外海 洋平、坂田 泰史≪循環器内科学≫ \抗血栓薬の併用、1か月で十分!?/
“減らす医療”が患者を守る可能性:抗血栓療法の新戦略
2026年7月29日
掲載誌 The Lancet
図1. 心房細動を有する冠動脈ステント留置患者における抗血栓薬併用期間と臨床転帰
心房細動を有し冠動脈ステント治療を受けた1,088例を、1カ月併用治療群546例と12カ月併用治療群542例に分けて比較した。1カ月併用治療群では、死亡または血栓塞栓症のリスクは12カ月併用治療群と同程度であり、重大出血または臨床上問題となる非重大出血のリスクは低かった。
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研究成果のポイント
- 心房細動患者の冠動脈ステント治療(PCI)※1後の治療で、2種類の抗血栓薬※2の併用を12か月から1か月に短くしても、血栓による合併症は増えず、出血の発生が少なくなることが判明
- 血液を固まりにくくする抗血栓療法は出血の危険性を高めることが課題だったが、日本全国の患者1000人以上を対象にした無作為比較試験により、抗血栓薬の併用を短くしても治療効果が保たれ、むしろ安全性向上につながる可能性を示唆
- 治療期間の短縮による、患者の負担軽減と安全性向上の両立に期待
概要
大阪大学大学院医学系研究科の外海洋平助教(循環器内科学・多施設共同臨床研究グループ)、坂田泰史教授(循環器内科学)、帝京大学医学部の上妻謙主任教授(臨床医学・内科学講座)らの研究グループは、心房細動のある冠動脈疾患の患者が、冠動脈ステント治療(PCI)を受けた後に、抗血栓薬をどのくらいの期間使うのがよいかを調べました。
その結果、2種類の抗血栓薬を一緒に使う期間を、これまで一般的だった12か月から1か月に短くしても、ステント血栓症や脳梗塞などの血栓による合併症は増えず、出血は明らかに少なくなることがわかりました。
この研究は、日本全国75施設が参加した無作為化比較試験「OPTIMA-AF試験※3」として行われ、1088人の患者を対象に、治療期間を短くする方法の安全性と効果を検証しました(図1)。これまで、心房細動のある患者がPCIを受けた後の抗血栓療法では、出血の危険が高くなることが課題でしたが、今回の研究により、薬を一緒に使う期間を短くすることで、より安全に治療できる可能性が示されました。
本研究成果は、米国科学誌「The Lancet」に、7月16日(木)7時30分(日本時間)に公開されました。
研究者のコメント
<坂田教授のコメント>
本研究では、心房細動を有する慢性冠動脈疾患において、今まで12ヶ月であった抗血栓薬併用療法を1ヶ月に短縮しても、有効性を損なうことなく出血リスクを減らすことを示しました。高齢化が進む中で、出血合併症は治療において重要な問題であり、本研究はその解決に貢献すると考えます。今後はさらに、急性冠症候群患者さんでも同様の薬剤を減らす治療が可能か、検証を進めていきたいと考えています。
研究の背景
心房細動は、脈が乱れる不整脈のひとつです。心房細動のある患者では、脳梗塞を防ぐために、血液を固まりにくくする抗凝固薬(いわゆる「血をサラサラにする薬」)を使用します。一方、PCIを受けた患者では、ステントの中に血のかたまりができるのを防ぐために、別の種類の血をサラサラにする薬(抗血小板薬)を使います。
そのため、心房細動があり、PCIも受けた患者では、これまで2種類の血をサラサラにする薬(抗凝固薬と抗血小板薬)を12か月間一緒に使う治療が行われてきました。しかし、この治療は出血の危険を高めることがあり、より安全な治療法を見つけることが大きな課題となっていました。
研究の内容
研究グループは、心房細動を合併する冠動脈疾患の患者1088人を対象に、日本全国75施設が参加する多施設前向き無作為化比較試験を行いました。
この研究では、PCI後の治療として、
① 抗凝固薬と抗血小板薬を1か月間併用した後に、抗凝固薬のみへ切り替える治療
② 抗凝固薬と抗血小板薬を12か月間併用した後に、抗凝固薬のみへ切り替える治療
の2つを比較しました。
その結果、死亡と心筋梗塞、ステント血栓症や脳梗塞などの血栓性イベントは、2つの群で差がみられませんでした。一方、出血性イベントは、1か月で切り替えた群で約50%少なくなりました(4.5% vs 8.8%)。つまり、抗凝固薬と抗血小板薬を一緒に使う期間を短くしても、治療の効果は保たれ、むしろ安全性の向上につながる可能性が示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
今回の研究成果は、心房細動のある患者がPCIを受けた後の治療の考え方を大きく変える可能性があります。抗凝固薬と抗血小板薬を一緒に使う期間を短くすることで、出血による合併症を減らし、より安全な治療につながることが期待されます。特に、高齢の患者では出血の危険が大きな問題となるため、その安全性の向上に役立つ可能性があります。また、治療に伴う負担が軽くなることで、患者本人だけでなく、医療全体の負担の軽減にもつながることが期待されます。
今後は、急性冠症候群など、今回の研究とは異なる患者にもこの治療法が安全に使えるかどうかを、さらに調べていく必要があります。
特記事項
本研究成果は、2026年7月16日(木)7時30分(日本時間)に米国科学誌「Lancet」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】
“One-month versus 12-month dual antithrombotic therapy after PCI in patients with atrial fibrillation (OPTIMA-AF): a multicenter, noninferiority-superiority hybrid, randomised controlled trial”
【著者名】
Yohei Sotomi, Ken Kozuma, Yoshiharu Higuchi, Gaku Nakazawa, Yoshihiro Morino, Kenji Ando, Junya Ako, Kengo Tanabe, Takashi Muramatsu, Ken Kobayashi, Yasuhiro Ichibori, Takayuki Ishihara, Keiji Hirooka, Satoru Suwa, Takayuki Warisawa, Toru Naganuma, Atsushi Kikuchi, Ryu Shutta, Naotaka Okamoto, Yasuhiro Tanabe, Atsunori Okamura, Kosuke Kashiwabara, Shungo Hikoso, and Yasushi Sakata, for the OPTIMA-AF Investigators
DOI:https://doi.org/10.1016/s0140-6736(26)00665-3
なお、本研究は、アボットメディカルジャパン合同会社の協力を得て行われました。
用語説明
※1 冠動脈ステント治療(PCI)
心臓の血管が狭くなった部分にステントを入れて血流を改善する治療。
※2 抗血栓薬
抗凝固薬と抗血小板薬。血液を固まりにくくする、いわゆる「血をサラサラにする」薬。
※3 OPTIMA-AF試験
冠動脈ステント治療を受ける心房細動患者における最適な抗血栓療法を評価した全国多施設前向き無作為化比較試験。
【参考URL】
坂田泰史 教授(循環器内科学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/6798535393e44d5a.html
