薬理学

統合薬理学

「異分野連携」で内耳の仕組みと薬物動態を解く!
  • 内耳の働くメカニズムを究明する
  • 難聴の発症機構と病態生理を理解する
  • 聴覚と脳神経疾患の関係を探る
  • 生体局所の薬の振る舞いを追尾する
  • 臨床に応用できる薬物モニタリングシステムを開発する
教授 日比野 浩
薬理学講座 統合薬理学
当教室は大阪帝国大学医学部に昭和12年に開かれました。初代教授は長崎仙太郎先生、その後、岡川正之教授、今泉禮治教授が当教室と第一薬理学を兼任されました。昭和44年からは和田博教授が、平成5年からは倉智嘉久教授が教室主任をお務めになりました。令和3年から日比野浩が担当しております。

リアルに捉える“生(ナマ)の”局所現象から臓器が機能するロジックを明らかに

それぞれの臓器は、様々な種類の細胞からなる組織が巧みに立体構築されて成り立っています。体の仕組みや働き、病気の発症機構を詳しく知るためには、細胞が織りなす生体局所の真の姿を「その場」でリアルタイムに追跡し、捉えられた現象を組織や臓器のレベルへとつなげる必要があります。この課題に取り組むため、当教室では内耳と薬物動態を題材にしています。ここでは、医工連携により独自に開発・最適化した計測技術を駆使して、“生体内 in vivo計測”にこだわり、ユニークな研究を展開しています。

1. 内耳に着目した聴覚研究

我が国では、1割もの方々が難聴と試算されています。この数は、超高齢化が進むにつれて益々増加していきます。正常な聴こえは心豊かで幸せな生活に不可欠です。また、中年期の難聴は、認知症の最大リスクです(Livingston et al., Lancet 2017)。難聴を克服するため、デリケートな内耳の受容・応答機構を解明し、病態の理解や予防法・治療法を革新することを目指しています。

内耳は、感覚細胞により音の振動を電気信号に変換し、それを脳へと伝えます。感覚細胞は、支持細胞と共役し、独特の局所空間を展開しています。当教室では、①聴覚の端緒となる感覚細胞のナノ振動を、工学研究者とともに構築した断層イメージング計測系で観測し、その成因を研究しています(Choi et al., Biomed Opt Express 2019; Ota et al., Pflügers Arch 2020)。また、②音信号を増幅する生体電池の仕組みを、特殊な微小電極センサによる電気生理学的手法に加え、分子生物学・組織学・計算科学の方法を用いて解析しています(Nin et al., PNAS 2012; Nin et al., npj Syst Biol App 2017)。③以上のアプローチで、難聴モデル動物の病態生理も分析しています。また、④認知症をはじめとした脳神経疾患と難聴の関係を理解するための研究も開始します。

2. 先端素材「ダイヤモンド」を使った薬物動態研究

体内に入った薬は、あらゆる臓器に行き渡ります。どの臓器も、性質や役割が異なった小さな細胞集団がいくつも組み合わさってできていますが、その一部が悪くなることで病気が起こることが少なくありません。薬が標的とする細胞集団に届いているかどうか、そして薬が届いた場合、その“濃度”と“細胞の機能”がどのように移り変わっていくか、を知ることは、薬の効果や副作用を調べるうえで重要です。しかし、意外にも従来法では、これらの指標を測れませんでした。

そこで、慶應大学理工学部が開発した「針状ダイヤモンド電極センサ」を活用し、生体内の局所で薬の振る舞いと効き目を同時リアルタイム計測するシステムを開発しました(Ogata et al., Nat Biomed Eng 2017; Hanawa et al., Anal Chem 2020)。

この世界初の新技術を使って、様々な薬を脳や内耳などで解析しています。成果は、副作用を抑えて効果を最大にする投薬法や、安心・安全・有効な創薬、そして個別化医療を発展させます。また、ダイヤモンドセンサを使い、臨床の現場に適用できる薬物モニタリングシステムの創製に向けた基礎実験にも着手しています。

【文献】

1. Livingston et al., Lancet 2017
2. Choi et al., Biomed Opt Express 2019; Ota et al., Pflügers Arch 2020
3. Nin et al., PNAS 2012; Nin et al., npj Syst Biol App 2017
4. Ogata et al., Nat Biomed Eng 2017; Hanawa et al., Anal Chem 2020

旧・分子細胞薬理学Web Siteはこちら