阪大病院には複雑な病態の患者さんが療養されており、安全・確実な質の高いケアを提供することが求められています。「看護師の特定行為研修」を修了した看護師は、一定期間医師の指導を受けながら特定行為の経験を積み、より高度な知識と実践力を身につけます。その後、院内の委員会の承認を受け病院長から「特定看護師」に認定されます。
特定看護師は患者さんの病状の変化が重大なものかどうか、早く対応した方が良いかどうか、医学や薬学の知識を統合して速やかに判断します。患者さんの病態が「手順書」という医師の指示書の範囲内であれば、特定看護師の判断で動脈からの採血や人工呼吸器の設定変更などを実施することができます。
阪大病院には、特定行為研修を修了した看護師が15名、そのうち7名が「特定看護師」の認定を受け、患者さんにとってベストなタイミングと1日も早い回復に向けて活動しています。
皮膚・排泄ケア認定看護師としてこれまで身につけてきた創傷治癒に関する知識や技術を用いながら「創傷に対する陰圧閉鎖療法」を実践しています。器具を装着する部位を確実に陰圧状態に保つには、細かな工夫が必要なこともあり、一つ一つの経験が次のケアにつながっていく面白さを実感しています。器具の装着時に、痛みへの配慮や傷の周りの皮膚保護を同時に行えることは、看護師が特定行為を実践することの強みであると考えています。
創部が治癒した時の患者さんの笑顔を見ると、さらに良いケアを提供できるようになりたいという気持ちを強く持つことができます。
私は呼吸器疾患看護の専門家として、人工呼吸器を装着している患者さんを対象に特定行為を実践しています。患者さんの「息がしんどい」という体験に対して速やかに対応し、1日でも早く人工呼吸器から離脱できるように関わっています。
人工呼吸器は生命維持装置の一つでありケアに不安を感じるスタッフもいます。特定看護師として医師の思考が理解できる利点を活かし、医療スタッフと患者さんの不安が軽減できるよう取り組んでいます。
呼吸を快適に保つことは、患者さんのリハビリや回復意欲に繋がります。看護師は患者さんの普段の様子を誰よりも把握しているので、患者さんのわずかな変化に速やかに対応できるのは、とてもやりがいのある看護です。
ハートセンターは心疾患の患者さんの外科的・内科的治療をしています。循環動態を把握するには、中心静脈カテーテルや動脈ラインなどのデバイスが不可欠です。また、急変も多く患者さんに何が起こっているのかを把握し、早期に対応するには血液ガス分析が欠かせません。
これまでは医師を待たないと処置が始められないもどかしさがありましたが、特定看護師になってからは患者さんにとってベストなタイミングで血液ガス分析や動脈ラインの確保を実践しています。
実践する時は、患者さんの不安に十分に配慮し看護の視点を取り入れた細やかな説明や工夫を忘れないようにしています。
集中治療室(ICU)では、侵襲の大きい手術後や重症呼吸循環不全、院内で起きた急変など、重篤な状態の患者さんが入院しています。早期の回復と人工呼吸器からの離脱や一般病棟への退室に向けたリハビリテーションが重要となります。安全・快適なリハビリテーションのために、患者さんの状態を的確に判断し、気管チューブの位置調整や鎮静剤の調整、人工呼吸器の設定変更の特定行為を実践しています。
これまでは医師がベッドサイドに付き添いながらリハビリテーションを実施していましたが、特定行為を習得してからは看護師の判断で患者さんの状態が良い時に合わせてリハビリが実施できるようになりました。
重篤な病状にある時ほど、患者さんの状態の説明や治療の理解促進、心理的な支援は特定看護師として重要な役割であると感じています。
消化器外科病棟では、がんの三大療法である「手術療法」「放射線療法」「薬物療法」を受ける患者さんが数多く入院しています。消化管に障害を受ける治療をするため、患者さんの「飲む、食べる」ことに大きく影響を及ぼします。そのため治療経過の中で、疾患に伴うものや治療の副作用によって、患者さんの水分や栄養バランスが崩れることがあります。その状況を早期にアセスメントし、医師の到着を待たずにタイムリーに輸液の量を調整することは、患者さんの病状の維持や回復を早めるために大きな意義があると思っています。
患者さんのわずかな変化に気づき、状況を的確に判断することで、入院生活を苦痛なく穏やかに過ごせることを考えながら特定行為を実践しています。
ICUには侵襲の大きな手術後や病態の急変・悪化した重症度の高い患者さんが入院しています。ICUで働く看護師の役割として急変・重症化の回避、早期回復支援などがあり、特定行為が実践できる事で、細かな変化にも迅速に対応して治療やケアを進めていく事が可能となります。
私が習得した特定行為は、主にクリティカルケア領域で使用する薬剤や機器の設定変更です。例えば患者さんの病態に応じた人工呼吸器から早期の離脱や、循環作動薬と輸液の調整による循環動態の安定化を図っています。常にベッドサイドにいる看護師が、タイムリーに細かな治療やケアを提供することは、患者さんだけでなくスタッフにとっても安心・安全の手助けとなり特定行為の良さであると実感しています。
手術室の看護は、手術の進行に応じて刻一刻と変化する患者さんの状態に合わせた即応力と先見力が求められます。そのためには、豊富な経験に加えて専門的かつ医学的知識に基づく正確な状況判断が不可欠です。
看護師の特定行為研修を通して、病態生理やフィジカルアセスメントなどのスキルを身につけたことで、より的確に患者さんに起こりうる生体反応を判断・予測し、必要なケアをいち早く察知できるようになりました。このスキルを用いて麻酔科の医師と協働して動脈ラインの確保や手術中の輸液管理、人工呼吸の管理などを実施しています。手術看護の経験を生かして、常に手術チーム全体の動きを俯瞰して先読みし、安全かつ円滑に手術が行えることを目標に取り組んでいます。
患者さんの一番近くで手術中の安全を守り、ケアを実践できることに、特定看護師としてのやりがいを感じています。