村松 里衣子、山下 俊英≪分子神経科学≫ 「新生血管が放出するプロスタサイクリンは中枢神経回路の再生を促進する」
2012年10月7日 発表
掲載誌Nature Medicine doi:10.1038/nm.2943(2012)
新生血管が放出するプロスタサイクリンは中枢神経回路の再生を促進する
血管新生は、脳や脊髄の疾患で顕著な特徴で、それは病変の炎症反応を悪化させたり、あるいは組織を修復させるものと知られています。我々は、新生血管が産生するプロスタサイクリン(プロスタグランジンI2, PGI2)が、傷ついた神経回路を再生することを見出しました。本研究では、多発性硬化症の類似する脳脊髄炎を脊髄に限局して起こすマウスを用いました。このマウスでは、四肢の運動機能を制御する皮質脊髄路が炎症によって脱落しますが、時間が経つと、残存する皮質脊髄路から側枝が発芽し、新しい神経回路を形成して運動機能を改善させます。我々は、病変の血管新生と皮質脊髄路の側枝形成を時間を追って観察し、側枝の形成の前に、血管が新生することを見出しました。また、血管内皮細胞と神経細胞を共培養すると、神経突起の伸長が促され、そのメカニズムは血管が産生するプロスタサイクリンが神経細胞のプロスタサイクリン受容体(IP受容体)に作用することが重要でした。そこで、マウスに脳脊髄炎を起こし、皮質脊髄路でIP受容体の発現を減弱させたマウスを観察しました。すると、通常は観察される側枝の形成と運動機能の改善が抑制されました。さらに、IP受容体を活性化させる薬剤を施すことで、側枝形成を促進させ運動機能の改善を速めることに成功しました。今回の研究成果は、中枢神経回路が自然に再生するメカニズムを発見するものであるとともに、プロスタサイクリンが多発性硬化症の治療薬として有望であることを示したものです。