内科学

病院臨床検査学

革新的な疾患概念の提唱と新規臨床検査法の開発
  • 新規発がん理論、芽細胞発がん説の実証
  • 幹細胞・がん幹細胞検出法、FACS-mQの開発
  • 甲状腺がんの穿刺吸引核酸診断法の開発
  • 自己免疫疾患の発症機序の解明
  • 臨床検査の精度管理に関する研究

 

 

検査を考えること・開発することで医学の常識に変革をもたらす

臨床検査は日々の診療に不可欠なものであると同時に、患者についての重要な情報を研究者に提供してくれます。当研究室は前身の臨床検査診断学講座の時代から、臨床検査を見つめることで新たな疾患概念を提唱する研究を行ってきました。その結果、特に甲状腺疾患の領域において、それまでの医学の常識を塗り替えるような革新的な業績がいくつも出されています。2000年に甲状腺腫瘍のエビデンスに基づき、それまで常識とされてきたがんは良性の細胞が遺伝子変異の蓄積で悪性形質を獲得して発生する、とする多段階発がん説に代わる発がん理論として、がんの発生母地が臓器発生途上で出現する転移能・浸潤能に相当する能力をすでに持っている胎児性細胞であるとする芽細胞発がん説(fetal cell carcinogenesis)を提唱しました。

この理論は最近では甲状腺がんの発生機序や進展を理解するための重要なものであると理解され、Nature Review Endocrinology, Oncogene, J Clin Endocrinol Metabをはじめとした多くの国際論文で取り上げられるようになってきました。また、福島第一原発事故後に若年者の甲状腺がんが多数検出された理由を明快に説明する理論として社会的な注目を集めています。新しい疾患概念を理解すると新しい臨床検査法を開発することが可能となります。当研究室ではこの考えに基づき、次世代の臨床検査法の開発を進めています。甲状腺がんにおいては、長らく悪性腫瘍の約10%を占める甲状腺濾胞癌の術前診断は困難であるとされていました。当研究室では芽細胞発がん説の理論に基づき、穿刺吸引核酸診断法という新しい診断法を開発し、検査キットが開発されて臨床現場で使用できるようになりました。甲状腺の結節は成人の約10%に認められる頻度の高い病態であり、今後多くの方に利用していただける検査となることが予想されています。また、今後のがん診療にとって重要となるがん幹細胞の新しい検出・解析法としてFACS-mQという方法を開発しました。この方法を使用すると、細胞内のRNAを分解することなしに蛍光標識された細胞を分別・回収することができ、FACSで採取された細胞の性質をmRNAの発現を測定することで迅速に判定することができます。この方法は、がんの領域のみならず、今後臨床的なニーズが増大すると考えられる再生医療における有用性も示唆されており、臨床検査として使用可能となるよう基礎技術の開発を進めています。