薬理学

生体システム薬理学

生体内物質動態・分布を司る分子基盤としてのトランスポーターの「姿」を捉える
  • アミノ酸トランスポーターの機能解析とその下流に広がるアミノ酸シグナル系の解明
  • トランスポーター間の機能共役や他の細胞機能との協調の分子基盤 ~分子複合体「トランスポートソーム」の実証
  • プロテオーム解析やメタボローム解析を駆使した細胞・組織特異的な機能形成や病態形成におけるトランスポーターの寄与の解明
  • がん特異的アミノ酸トランスポーターを標的にしたイメージング診断薬と治療薬の開発
薬理学講座 生体システム薬理学

薬理学講座は、大阪帝国大学時代の昭和6年に長崎仙太郎先生を初代として創設され、その後、昭和12年に薬理学第一講座と第二講座の二講座体制となりました。薬理学第一講座は岡川正之教授、今泉禮治教授による両講座兼任の時期を経て、昭和42年より吉田博教授、平成元年より三木直正教授(平成9年より情報薬理学講座)が担当されました。平成19年より現教授である金井好克が引き継ぎ、教室名を生体システム薬理学に改めて現在に至ります。

アミノ酸トランスポーターとアミノ酸シグナルの生理機能および病態との関連解明から疾患に対する診断・治療薬の開発まで

細胞膜を介する選択的物質透過は、トランスポーターと呼ばれる膜タンパク質が担っています。アミノ酸トランスポーターは、個々の細胞にアミノ酸を供給するほか、小腸や腎臓の上皮においては体内へのアミノ酸吸収を担います。主要なアミノ酸トランスポーターの同定はすでに完了していますが、物質動態・分布を司る分子基盤の構成要素として、生理機能や病態との関連を理解するための研究はまだ始まったばかりです。私たちは、生体システムの中で働くアミノ酸トランスポーターの「姿」を捉えるべく研究を行っています。

これまでのトランスポーター研究は、主に個々の輸送能に着目して行われてきました。しかし、たとえば経上皮輸送のように複数のトランスポーターが関与する局面では、トランスポーター間の機能共役によって合目的的な生理機能の発揮が期待されます。また、細胞内シグナル系とのクロストークなど多様な細胞機能との協調が可能になることも考えられます。そのような「場」として、トランスポーターや関連因子が集積した分子複合体「トランスポートソーム」の概念を提唱し、その存在を実証してきました。

図1 分子複合体「トランスポートソーム」の概念

また、多くの必須アミノ酸を輸送するアミノ酸トランスポーターとして金井教授らが同定したLAT1(L-type amino acid transporter 1)は、興味深いことに様々ながん細胞やがん組織で顕著に発現が増加していることが明らかになりました。さらに、LAT1はがん細胞の高い増殖能に寄与しており、その発現量が、がんの悪性度と相関することや、LAT1を阻害することでがん細胞の増殖が抑制できることも分かってきました。そこで私たちは、LAT1を分子標的とした新たながんイメージング診断薬とがん治療薬の開発を進めています。加えて近年、ロイシン等のアミノ酸は、細胞内代謝調節を司るキナーゼ複合体mTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)の活性化シグナル分子でもあることが明らかになってきました。がんや糖尿病等の疾患においては、このmTORC1系が破綻しているため、アミノ酸シグナルの異常が病態形成の一因と考えられています。私たちは、LAT1の下流に位置するアミノ酸シグナル系に着目し、その生理機能や病態との関連等の解明に取り組んでいます。特に細胞がロイシンを認識する分子機構を解明することは、基礎研究の観点からはもちろん、関連疾患の治療薬の開発など、非常に大きな臨床的成果へと繋がることが期待されます。

図2 がん細胞型アミノ酸トランスポーターLAT1 に着目した研究展開