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心不全の重症化予防へ
ウェアラブルデバイスの有効性を検証する医師主導治験を開始

2026年8月20日

図1 治験で使用するウェアラブルデバイス
電子聴診器機能と活動量測定機能を用いて心不全悪化の兆候を検出する
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概要

 大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学 宮川繁教授と循環器内科学 坂田泰史教授らを中心とする研究チームは、2026年7月から全国20施設の病院において、慢性心不全※1患者を対象に、ウェアラブルデバイスとAI搭載スマートフォンアプリを用いて心不全悪化の兆候を検出することで、再入院や心臓死の抑制につながることを検証する医師主導治験を開始しました。

 研究チームは、2020年からA-wave株式会社と共同で、電子聴診器機能と身体活動量測定機能を有する腕時計型ウェアラブルデバイスと専用スマートフォンアプリを研究開発してきました。

 慢性心不全患者がこの機器を日中装着し、電子聴診器の部分を患者自身の胸に押し当て心音を記録することで、心不全悪化時に特異的に発生する心雑音である『Ⅲ音』(さんおん)※2や身体活動量の変化を検出することができます。

 今回実施する医師主導治験においては、本機器でⅢ音と身体活動量変化を検知した患者に受診勧告を行い、患者が早期に医療機関を受診して治療が開始されることにより、心不全入院や心臓死が回避されるかを検証します。

 本治験により、慢性心不全患者の再入院や心臓死の抑制につながる効果が示されれば、医療機器としての承認および保険収載、医療費の軽減につながることが期待されます。

研究者コメント

<宮川教授のコメント>

高齢化に伴い心不全患者は今後さらに増加すると予想されます。重症化や再入院を防ぐには、悪化の兆候を早期に捉え、速やかに治療につなげることが極めて重要です。本デバイスは、在宅で患者さんの変化を見守り、適切な受診を促す画期的な仕組みであり、大きな可能性を有しています。本治験を積極的に推進し、一日も早い実用化と社会実装を実現することで、心不全の早期発見・早期治療を力強く推進していきたいと考えています。

<坂田教授のコメント>

本研究は、Ⅲ音の検知に焦点を当てている点が特筆すべき点です。Ⅲ音は、従来より心不全の早期検知に特異度の高い方法として認識されておりますが、聴診器を用いた聴取には、医師の熟練した技能が不可欠となります。高性能マイクを腕時計に搭載することにより、患者は自宅において心不全の発症を早期に検知することが可能となり、心不全診断に革新をもたらすものと確信しております。

 医師主導治験の概要

【研究課題名】
在宅心不全患者の疾患管理に資するA-wave01の有用性及び安全性を評価する検証的医師主導治験
【目的】
過去に心不全で入院したことのある慢性心不全患者を対象に、在宅環境でA-wave01(開発品)を用いて心不全管理を行う群と、通常治療群を比較し、心不全悪化の兆候の早期検出によって心不全関連イベントを抑制するか検証する
【目標症例数】
全国で132例
【実施期間】
2026年6月~2028年10月
【研究デザイン】
前向き、非盲検、多施設共同、二群並行比較対照試験

図2 心不全検出システムの流れ
患者は日中のみ機器を手首に装着して過ごし、朝晩に機器のマイク部分を胸に押し当てて心音を15秒間記録する。心音と活動量のデータはAIによって解析される。心不全悪化の兆候があれば患者のスマートフォンへ受診勧告がなされる。医師にも受診が必要な患者の情報は共有される。

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 治験実施の背景

 心筋梗塞や弁膜症により心機能が低下した患者は慢性心不全患者と呼ばれ、日本に120万人いると言われています。この慢性心不全患者は、過労や塩分の摂り過ぎなどが引き金となり、1年以内に30-40%の患者が心不全症状の悪化により入院し、20%の患者は亡くなると報告されています。

 この課題を解決するには、心不全と関連性の高い生体情報を院外でも継続的にモニタリングし、重症化する前に治療を開始する必要があります。

 大阪大学とA-wave株式会社は、2020年から心不全悪化の早期の兆候であるⅢ音に着目し、AI技術を用いることで専門医以上の精度でⅢ音を検出できるようになりました。

 2024〜25年に実施された臨床研究において、Ⅲ音と身体活動量変化が揃った患者は平均30日後に心不全悪化による入院を要することが確認されました。心不全の入院のために日本全体では1200億円近くの医療費がかかっており、医療費の観点からも再入院の回避は重要です。

 治験実施の内容

 本治験では、大阪大学とA-wave株式会社が共同で研究開発を進めてきた、Ⅲ音および活動量変化を解析するウェアラブルデバイスとAI搭載スマートフォンアプリを用います。心不全の症状で入院歴のある慢性心不全患者を対象とし、患者は1年間この機器を使用し続けます。毎朝8時に患者の手元のスマートフォンに解析結果が表示され、受診勧告が表示されれば患者は速やかに医療機関を受診し、適切な医療を受けます。この受診勧告と早期治療を行うことにより、心不全悪化による入院や心臓死を回避しうるかを検証します。

 治験は、大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学 宮川繁教授ならびに循環器内科学 坂田泰史教授らが連携したハートチームを中心とし、全国20施設の病院で実施されます。

 本治験が社会に与える影響(本治験の意義)

 本治験により、心不全悪化の兆候を検出するウェアラブルデバイスが慢性心不全患者の再入院や心臓死の抑制に資する効果が示されれば、医療機器としての承認および保険収載につながることが期待されます。

 これにより、多くの方を心不全悪化による心臓死から救うことができます。

特記事項

 なお、本研究は、JST研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム(START)やAMEDの医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業 (基盤技術開発プロジェクト)の一環として行われ、大阪大学 大学院医学系研究科 心臓血管外科の宮川繁教授の協力を得て行われました。

 A-wave株式会社は、大阪大学の心臓血管外科医であった桝田浩禎が2023年に創業した会社で、医療現場や心不全患者の現状を熟知しており、現場のニーズに即した開発ができることが強みです。心臓の専門医でも難しいⅢ音を活用し、心不全患者の未来を救う製品の研究開発を進めています。

用語説明

※1  慢性心不全
心臓の機能低下により、全身に十分な血液を送り出せない状態が慢性的に持続する疾患。息切れ、浮腫、倦怠感などの症状を呈し、病状が悪化した場合には入院加療が必要となることがある

※2 III音(さんおん)
心臓の拡張期に聴取される心音の一つ。心不全の悪化時にのみ出現するため、循環器診療において患者状態を評価する際の重要な情報の一つとされる。

参考URL

宮川繁 教授(心臓血管外科学) 
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/fbf7be207437a39e.html

坂田泰史 教授(循環器内科学) 
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/6798535393e44d5a.html