寄附講座

癌ワクチン療法学

がんワクチンの基礎研究から臨床まで
  • さまざまな癌腫を対象にWT1という腫瘍抗原を標的とした臨床試験を実施
  • がんワクチンの効果が出る場合と出ない場合の差はなに?
  • がんペプチドワクチン投与後のT細胞のメモリー化に必要な要件は?
  • がんワクチン投与前後の免疫担当細胞のコミュニケーションネットワークの解析
  • がんワクチンの臨床効果をさらに高めるために必要なことは?

世界をリードするWT1を標的としたがんワクチン療法の開発

悪性腫瘍に対する安全かつ効果の期待できる治療法として癌特異的免疫療法は、手術療法・放射線療法・化学療法と並ぶものとして、近年ますます注目されています。私たちは、ほとんどの種類のヒトの腫瘍で高発現しているWT1を標的とした、WT1ペプチドがんワクチンの開発を行っています(図1)。2001年にWT1ペプチドワクチンのトランスレーショナルリサーチを開始し、現在までに白血病や種々の固形癌患者800人以上に投与され、重篤な副作用がなく、白血病や膵癌、脳腫瘍などの固形難治がんで優れた臨床効果を示しています。

図1

近年(2017年時点)の臨床研究の一部

1.2010年より初発悪性神経膠腫(こうしゅ)に対し放射線/テモゾロミド療法後の補助療法としてテモゾロミド併用WT1ペプチドワクチン療法の第I相臨床試験を実施し、2年の全生存率は100%、5年全生存率は57%でした。標準治療の2年全生存率が約25%、5年全生存率が10%以下であることから、テモゾロミド併用WT1ペプチドワクチン療法は極めて有望な新規治療法であることを示しました。

図2

2. 再発悪性神経膠腫に対してWT1キラーペプチドとWT1ヘルパーペプチドを混合したWT1ペプチドカクテルワクチン療法の臨床試験を行いました。カクテルワクチンでは、WT1特異的CD8陽性T細胞に加えて、WT1特異的CD4陽性T細胞の強い誘導が観察され、その免疫反応は1年以上の長期間持続することが明らかとなりました。ワクチン療法において、誘導された免疫が長期間維持できるかは重要な問題ですが、ヘルパーペプチドの併用はその問題を解決できることを示しました。

近年(2017年時点)の基礎研究の一部

WT1ペプチドワクチンに対する免疫応答機序を解明

1. WT1特異的CD4陽性T細胞からT細胞抗原受容体(TCR)を単離し、CD4陽性T細胞に導入し活性を見たところ、WT1抗原特異的に増殖し、WT1を発現する腫瘍細胞を障害できることが明らかになりました。CD4陽性T細胞はヘルパー作用のみならず、直接的な抗腫瘍活性を有する事を示した重要な知見です。このことは腫瘍特異的なCD4陽性T細胞を誘導させるヘルパーペプチドを用いたワクチンの有用性を支持するものです。

2. WT1特異的CD8陽性T細胞から複数のTCRを単離しました。このTCRとWT1/HLA複合体のアビディティー(avidity;抗原と抗体の結合力の総和)の違いによりT細胞のメモリー化のしやすさなど分化パターンに違いが出ることを明らかにしました。腫瘍細胞やワクチン療法に対する、T細胞による免疫応答を理解する上で極めて重要な知見です。

当研究室では、腫瘍免疫療法の分野で基礎研究から臨床研究まで行える特長を生かし、今後さらなる研究成果が期待されます。