2013年

 

横田 貴史≪血液・腫瘍内科学≫ 「核クロマチン構造調節蛋白質SATB1は造血幹細胞の分化をリンパ球系統へと方向づける」



免疫制御学-2
クリックで拡大表示します

2013年6月20日 発表
掲載誌Immunity 38:1105-1115 (2013)

核クロマチン構造調節蛋白SATB1は造血幹細胞の分化をリンパ球系統へと方向づける

造血幹細胞がリンパ球を産生する能力は、加齢や慢性的なストレスの影響で顕著に減衰します。
マウスを用いた研究で、個体の老化によってリンパ球分化の極めて早期の段階が影響を受けることが示されていましたが、 その詳細な分子機構は不明でした。今回私達は、造血幹細胞がリンパ球系へと分化する初期段階において、 核クロマチン構造調節蛋白Special AT-rich sequence binding protein 1 (SATB1)が重要な働きをし、 造血幹細胞の老化にも関係していることを発見しました。SATB1を欠損した造血幹細胞では、リンパ球、 特にT細胞系への分化能力が著しく障害されており、逆にSATB1を過剰発現させた造血幹細胞では、 リンパ球産生能力が顕著に亢進しました。SATB1の過剰発現で変動する遺伝子を検索したところ、 血球の分化に関与する多数の遺伝子が影響を受けており、通常は骨髄間質細胞が産生されているstem cell factorやinterleukin 7などの リンパ球分化に重要なサイトカインの発現が、造血幹細胞の内部で誘導されることが分かりました。
SATB1の強制発現によって、胎児胚性幹細胞からのリンパ球誘導効率も上昇させることが出来ました。
さらに、高齢マウスの造血幹細胞ではSatb1遺伝子の発現が低下していることが確認され、 外来性にSATB1を補うことによって、リンパ球産生能力を部分的に回復させることができました。
今回の研究結果は,造血幹細胞からリンパ球系への初期分化における核クロマチン構造調節分子の重要性を示すとともに、
高齢者や免疫不全患者において癌や感染症に対する免疫を賦活する新しい技術の開発に寄与すると期待されます。

URLhttp://www.hematology.pro/   血液・腫瘍内科学教室紹介