寄附講座

再生誘導医学

再生誘導医学~生体内における幹細胞維持メカニズムの解明と医療への応用
  • 阪大発、世界初の体内再生誘導医薬開発
  • 骨髄間葉系幹細胞の生体内での役割は何か?
  • 組織幹細胞はどうやってその集団を維持しているのか?
  • 組織損傷時の組織幹細胞活性化メカニズムは?

 

 

「組織幹細胞と損傷組織のクロストーク」を基盤とする体内再生誘導医学領域の開拓

生体内の各組織の構造と機能は、その組織内に局在する組織幹細胞により維持されています。それ故、組織障害時にはその障害領域に局在していた組織幹細胞も欠損するため、組織は機能的に再生することが出来なくなり、結果として線維性瘢痕組織で置換されて著しい機能障害に陥ってしまいます。この事実は、障害部位に組織幹細胞を回復させる医療が非瘢痕性機能的組織再生を誘導できる可能性を示唆し、現在精力的に進められている、幹細胞移植を主体とした再生医療の論理的背景にもなっています。一方私たちは、遺伝性水疱性皮膚疾患「表皮水疱症」における皮膚再生メカニズム研究の過程で、壊死表皮組織から放出される核内クロマチンタンパク質HMGB1の血中濃度が上昇すると末梢循環性間葉系幹細胞が増加し、壊死組織周囲への集積が促進される結果、機能的組織再生が促進されることを世界で初めて見出しました。

表皮水疱症マウスの皮膚再生過程における骨髄由来間葉系幹細胞の寄与。緑色蛍光を示す細胞が骨髄由来間葉系幹細胞による皮膚再生を示す。

HMGB1は、正常組織では細胞核内でDNAと結合することによりクロマチン構造を制御して遺伝子発現を調節するシャペロンタンパク質として機能する一方、壊死組織では細胞外に放出されると自然免疫を活性化して好中球およびマクロファージの壊死組織への集積を誘導し、壊死組織除去を促進させることが知られていました。我々の研究結果と併せてみた場合、HMGB1は核内、組織内、生体内の3つの異なる階層で生体組織の恒常性を維持している極めて重要なタンパク質であることが判ります。

現在私たちは、HMGB1の末梢循環性間葉系幹細胞活性化による生体内組織再生誘導メカニズムに関わる分子基盤解明を目的とした基礎研究を精力的に進めるとともに、骨髄間葉系幹細胞以外の組織幹細胞とHMGB1の相互作用について、さらにはHMGB1と同様に体内再生誘導機能を担う新たな生体内物質の探索を進めています。

また基礎研究から得た知見を、HMGB1の間葉系幹細胞活性化ドメインペプチドを利用して、間葉系幹細胞血中増加剤の開発を進めています。骨髄間葉系幹細胞を静脈内に投与する再生医療の有効性が確認されている疾患、例えば脳梗塞や心筋梗塞、GVHDは、HMGB1ペプチドの全身投与による末梢循環間葉系幹細胞増加効果が同様に有効であると予想します。

私たちは、生体内組織幹細胞維持・活性化メカニズム解明のための再生誘導医学研究を発展させることを目指しています。興味のある方のご参加を心から歓迎いたします。