小児成育外科学
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合成プロスタサイクリンアゴニスト徐放製剤を用いた、先天性横隔膜ヘルニアにおける肺低形成に対する新規胎児治療の開発
先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の主病態は肺低形成とこれに付随する肺高血圧であり、重症例の死亡率は依然として高いままです。現在、日本ではCDHの75%が胎児診断されることから、新規胎児治療の開発が望まれています。近年、ニトロフェン(Nitrofen)誘発ラットCDHモデルにおいて、肺発育促進および肺高血圧改善に対するVEGF(血管内皮細胞増殖因子)やシルデナフィル(Sildenafil)の有効性が報告されています。ONO-1301はトロンボキサン合成阻害作用を併せ持つプロスタサイクリン(PGI2)アゴニストで、血管拡張作用以外にもVEGF/HGF/SDF-1などの内因性修復因子を介した血管新生作用など様々な生理活性が報告されています。本剤は、モノクロタリン誘発肺高血圧ラットモデルにおいて、肺動脈中膜肥厚を低減し肺高血圧改善効果を持つことが報告されています。また、本剤をPLGAマイクロスフェアに重合させたONO-1301SRは、単回投与でも有効性の長期間保持が報告されています。PGI2アゴニストは既にCDHの出生後の肺高血圧の治療薬として臨床応用されており、本剤がCDHに対する胎児治療薬として有用であるとの仮説を立て、Nitrofenモデルを用いて検証を行いました。
〔方法(Methods)〕
妊娠9.5日目(E9.5)のSprague-DawleyラットにNitrofen(100mg/body)を経口投与し、病態(CDH)モデルを作製した。同日、ONO-1301SR(30mg/kg)あるいはプラセボを、Nitrofenを投与した妊娠ラットにランダムに皮下投与した。E21.5に胎児を摘出し、 コントロール/CDH/CDH+ONOの3群間で以下の評価を行った。
1. 胎児肺におけるプロスタサイクリン受容体(IPR)の発現を免疫組織化学染色で検討した。CDHの発生率を調べ、胎児肺低形成の指標として肺重量体重比(LW/BW(%))を測定した。
2. HE染色にて平均肺胞隔壁間距離を測定し肺胞腔を定量評価した。エラスチカ・ワンギーソン(Elastica van Gieson)染色にてMedial Wall Thicknessを算出し肺動脈中膜肥厚を定量評価した。
3. 摘出肺からRNAを抽出し、qRT-PCRにて肺におけるVEGF/HGF/SDF-1の遺伝子発現を検討した。
〔成績(Results)〕
1. 免疫染色の結果、IPRは胎児肺動脈平滑筋に局在していた(図1)。ONO-1301投与によるCDHの発生率に有意差はなかった。CDH+ONO群では肺重量体重比がCDH群に比べて有意に増加していた。
図1
2. CDH+ONO群ではCDH群に比して平均肺胞隔壁間距離が有意に増加し、肺胞腔の増大を認めた。また、CDH+ONO群ではCDH群より有意に肺動脈中膜の肥厚が有意に改善していた(図2)。
図2
3. CDH群と比べ、CDH+ONO群でVEGFおよびSDF-1の発現が有意に増加し、本モデルの肺胞および血管発達への影響が示唆された。
〔総 括(Conclusion)〕
ラット先天性横隔膜ヘルニアモデルに対するONO-1301SRの胎生期投与は、肺低形成および肺動脈中膜肥厚を改善した。本薬剤が先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児治療薬として有用である可能性が示唆された。