外科学

呼吸器外科学

地域医療に貢献し、世界に発信する 阪大呼吸器外科
  • 1. 癌周囲微小環境を標的とした肺癌治療の開発
  • 2. 外科切除検体を用いた腫瘍内リンパ球の解析
  • 3. 脂肪幹細胞・iPS細胞を用いた肺再生の研究
  • 4. 肺移植虚血再灌流傷害に対する新規治療の開発
  • 5. Arl4cを標的とした新規肺癌治療薬の開発
教授 新谷 康
外科学講座 呼吸器外科学
阪大呼吸器外科は単独講座として平成19年(2007年)に開設され、令和元年(2019年)より私が診療科長を担当しています。最善の呼吸器外科医療を提供するとともに、これまでの基礎研究の実績に基づくトランスレーショナルリサーチの実践に力を入れ、先進医療の開発・普及に努めていきます。

Bedside-to-Bench, Bench-to-Bedside ~双方向の医療・研究を実践

🔹 癌微小環境を標的とした肺癌治療の開発

癌周囲に存在する線維芽細胞は正常肺部の線維芽細胞に比して活性化しており癌関連線維芽細胞とよばれ、癌細胞の生存や悪性化に重要な役割を果たしています。腫瘍間質の主成分である癌関連線維芽細胞よりIL-6などの炎症性サイトカインが産生され、TGF-βと相乗的に作用し腫瘍悪性化、治療抵抗性に適した癌周囲微小環境へ変化します。とくに抗癌剤や放射線療法によって癌関連線維芽細胞が増加し、癌細胞が上皮間葉移行によって転移しやすくなり、また癌幹細胞様形質を獲得し治療抵抗性を獲得することを報告しました。したがって、この腫瘍悪性化に関与するサイトカインループを制御することで固形癌治療だけでなく癌幹細胞様形質獲得を阻害し治療抵抗性の克服につながる可能性を示しました。線維芽細胞や炎症細胞を中心とした癌周囲微小環境の構築のメカニズムを解明することで、新たな癌治療の開発につなげていきたいと考えています。

 

🔹外科切除検体を用いた腫瘍内リンパ球の解析

現在、手術・放射線治療・化学療法の他に、がん治療の新たな選択肢としてがん免疫治療への期待が高まっています。肺がんではがん免疫治療は標準治療の一つとなっています。これまでの研究から、がん免疫応答には制御性T細胞(Treg)、骨髄由来抑制細胞(MDCS)、腫瘍関連マクロファージ(TAM)などの様々な免疫担当細胞が複雑に関係していることが分かってきました。また、腫瘍側にもT細胞からの攻撃から逃れるためPD-L1などの免疫逃避メカニズムが存在します。我々は、肺がん、胸腺上皮性腫瘍の手術検体を用いてがん免疫に関わる様々な細胞の詳しい解析を行い、がん免疫制御機構を解明し新たな免疫治療のターゲットを開発する研究を行っています。胸腺腫瘍の免疫プロファイリングを行うと、WHO組織型別に免疫治療の有効性が異なり、B3/Cでは免疫治療が有効となる可能性が示唆されました。

 

🔹 脂肪幹細胞を用いた肺再生医療の開発

呼吸不全の状態が長期に続くものは慢性呼吸不全といわれ、その中では慢性閉塞性肺疾患(COPD)が約半数を占めます。近年、成人肺でも解剖学的、生理学的に改善が認められることが報告され、肺実質の再生が可能であることが示唆されました。我々は、慢性呼吸不全に対する治療手段の可能性の一つとして、HGFに注目しCOPD動物モデルを用いてHGFの外的補充による肺気腫の病態改善の可能性を示してきました。さらに、肺気腫モデルに対する脂肪組織由来幹細胞(ADSC)の投与により、肺における内因性HGFの持続的な増加が得られました。肺切除とともにADSCシートを手術部位に貼付することで、ADSCから分泌されたHGFにより肺胞が再生することを報告しました。またADSCは適切な分化誘導法によってⅡ型肺胞上皮へ分化することを示し、肺損傷修復の過程で細胞供給源になる可能性を明らかにしました。図はGFP-ADSCが肺胞上皮マーカーをin vitroでもin vivoでも発現していることを示しています。今後、肺固有の成長因子、幹細胞の同定に加え、遺伝子導入といった再生因子の補充法、間葉系幹細胞を用いた細胞治療、そして肺自体を作りだす生体組織工学について研究していきたいと考えています。