川﨑 良≪公衆衛生学≫ 不妊治療による妊娠と子どもの川崎病リスクとの関連
~エコチル調査 約10万人の出生コホート研究で明らかに~
2026年9月3日
掲載誌 JAMA Network Open
図1 不妊治療と子どもが川崎病となるリスクの関連
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研究成果のポイント
- 不妊治療のうち排卵誘発※1、人工授精※2、体外受精※3による妊娠では、自然妊娠と比較して、子どもが川崎病になるリスクが高くなることが明らかに。一方、顕微授精※4による妊娠では、このリスクに差が認められなかった。
- 「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の大規模出生コホート調査※5により、不妊治療による妊娠と、生まれた子どもが5歳までに川崎病となるリスクとの関連を検討した。
- 今後、他の集団におけるデータでの再現性の確認や、不妊治療と川崎病を結びつけるメカニズムの解明につながることが期待。
概要
大阪母子医療センター 母子保健調査室の馬場幸子 室長(エコチル調査・大阪ユニットセンター 副ユニットセンター長)、大阪大学大学院医学系研究科の川崎良 教授(公衆衛生学/エコチル調査・大阪ユニットセンター ユニットセンター長)らの研究チームは、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の対象者のうち101,864人を対象として、不妊治療と、生まれた子どもが生後59か月(5歳)までに川崎病となるリスクとの関連について検討しました。
生殖補助医療の対象となる不妊症と川崎病は、いずれも免疫の働きが関わっていると考えられ、近年増加傾向にあるという共通点がありますが、これまで両者の関連を検討した研究はありませんでした。
検討結果、不妊治療による妊娠は自然妊娠と比較し子どもが川崎病となるリスクの増加と関連しており(調整HR 1.42, 95%CI 1.18–1.70)、不妊治療法別では排卵誘発(1.57, 1.22–2.03)、人工授精(1.48, 1.01–2.16)、体外受精(1.53, 1.07–2.20)でも同様の関連を認めました。一方、顕微授精では有意な関連は認められませんでした(0.91, 0.58–1.43)。これらの関連は母親の基礎疾患を追加調整した後も持続しました。
今後、他の集団におけるデータでの再現性の確認や、不妊治療と川崎病を結びつけるメカニズムの解明につながることが期待されます。
本研究成果は、米国医師会オンライン学術雑誌「JAMA Network Open」に、2026年8月12日(現地時間)に掲載されました。
研究者のコメント
<川崎良教授のコメント>
川崎病は、今なお小児における重要な後天性心疾患の原因であり、その発症要因はいまだ十分に解明されていません。また、わが国では患者数が増加傾向にあることが知られています。本研究は、国際的にも類を見ない大規模かつ長期的な追跡研究であるエコチル調査によって、初めて実現したものです。今後、生殖補助医療と川崎病の発症リスクとの関連や、その背景にある仕組みをさらに詳しく検討することで、川崎病の成因の解明が進むことを期待しています。
研究の背景
エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、環境省が平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを設置しています。また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
近年、不妊治療(生殖補助医療)を受けて出生する子どもの割合は世界的に増加しており、日本では2023年に出生した児の約11.7%を占め、欧米と比較しても高い水準にあります。これに伴い、生殖補助医療により出生した子どもの長期的な健康影響への関心が高まっています。川崎病は、主に乳幼児にみられる全身性の血管炎で、高所得国における小児の後天性心疾患の主要な原因の一つです。日本における川崎病の患者数は年々増加しており、適切な治療が行われない場合、心臓に後遺症が生じることもあります。生殖補助医療の対象となる不妊症と川崎病は、いずれも免疫の働きが関わっていると考えられ、近年増加傾向にあるという共通点がありますが、これまで両者の関連を検討した研究はありませんでした。そこで本研究では、生殖補助医療と子どもが5歳までに川崎病となるリスクの関連を検討しました。
研究の内容
本研究では、エコチル調査の対象者のうち、受胎方法(自然妊娠か不妊治療によるものか)に関するデータがそろっているお子さん101,864人を対象としました。 子どもを、自然妊娠による出生、不妊治療による出生の2つに分け、更に不妊治療を排卵誘発、人工授精、体外受精、顕微授精に分けました。また、生後59ヶ月(5歳未満)までの川崎病について、保護者からの質問票回答を元に、通院した医療機関への調査を行って診断したことを確認しました。 受胎方法と、川崎病となるリスクとの関連を検討するために、Cox比例ハザードモデルによりハザード比(Hazard Ratio:HR)※6および95%信頼区間(CI)※7を推定しました。出生年、子どもの性別、在胎期間、多胎妊娠、母親の年齢、上の子の有無、世帯収入、居住地域に加え、母親の子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群、アレルギー性疾患(アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎・喘息)、自己免疫性疾患を調整しました。
そして、5歳(生後59ヶ月)までに1,226例の川崎病が確認されました。不妊治療全体では川崎病となるリスクが1.42倍で(調整HR 1.42, 95%CI:1.18-1.70)、不妊治療法別では排卵誘発法(調整HR 1.57, 95%CI:1.22-2.03)、人工授精(調整HR 1.48, 95%CI:1.01-2.16)、体外受精(調整HR 1.53, 95%CI:1.07-2.20)でリスク上昇を認めましたが、顕微授精では明らかな関連を認めませんでした(調整HR 0.91, 95%CI:0.58-1.43)。これらの関連は、母親の不妊の基礎疾患やアレルギー・自己免疫疾患を調整した解析でも変わりませんでした。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究の結果から、顕微授精を除く不妊治療(排卵誘発、人工授精、体外受精)は、子どもが川崎病となるリスクの上昇と関連することが示されました。この関連は、母親の基礎疾患を調整した後も一貫して認められました。
顕微授精が他の治療法と異なる結果になった要因として、不妊の原因(男性側か女性側か)や治療手技の違いが関係している可能性が考えられますが、明確な理由はわかっていません。一方、排卵誘発、人工授精、体外受精でみられたリスク上昇は、母親の子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群を調整した後も一貫して関連を認めたことから、不妊をもたらした母親側の要因というよりは不妊治療そのものや不妊に関わる未測定の要因が関与する可能性を示唆しました。保護者からの申告がなく把握できなかった川崎病の例が存在する可能性や、本研究では考慮できなかった遺伝的要因等の影響も否定できません。
不妊治療と子どもが川崎病となるリスクの関連が示されたのは、本研究が初めてであり、今後他の集団におけるデータでの再現性の確認や、不妊治療と川崎病を結びつけるメカニズムの解明についてさらなる研究が必要と考えられます。
特記事項
本研究成果は、米国医師会オンライン学術雑誌「JAMA Network Open」に、2026年8月12日(現地時間)に掲載されました。
【タイトル】
“Fertility Treatments and the Risk of Kawasaki Disease Among Offspring”
【著者名】
Sachiko Baba1,2 Kanami Tanigawa1,3 Junji Miyazaki3 Kazuko Wada4 Michiko Kodama5 Ryo Kawasaki3 Hiroyasu Iso3,6
1. 大阪母子医療センター母子保健情報センター
2. 大阪大学大学院医学系研究科医学科国際交流センター
3. 大阪大学大学院医学系研究科社会医学
4. 大阪母子医療センター新生児科
5. 大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学
6. 国立健康危機管理研究機構 グローバルヘルス政策研究センター
DOI:https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2026.28586
用語説明
※1 排卵誘発
薬剤を用いて卵巣からの排卵を促す不妊治療です。
※2 人工授精
採取した精子を子宮内に注入する不妊治療です。
※3 体外受精
体外で卵子と精子を受精させ、得られた胚を子宮に戻す不妊治療です。
※4 顕微授精
顕微鏡下で1個の精子を卵子に直接注入して受精させる不妊治療です。精子が極端に少ない場合などに用いられます。
※5 出生コホート調査
子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期の環境因子が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかを調査します。大人になるまで追跡する場合もあります。
※6 ハザード比(Hazard Ratio: HR)
2つのグループ間で、ある事象が単位時間あたりに発生する割合(ハザード)を比較する統計学的な指標です。1を超えるとより起こりやすい、1を下回るとより起こりにくいことを示します。
※7 95%信頼区間(CI)
調査の精度を表す指標です。精度が高ければ狭い範囲に、低ければ広い範囲となります。この範囲が1を含まない場合、統計学的に意味のある差(有意な関連)があると判断されます。
【参考URL】
川崎良 教授 (公衆衛生学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/4c89cb09922bae2c.html
