社会医学

先端人工知能(AI)医学

データとAIで医療の「まだ見えない未来」を読み解く
  • 医療データを統合し、疾患の発症・重症化を予測
  • AIによる患者の層別化と個別化医療の実現
  • オミクス解析による疾患の分子メカニズム解明
  • 医療現場で使えるAIシステムの開発と社会実装
  • 時系列データから異常を検出し早期診断・予防につなげる
教授 川上英良
社会医学講座 先端人工知能(AI)医学
当教室では、人工知能(AI)とデータサイエンスを活用し、医療・ヘルスケア分野における課題解決に取り組んでいます。データ解析だけでなく、臨床や基礎研究との連携を重視し、AI技術を単なるツールとしてではなく、医療・医学研究のあり方そのものを変える基盤技術としての活用を目指しています。

AIとマルチモーダル医療データ統合による予測・層別化・メカニズム解明の融合

本研究室では、「データから未来を読む」ことをキーワードに、AIと数理科学を用いた医科学研究を行っています。扱うデータは、電子カルテや健診、医療画像、遺伝子・オミクス、ウェアラブルデータなど多岐にわたり、それらをつなぐことで、病気の新しい見方を引き出すことを目指しています。

まず、病気の発症や重症化を予測する研究に取り組んでいます。例えば、複数の既往歴の組み合わせからネフローゼ症候群の発症リスクを数年前から捉える解析(Chida et al. Comp Biol Med 2025)(図1)や、ワクチン副反応の時間的な変化パターンをテンソル分解で抽出する研究(Ikeda et al. iScience 2022)など、複雑な時系列データの中にある「兆し」を見つける手法を開発しています。これにより、早期発見や予防につながる新しいアプローチを目指しています。

図1

次に、AIを用いて患者の違いを捉え、病気をより細かく理解する研究を進めています。卵巣がんの研究では、血液検査データから患者を分類することで、同じ早期がんの中にも性質の異なるグループが存在することを明らかにしました(Kawakami et al. Clin Cancer Res 2019)(図2)。このように、AIは「見えなかった違い」を可視化し、個別化医療への道を切り拓きます。また、糖尿病のサブタイプを安定して予測するモデルの開発にも取り組んでいます(Tanabe et al. Diabetologia 2024)。

図2

さらに、こうした結果を分子レベルで理解するため、オミクスデータや分子ネットワーク解析にも取り組んでいます。大規模なChIP-seqデータを統合した転写制御ネットワーク解析により、遺伝子発現から転写因子活性を高精度に推定する手法を開発しました(Kawakami et al. Nucleic Acids Res 2016)。また、皮膚疾患におけるトランスクリプトーム解析により、疾患表現型や治療反応に関わる分子シグネチャーの同定を進めています(Fukushima-Nomura et al. Nat Commun 2025)。さらに、感染症研究では動物モデルとヒトデータを統合し、免疫応答の理解にも取り組んでいます。

本研究室の特徴は、「予測する」「違いを見つける」「仕組みを理解する」という流れを一体として進める点にあります。データから得られた発見を次の仮説につなげ、さらにそれを検証していくという循環の中で、新しい医療のかたちをつくることを目指しています。AIを単なるツールとして使うのではなく、医療の見方そのものを広げるための手段として活用している点が、私たちの研究の大きな特徴です。