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これまでの生命科学は、より詳細に、より分析的に、より明確に、生命の基本原理を明らかにする、いわゆる「還元主義」の科学を進めてきました。20世紀の終わりには、ついにヒトゲノムの全ての塩基配列が決定され、そこには遺伝子が約3万弱存在することが明らかとなりました。これは営々と続いてきた「還元主義」の生命科学のひとつの象徴的到達点であり、これからもこの情報を基礎に、さらに還元主義の生命科学の偉大な成果が次々と生み出されることに疑いの余地はありません。しかしながら、ゲノムを通して生命活動を担う全ての要素が姿を現し、膨大な実験科学的情報が蓄積することにより、生命科学分野全般で分子からシステムの理解へと大きなパラダイムシフトを起こしつつあります。即ち、これまでの還元主義的生命科学の成果を基礎とし、「統合」による生命機能の理解を進める時代へと変わりつつあります。

ここで、秩序だった「生命」をシステムと考えた時、それは高度に階層化されたシステムであり、遺伝子・蛋白質という生体分子の要素からなる細胞の階層の上には、組織、臓器、臓器相互作用、そして、個体という上位の階層が存在します。一方、還元主義の生命科学の根本思想には、遺伝子と生体機能の究極的な関連がボトムアップ的アプローチのみで見いだせるという漠然とした期待がありました。しかしながら、これまでの基礎生命科学で明らかとなったことは、遺伝子と生命機能の間に一対一対応はなく、多階層の相互作用より創発される複雑な非線形性から生命機能は生まれるということです。生命機能の理解には、蛋白質から個体の間の各階層の特異的な論理とそれらの相互連関の解明が不可欠です。そこでは、生体組織の全階層における構造と機能の間の関係を規定することができなければいけません。そして、異なる階層の論理が包括的に統合されなくてはいけません。これは、生命科学の新しい重要な方向性です。この分野の原理は多くの場合、実験科学的知見に基づく様々な数理モデルによって表現されるでしょう。

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本領域では、還元的手法で得られた従来の生命科学研究成果を基盤として、多階層生体機能のシステムを解析するためのプラットフォームを具体的課題での先導的実証研究を行いつつ開発します(研究項目A01)。研究領域としては、生命科学が取り扱う全ての領域には広げず、既に生命の多階層性の観点から萌芽研究が行われている“心臓の電気的興奮活動とその制御、破綻(研究項目A02)”と“小分子体内挙動(ミネラル・コレステロール等の恒常性維持機構を含む)(研究項目A03)”の問題に集中します。

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