外科学

消化器外科学Ⅰ

がんの制圧に向けて~癌の発生と特性の謎を紐解き治療に結びつける~
  • がんの治療抵抗性の解明(がん幹細胞研究、non-cording RNA研究、オミックス研究)
  • 臨床へ向けた橋渡し戦略(ドラッグデリバリーシステムの開発・高精度がん転移診断法の開発)
教授 江口 英利
外科学講座 消化器外科学Ⅰ
消化器外科は、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、胆道、膵臓など多くの臓器を対象としており、また良性・悪性疾患、消化・吸収を含めた臓器機能、臓器不全と臓器移植といった幅広い分野を含んでいます。これらに幅広く対応でき、現代社会が必要としている人材を養成すること、さらには指導者として社会に還元できる人材を輩出したいと思います。

臨床応用を目指した消化器がんに対する包括的な研究展開

がんの新しい診断や治療法が目覚ましく進歩しています。私たちは外科医として主にがんの外科手術を担当しています。手術で治る患者さんがいる一方で、手術後に再発する患者さんもいます。再発の患者さんは主に抗がん剤で治療しますが、抗がん剤治療を行ううちに治療効果がなくなる(治療抵抗性)ことが多く、この治療抵抗性の克服が最大の課題です。私たちは、外科医の目から、がんの治療抵抗性の解明とその克服、そして臨床応用への展開を考えています。例えば、がんの治療抵抗性や再発・転移の原因となっているがん幹細胞の研究では、私たちは世界のトップグループにいると考えています。がん幹細胞は活性酸素種の代謝経路を介して抗癌剤や放射線への抵抗性を獲得することを解明し、治療標的分子の同定に成功しました。がん幹細胞とオートファジー活性に着目した研究も推進しており、がん幹細胞を標的とした包括的癌治療の臨床試験の準備も行っています。他方、がんの浸潤・転移に影響するエピゲノム制御に長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)が深く関わっていることがわかっています。私たちはがん微小環境として重要な、低酸素やがん特有のシグナル伝達により発現誘導されるlncRNAを網羅的にプロファイリングし、がん転移に関与するlncRNAの同定を進めています。

また、われわれは臨床教室として、得られた基礎的成果を臨床へ橋渡しする責務を担っています。これまでに、リンパ節中の微小がんを短時間検出可能とするロボット診断(OSNA法:2013年に大腸がんのリンパ節診断で保険収載)の共同開発や血中遊離がん細胞の分離事業に携わり、現在、術後補助化学療法や、直腸がんの側方リンパ節郭清の適応に関する研究を進めています。さらに、臨床検体から分離した小分子代謝産物(オンコメタボライト)解析やがんビッグデータを統合的に解析することで、KRAS遺伝子の変異を有する大腸がんに対する新規核酸治療標的のシーズ開拓に成功しています。核酸治療薬では、がんへの選択性が高くかつ副作用が少ないような生体内薬剤運搬システムが必要となりますが、当教室で開発したナノ粒子をはじめとしたDDS (ドラッグデリバリーシステム)を応用した核酸薬治療の前臨床治験を進めたいと思います。