脳神経感覚器外科学

眼科学

革新
  • 組織工学的手法に基づいた、自己口腔粘膜培養上皮シート移植による角膜の再生医療
  • iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発
  • 網膜内埋め込み型の人工視覚の開発および電気刺激による視神経障害の抑制
  • 光干渉断層系による網膜疾患の病態解明、各種結果の分析
  • 緑内障・加齢黄斑変性の個別化医療を目指した、ゲノム解析
教授 西田幸二
脳神経感覚器外科学 眼科学
当研究室の源流は、明治24年4月に今居真吉が初代教授として赴任し眼科学教室が開講したことに始まります。今日の西田幸二第九代教授まで約130年の歴史を刻んでいます。多くの臨床症例に支えられた臨床研究とそれに関連する基礎研究、およびiPS細胞を持ちいた角膜・網膜の再生医療研究を行っています。

眼科の全ての領域において専門クリニックを設け、臨床から生じた疑問点を基礎研究により解明するトランスレーショナルリサーチを行っています

1.自己口腔粘膜培養上皮シート移植による角膜の再生医療

スティーヴンス・ジョンソン(Stevens-Johnson)症候群や眼類天疱瘡、熱・化学腐蝕などによって引き起こされる角膜上皮幹細胞疲弊症に対し、これまでアロ角膜(他人の角膜)を用いた角膜移植が行われてきましたが、拒絶反応や感染症が頻発するため術後成績が不良であり、有効な治療法が確立されていないのが現状でした。これに対し当科では、自己の口腔粘膜上皮細胞を培養して作製した口腔粘膜上皮シートを移植する新しい治療法を開発し、本院で実施した臨床試験において良好な成績をおさめました[1]。この治療法を現在治験として行っており、再生医療製品としての承認を目指しています。

2.iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発

ヒトiPS細胞を用いて、眼構成細胞の新規分化誘導法の開発を行いSEAM法と名付け、眼の構成細胞の原基となる細胞が誘導されることを見出しNature誌に報告しました(図1)[2]。iPS細胞から角膜上皮・内皮細胞を誘導する方法を確立し、臨床応用に向けた研究を行い、iPS細胞を用いた再生治療法を確立させ、早期の臨床応用を目指しています。

3.網膜内埋め込み型の人工視覚の開発および電気刺激による視神経障害の抑制

網膜の視細胞が障害されて失明した場合、現在のところ治療手段はありません。人工視覚とは、そのような状態の患者さんに対し、網膜~大脳皮質のいずれかを電気刺激することにより、人工的に視覚を回復させるものです。現在、網膜刺激型の人工視覚を開発しており、急性臨床実験まで完了しています。また、その研究の過程で、電気刺激が神経節細胞のアポトーシスを抑制することが発見されました。さらに、ヒトへの臨床応用が可能な電気刺激法(経角膜電気刺激法)を開発し、現在、倫理委員会の承認を経て、虚血性視神経症などの難治性視神経疾患に対して電気刺激治療を行ってます。治療を受けた方の中に、視力の改善や視野の拡大、暗点の消失などの視機能が回復する場合があり、現在、どのような患者さんに、どれくらい効果があるのかを検討しています。

4.光干渉断層系による網膜疾患の病態解明、各種結果の分析

加齢黄斑変性、強度近視に伴う網脈絡膜萎縮、ポリープ状脈絡膜血管症、中心性漿液性脈絡網膜症などのメディカル網膜疾患、あるいは、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑上膜、糖尿病網膜症などのサージカル網膜疾患といった、網膜疾患の病態解明・治療効果の分析などを光干渉断層計(OCT)、OCTアンギオ(血管撮影)などを用いて解析し、難治性疾病の最も適した治療法の選択や病態解明に役立てています。また、緑内障の病態解明にも取り組んでいます。

【文献】

1.Nishida K et al. New Engl J Med 351:1187-1196, 2004.
2.Hayashi R et al. Nature 531:376-380, 2016.