大阪大学大学院薬学研究科・薬学部 臨床薬物学講座
病院薬剤学 Hospital Pharmacy
Pharmacist-Scientist が創る
近未来の医療
個別化医療の構築・実践からドラッグリポジショニングまで
病院薬剤学分野の研究室は、大阪大学医学部附属病院薬剤部内にあり、医薬品の有効性・安全性確保と適正使用推進のため、薬物動態学、細胞生物学、疫学(症例対照・コホート)を基盤として、主に以下の臨床研究と基礎研究を目指しています。
当研究室では、大阪大学大学院医学系研究科 修士課程・博士課程及び薬学研究科 修士課程・博士課程の大学院生(社会人大学院生を含む)の受け入れを行っています。熱意ある薬剤師及び学生の見学・訪問をお待ちしています。
あなたもPharmacist-Scientist(薬剤師科学者)として最先端の臨床薬学研究に取り組んでみませんか?
メンバー
主な研究テーマ
- 基礎/臨床融合解析に基づくドラッグリポジショニング研究
- 薬物の血中濃度モニタリングと個別投与設計
- 薬効・副作用バイオマーカーに基づく新たな薬物治療戦略の開発
- 高品質な新規院内製剤の開発
- 薬剤業務の質的・量的評価と医療における薬剤師の役割
研究内容の概要は、下記のリンク先をご確認ください。
http://www.med.osaka-u.ac.jp/introduction/research/special/pharmacy
最近の主な研究成果
ドラッグリポジショニングによる抗がん剤の副作用に対する新規予防法の開発
臨床現場で直面する問題点・疑問点を薬物動態学的観点から追究し、医療ビッグデータ解析及び実臨床データを解析し、薬物トランスポータを介した薬物間相互作用を利用した抗がん薬の副作用に対する新規予防薬の開発に関する研究展開を行っている。最近では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の有機カチオントランスポータ2(OCT2)の阻害効果に着目し、FP(5-FU, CDDP)療法を施行された患者を対象に、シスプラチン(CDDP)の腎障害発症に及ぼすPPI併用の影響について後方視的に調査を実施し、PPI併用患者ではCDDPによる腎障害が顕著に軽減されるが血液毒性には影響しないことを見出した(Ikemuraら、Cancer Chemother Pharmacol. 79: 943-949, 2017, IkemuraらFront Pharmacol. 8: 911, 2017)。また、CDDP腎障害モデルラットを用いた検討においても、PPIの一種であるランソプラゾールの併用により、腎組織中へのCDDPの取り込みが低下し、腎障害が軽減することを示唆した(Hiramatsu ら、Biopharm Drug Dispos. 41(6):239-247, 2020)。さらに、FDA有害事象自発報告データベース(FAERS)解析、電子カルテ情報を用いた後方視的研究、ゼブラフィッシュを用いた基礎・臨床統合解析により、PPIはOCT2を阻害することでCDDPによる聴覚障害に対しても保護効果を示す事を明らかにし(特開2023-063850、Wakaiら、Front Pharmacol. 13: 896760, 2022)、PPIはCDDPの腎障害及び聴覚障害に対する新規予防薬となる可能性を示唆した。また、PPIのoff-target効果である抗炎症作用にも着目し、後方視的調査からカペシタビン誘発性手足症候群やオキサリプラチン誘発性末梢神経障害に対してPPIが保護効果を示すことを見出した(Takemura ら、Anticancer Res. 42(5): 2591-2598, 2022, Kobayashiら、Anticancer Res.43 (12):5613-5620, 2023)。
ファーマコメトリクスを活用した免疫抑制薬の個別化投与を目指した研究
薬物療法の個別適正化を目指し、母集団PK/PDモデルを用いた薬剤の効果や副作用への影響要因の探索を行っている。特に、大阪大学医学部附属病院は全臓器の移植が実施可能な施設の一つであり、多くの免疫抑制薬が使用されていることから、主に臓器移植後の免疫抑制療法を中心に研究を進めている。これまでに、心臓移植患者のタクロリムスPKに術後日数やヘマトクリット、アルブミン値が影響する一方、エベロリムスPKの個人差は小さいこと、PPIを併用することにより拒絶反応が起きやすくなること、肝臓移植患者のタクロリムスPKにヘマトクリットが影響していること、などを明らかにしている。
薬物療法個別化を目指した分子標的薬の治療耐性バイオマーカーの探索
上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)は、EGFR遺伝子に変異を有する肺がんに著効するが、一部の症例には初期耐性を認め、ほぼ全例が治療継続により獲得耐性を生じる。これまでEGFR-TKIの獲得耐性のバイオマーカー探索研究を行い、翻訳開始因子eIF3cが、オートファジー制御を介してEGFR-TKI耐性に寄与することを基礎・臨床の両側面より明らかにし(Shintaniら. Oncotarget. 9(101):37520-37533, 2018)、今後の成果が期待される研究として日本医療薬学会Postdoctoral Award 2019を受賞した。また、膜結合蛋白質PGRMC1についても新たな耐性化バイオマーカーとしての可能性を示した(Linら. Sci Rep. 10(1):4748,2020)。2020年度からは科学研究費助成事業(若手研究B)にて、細胞外小胞(EVs)に着目した検討を行い、腫瘍細胞から放出されるEVsに含まれるmiR-130a-3pがEGFR-TKI耐性化に関わることを明らかとし、アジア臨床薬学カンファレンスACCP2022のBest Poster “student” を受賞した。さらに、EGFR-TKIの初期耐性に、がん抑制遺伝子TSC1が関与する可能性も見出した(Shunら. 第44回日本臨床薬理学会学術総会にて発表)