第3研究室

ごあいさつ

第三研究室メンバー

ようこそ、第3研究室へ!

「第3研究室の目指すところ」

 血糖が少し高いだけ、血圧が少し高いだけ、中性脂肪が少し高いだけ、HDL-コレステロールが少し低いだけなど、これらのパラメーターが異常を示していても「死」には直結しません。どうしてでしょうか?それは、1つ1つはちょっとしたリスクなのですが、内臓脂肪蓄積をベースに、これらが一個人に集積してくると、動脈硬化症が惹起され進展することで、最終的には「死」に至ります。私達は、「内臓脂肪と動脈硬化症」をkey wordに研究を進め、内臓脂肪と動脈硬化症を直接繋ぐ分子「アディポネクチン」を発見し、ヒトにおける意義そしてその機能解析を世界に先駆けて行ってきました。

 臨床内科教室に属する当研究室はヒトに還元できる医学・医療を目指しています。その中でも、メタボリックシンドローム、動脈硬化症、2型糖尿病といった「生活習慣病」をターゲットとし、新しい診断方法・治療法の開発・ 発展や予防医学に広く寄与したいと考えています。科学の進歩に伴い基礎的な研究が重視される風潮にあります。しかしながら、私達は、研究者である前に、医療従事者として、医師として、患者さんの立場に立って考え判断できるチームでありたいと思います。「健康に貢献する臨床研究」「夢のある基礎研究」を目指し、研鑽を積み重ねています。

「温故知新」

 当研究室の源流は1970年代にまで遡ることができます。旧第二内科垂井清一郎教授時代に循環器研究室と脂質研究室とが統合され、「循環器・脂質研究室」が発足しました。日本で最も早くから肥満の研究を始めており、「肥満外来」を創設し多数の肥満症例の解析を始めていました(肥満外来は西川光夫教授の時代から始めており、慶応大学に継いで2番目に創設されました)。松澤佑次前教授らは、CTによりヒト脂肪組織分布と病態の関連を1980年代に明らかにし、「内臓脂肪型肥満」、「内臓脂肪症候群」という病態を世界に先駆けて提唱しました。この病態概念が、今日の「メタボリックシンドローム」に繋がりました。

 1990年代の松澤佑次教授時代には、「内臓脂肪型肥満」の病態形成に分子基盤を見出す目的で、大阪大学細胞工学研究センターとの共同研究のもと、脂肪組織の蓄積部位別大規模発現遺伝子解析を行いました。その結果、 エネルギーを蓄えているだけの組織と従来考えられていた脂肪組織が、「アディポネクチン」をはじめとする「多彩な分泌蛋白遺伝子」を発現している巨大な「内分泌臓器」であるという新知見を得ました。このような脂肪細胞分泌因子を「アディポサイトカイン」と総称し、内臓脂肪蓄積時に生じる病態形成の分子基盤としてアディポサイトカインの分泌異常の存在を明らかにしました。

 1997年未来開拓研究に採択され、ヒト脂肪組織から発見した新規分子「アディポネクチン」「アクアポリン・アディポース」などに関して、基礎的・臨床的研究成果を次々と発表し、「内臓脂肪の分子機構」として 2001年ベルツ賞を受賞するに至りました。

 2002年4月からは、船橋徹をグループリーダーとした「アディポサイエンス研究室」が独立・誕生しました。メタボリックシンドロームの病態解明には、脂肪細胞(Adipocytes)科学(Science)することが必須であることから、「Adiposcience」という名称にしました。2003年から5年間、特定領域研究「アディポミクス、脂肪細胞の機能世界と破綻病態の解析」に採択され、さらなる研究を進めることが出来ました。

 そして、2009年4月からは、大阪大学内分泌・代謝内科学「第三研究室」として新たな一歩を歩み出しました。

 動静として、2010年7月に研究室OBの大内乗有先生が名古屋大学大学院 医学系研究科分子循環器学寄附講座教授に、同年8月に木原進士先生が大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻生体情報科学講座教授に、それぞれ着任しました。2011年4月、船橋徹先生が大阪大学大学院医学系研究科代謝血管学寄附講座教授に就任しました。2023年4月、前田法一先生が近畿大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科主任教授に就任しました。

 また、当研究室の成果は様々な形で高く評価されております。2010年以降の主要な受賞歴は以下の通りです。

  • 2010年 小村徳幸:平成21年度博士課程優秀者

  • 2010年 前田法一:日本肥満学会学術奨励賞
  • 2012年 前田法一:日本内分泌学会研究奨励賞
  • 2014年 堰本亮平:日本動脈硬化学会総会・学術集会優秀ポスター賞
  • 2015年 西澤均 :日本肥満学会学術奨励賞、藤島裕也:日本内分泌学会若手研究奨励賞およびアディポサイエンス・シンポジウム若手優秀研究奨励賞、夏川知輝:日本救急医学会優秀演題賞
  • 2016年 長尾博文:日本糖尿病学会若手研究奨励賞および日本内分泌学会若手研究奨励賞
  • 2017年 小幡佳也:日本糖尿病学会若手研究奨励賞、日本内分泌学会若手研究奨励賞および日本肥満学会若手研究奨励賞
  • 2018年 藤島裕也:万有医学奨励賞最優秀賞、福田士郎:第39回日本肥満学会Kobe Award
  • 2019年、中村勇斗:日本肥満学会若手研究奨励賞
  • 2020年、中村勇斗:日本内分泌学会若手研究奨励賞
  • 2021年、清水有理:日本糖尿病学会若手研究奨励賞、長尾博文:日本学術振興会海外特別研究員
  • 2022年、藤島裕也:日本内分泌学会研究奨励賞、堀谷恵美:日本糖尿病学会若手研究奨励賞、川知祐介:日本内分泌学会若手研究奨励賞
  • 2024年、河田慶太郎:第27回アディポサイエンス・シンポジウム若手優秀研究奨励賞

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研究内容紹介

1.アディポネクチン~臨床研究~

 当研究室は、大塚製薬との共同研究によりアディポネクチンELISA測定法を樹立しました。これまで様々な病態・疾患において血中アディポネクチン濃度を検討し、その臨床的意義を報告してきました。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるにもかかわらず、肥満で低下することが最大の特徴です。これまで、冠動脈疾患や2型糖尿病で血中アディポネクチン濃度が有意に低下していることを世界で初めて報告し、様々な疾患におけるアディポネクチンの臨床的意義を検討してきました。また、薬剤が血中アディポネクチン濃度に及ぼす影響を臨床的にも検討しており、臨床医や製薬会社も興味の持たれている分野でもあります。さらに、近年明らかになってきたアディポネクチンの結合分子である膜タンパク質のT-カドヘリンが、血中にも存在することを示しました。この可溶性T-カドヘリン血中濃度測定系を開発し、各種疾患や病態との関係、そして血中アディポネクチン濃度との関連性に関して、新たな臨床研究を展開しています。

2.アディポネクチン~基礎研究~

 当研究室は、世界に先駆けてアディポネクチン欠損マウスを樹立し、その病態解析を進めてきました。アディポネクチン欠損マウスは普通に飼育していても、野生型マウスと表現型はなんら変わりません。しかし、様々な負荷により野生型マウスに比してアディポネクチン欠損マウスはより重篤な表現型を呈し、まさに「生活習慣病モデルマウス」であると考えております。本マウスを解析することで、アディポネクチンの本質に迫りたいと考えています。また、アディポネクチンを上昇させるような薬剤や分子は、メタボリックシンドロームの新たな治療展開に繋がるものと考えており、様々なアプローチによりそのような物質を探索しております。これまでに、低アディポネクチン血症改善剤として、チアゾリジン誘導体などのPPARs agonist、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などを報告してきました。

 近年、アディポネクチンが血管、心臓、筋肉、腎臓、網膜といった組織に多く集積していることを見出しました。そして、このアディポネクチンの組織集積は、T-カドヘリンを介することを明らかにしました。複数のGWASにおいて、 T-カドヘリン遺伝子近傍のSNPが、血中アディポネクチン濃度に強く相関すること、心血管疾患発症に有意に関連することが報告されています。以上のことから、アディポネクチンの重要な結合パートナーとしてT-カドヘリンに着目して研究を進めています。最近、アディポネクチンが、T-カドヘリンを介して、エク ソソーム生合成・分泌を促進していることを明らかにしました。これまで、アディポネクチンの様々な生理作用を示して来ましたが、その共通する分子基盤は明らかではありませんでした。多彩なアディポネクチンの生理作用は、アディポネクチン・T-カドヘリン・エクソソーム経路で説明しうる可能性が考えられます。また、間葉系幹細胞においても、アディポネクチン・T-カドヘリン・エクソソーム経路が存在することから、幹細胞治療・再生医療への応用を目指した研究も展開しています。

 このように、アディポネクチンはこれまでの内分泌因子やサイトカインとは異なる特性を有しており、「新しい内分泌学」を提唱したいと考えています。

3.内臓脂肪~臨床研究~

 「内臓脂肪」をキーワードに様々な臨床研究を進めております。これまでに、簡便に内臓脂肪を測定できる機器の臨床応用を示しました。また数千人の内臓脂肪とメタボリックシンドロームとの関連性を解析しました。睡眠時無呼吸症候群との関連、冠動脈CTを用いた冠動脈病変や性状との関連、マイクロアレイを利用した末梢血発現遺伝子との関連、CTによる1万人の内臓脂肪面積解析、厚労省戦略研究においては重症化ハイリスク群を対象とした積極的な積極的な保健指導の効果検証を行い、大学のみならず多施設共同でも研究を推進しております。

 最近では、食行動・食嗜好に関する分析を通じて、新たな栄養指導・療養指導法の確立を目指しています。当院での減量・代謝改善手術チームに参画し、チーム医療を推進するとともに、この食行動・食嗜好の側面からも臨床研究を展開しています。また、“運動は楽しめるものを”をキーワードに、スポーツを通じた運動療法の研究・確立に取り組み、蓄積した内臓脂肪を減少し効果的な予防医学に結びつけられるよう努めています。

 当研究室では、大阪大学大学院医学系研究科 健康スポーツ科学講座(中田 研 教授)が中心となって取り組んでおられる「Cyber Sports Complex(CSC)構想」を応援しています。構想実現に向けたグラウドファンディングのご案内はこちら

4.脂肪組織をはじめとする慢性臓器障害における分子生物学~基礎研究~

 これまで、アディポネクチンと平行して「アクアポリン・アディポース(アクアポリン7)」という脂肪細胞におけるグリセロールチャネルについても研究してきました。アクアポリン・アディポース欠損マウスの解析により、脂肪細胞由来グリセロールが糖新生基質の1つであること、本分子は肥満形成に重要な役割を果たすことを見出しました。アクアポリンノーベル化学賞を受賞した分子でもあり、私達の研究も世界的に高く評価されております。

 一方、アディポネクチン以外にも脂肪細胞は多彩な分泌蛋白を産生しております。このような蛋白の中には未だにその機能が不明なものも数多く存在しています。これら機能未知の分子を脂肪細胞において解析することは、メタボリックシンドローム発症・進展における新たな分子基盤の発見に繋がり、臨床に応用することが可能となります。そのような視点で、脂肪細胞の解析を進めてきました。例えば、S100A8という新たなアディポサイトカインを同定し、ヒトにおける病態意義を提唱しております。また、尿酸・核酸代謝物・グルタミン酸をはじめとする様々なメタボライトがメタボリックシンドローム病態にどのような役割を果たすのかという新たな視点で解析を始めています。特に、尿酸の産生に重要なキサンチン酸化還元酵素XORの血中での活性がNAFLD/NASHで上昇しており、動脈硬化症発症に関わる可能性を見出しております。

 我々がターゲットにしている臓器は、脂肪組織を基盤とし、血管、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓、網膜、膵臓など広範囲に広がってきており、多臓器間ネットワークの破綻とメタボリックシンドローム、動脈硬化症、2型糖尿病、慢性臓器障害の病態解明を目指しています。これらの基礎的研究を礎に、臨床への還元を目指しているものであります。

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メンバー紹介

西澤 均
Hitoshi Nishizawa
寄附講座准教授・病院教授
(代謝血管学寄附講座)
平成7年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医・指導医、日本肥満学会肥満症専門医・指導医、日本医師会認定健康スポーツ医、内分泌代謝・糖尿病内科領域専門研修指導医
藤島 裕也
Yuya Fujishima
助教(医学部講師)
平成18年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本医師会認定産業医
福田 士郎
Shiro Fukuda
助教
平成19年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本医師会認定産業医
小幡 佳也
Yoshinari Obata
助教
平成20年卒

博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医
長尾 博文
Hirofumi Nagao
寄附講座助教
(代謝血管学寄附講座)
平成20年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本医師会認定産業医

日本学術振興会海外特別研究員(2021年度)
~2023年3月 米国Joslin Diabetes Center and Harvard Medical Schoolに研究留学
沖田 朋憲
Tomonori Okita
医員
平成24年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医
堀谷 恵美
Emi Horitani
医員
平成25年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医
飯岡 雅仁
Masahito Iioka
大学院生
平成26年卒
専門医他:日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医
木村 優
Yu Kimura
医員
平成26年卒
専門医他:日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会専門医
藤井 浩平
Kohei Fujii
医員
平成26年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、内分泌代謝・糖尿病内科領域専門研修指導医
河田 慶太郎
Keitaro Kawada
医員
平成27年卒
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医
原 知之
Tomoyuki Hara
大学院生
平成27年卒
専門医他:日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会専門医、日本内分泌学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医
塩出 俊亮
Syunsuke Shiode
大学院生
平成28年卒
専門医他:日本専門医機構認定内科専門医、内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医
上原 雄平
Yuhei Uehara
大学院生
平成29年卒
専門医他:日本専門医機構認定内科専門医、内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医
飛松 亜宙
Aoki Tobimatsu
大学院生
平成30年卒
専門医他:日本専門医機構認定内科専門医
長井 直子
Naoko Nagai
大学院生
(大阪大学医学部付属病院 栄養マネジメント部所属)

近藤 雄太
Yuta Kondo
研究生

前田 法一
Norikazu Maeda
招聘教授
平成7年卒
. 近畿大学医学部 内分泌・代謝・糖尿病内科 主任教授
博士(医学)
専門医他:日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本肥満学会肥満症専門医・指導医、日本動脈硬化学会動脈硬化専門医・指導医、日本医師会認定産業医、内分泌代謝・糖尿病内科領域専門研修指導医
喜多 俊文
Shunbun Kita
招聘准教授
博士(医学)

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連絡先

西澤 均 にしざわ ひとし  TEL: 06-6879-3737

  第3研究室は、内臓脂肪蓄積を上流とした2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症、高尿酸血症などの代謝異常、そして動脈硬化症をはじめとする臓器障害を主たるターゲットにしています。臨床研究および基礎研究を通じて新たな医学・医療を私たちとともに創造してみませんか。第3研究室にご興味のある方は是非とも上記までご連絡下さい。

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