岡 崇史≪循環器内科学≫ 「オートファジー・リソソーム系で分解されなかったミトコンドリアDNAの蓄積が不全心における炎症の原因となる」
2012年05月10日 発表
掲載誌Nature, 485, 251-255 (2012)
オートファジー・リソソーム系で分解されなかったミトコンドリアDNAの蓄積が不全心における炎症の原因となる
心不全はあらゆる心疾患の終末像であり先進国における主要な死亡原因です。心不全の病態生理に炎症の関与が報告されていますが、病原微生物は殆ど検出されず、無菌的に炎症が生じる機序は不明です。我々は不全心において炎症を惹起する物質としてミトコンドリアDNAに注目しました。ミトコンドリアは細菌由来の内部共生物で、ミトコンドリアDNAは細菌DNAと同じく非メチル化CpGモチーフを多く含みます。非メチル化CpGモチーフはエンドリソソーム内のToll-like receptor (TLR)9を介して炎症を惹起します。ミトコンドリアはオートファジーによりリソソームに取り込まれ分解されます。我々はオートリソソームにミトコンドリアDNAが蓄積することにより不全心における炎症が惹起されるという仮説をたてました。野生型マウスの圧負荷手術後不全心では炎症細胞浸潤、オートリソソーム内のDNA蓄積が観察されました。リソソーム内のDNA分解酵素(Deoxyribonuclease II:DNase II)の心筋細胞特異的欠損マウス心は圧負荷手術後、心不全、炎症反応、オートリソソーム内へのミトコンドリアDNA蓄積を呈し、それらはTLR9経路の阻害により抑制されました。さらに野生型マウスの圧負荷後心不全においてもTLR9経路の関与が示唆されました。本研究は蓄積したミトコンドリアDNAがTLR9により認識され心臓に炎症を惹起するという心不全の新たなメカニズムを明らかにしました。