療に関する臨床研究 (特に、高精度放射線治療、小線源治療、粒子線治療における臨床試験)
  • 医学物理 (効果的な低侵襲治療を目的とした放射線治療における物理的最適化)
  • 放射線生物 (治療効果予測、放射線増感、合併症治療等の新規放射線治療法の開発)
教授 小川和彦
放射線統合医学講座 放射線治療学
近年、「切らずに治す」放射線治療が注目されるようになり、日本でも、癌治療において放射線治療を受ける方が大変増えています。最新式の放射線治療機器を使用した高精度放射線治療、小線源治療、粒子線治療により、現在可能な最高の放射線治療を行うと同時に、治療を受ける方々に合わせた至適と考えられる治療を行うための研究を行っています。当科の研究内容は、臨床研究、医学物理、放射線生物の3分野に分かれますが、それぞれ最先端の研究を精力的に行っています。

「低侵襲」かつ「効果的」 ~新たな時代の放射線治療を創造する~

放射線生物学的効果を考慮した新たな線量評価指標:Radiobiological Gamma Index

強度変調放射線治療や定位照射のような高精度放射線治療では、正確に患者に照射できるかを判断するために治療開始前に線量検証を行います。その物理的評価指標として3次元Gamma index を用い、線量誤差および線量分布の空間的位置誤差を判定して合格点を設けています。施設で予め決めた合格点を超えたものに対して患者へ治療を施しています。合格点に達しない場合、これまでは医学物理士が放射線腫瘍医と議論し、治療開始の可否を臨床的に判断していました。これでは定量評価が伴わず主観的要素の強いものであるため、定量的かつ客観的に判断を下すための指標が必要となりました。そこで、私たちは物理的に不合格点となった臓器のある部分の線量が放射線生物学的に許容できるか否かを再評価可能な新たな指標を提案しました[1-3]。これがRadiobiological Gamma Index (RGI)です。腫瘍が放射線量によってどれだけ制御できるか(Tumor control probability: TCP)および正常組織が放射線量によってどれだけ障害が発生するか(Normal tissue complication probability: NTCP)を採用し、従来の物理的線量評価に加え、放射線生物学的評価も組み込んだ指標としています。本指標を適用すればこれまでの医学物理的要素に臨床的要素も加え融合した評価が可能となります。

放射線と腫瘍免疫療法の併用療法に関する研究

放射線治療は従来悪性腫瘍に対する局所治療としてのツールあるいは、骨髄移植前のコンディショニングレジメンとしての免疫抑制を目的とした全身照射として用いられてきました。その一方で、放射線の照射される領域外でも腫瘍の縮退が見られることも極めて稀に起こることも報告されてきました。この効果はAbscopal効果と呼ばれています。私たちは、免疫チェックポイント阻害剤やサイトカインなどの腫瘍免疫療法で用いられる薬剤と放射線を用い、骨肉腫マウスモデルでAbscopal効果を効率に引き出すことができ、遠隔転移も著明に抑制できることを見出しました[4]。他のがん種でも同様なことが起こるかどうか、Abscopal効果のメカニズムを解明することで、意図的な誘導あるいは誘導できるかどうかの予測法の開発を行っています。また、最適な照射レジメンを構築し、将来臨床試験につなげる橋渡しを試みています。

がん幹細胞における放射線耐性に関する研究

近年、がん細胞の中でもがん幹細胞ががんの放射線治療を含めた治療抵抗性、再発、転移に関わっていることが示されており、がん幹細胞の駆逐が放射線治療にとっても重要であると考えられています。私たちは、がんの細胞株にZsGreen-ODC-degronを導入することでがん幹細胞を可視化し、それらが放射線抵抗性であることを示しました[5,6]。今後はさらにがん幹細胞のオミックス解析による放射線治療抵抗性機序の解明を行い、新たな放射線治療の開発につなげていきたいと考えています。

【文献】

1. Sumida I, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys.; 92(4):779-86, 2015.
2. Sumida I et al. J Radiat Res.; 56(3):594-605, 2015.
3. Kurosu K, et al. J Radiat Res.; 57(3):258-64, 2016.
4. Takahashi Y, et al. Submitted.
5. Tamari K, et al. Int J Oncol.; 45(6):2349-54, 2014.
6. Hayashi K, et al. Int J Oncol.; 45(6):2468-74, 2014.