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    ~線維化関連疾患への新たなアプローチの可能性~

大西 彩乃、小野寺 俊晴、下村 伊一郎≪内分泌・代謝内科学≫ 漢方薬「防風通聖散」が加齢による脂肪組織の線維化を抑制する
~線維化関連疾患への新たなアプローチの可能性~

2026年8月21日

掲載誌 Phytomedicine

図1 本研究の概要
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研究成果のポイント

  • 肥満に用いられる漢方薬の「防風通聖散※1」が「加齢」条件下で脂肪組織の「線維化※2」を抑制する作用を発見し、その作用機序と効果に寄与する構成生薬を同定
  • 防風通聖散による脂肪組織の線維化抑制作用を検討し、18種類の構成生薬それぞれの寄与を評価
  • 防風通聖散やその構成生薬の線維化抑制作用の解明により、肥満症だけでなく線維化関連疾患への治療応用にも期待

概要

 大阪大学大学院医学系研究科の大西 彩乃さん(博士後期課程)、小野寺 俊晴助教、下村 伊一郎教授らの研究グループは、漢方薬の「防風通聖散」が、加齢に伴う肥満によって生じる脂肪組織の「線維化」を抑制する効果をもつことを明らかにしました。

 肥満や加齢は、体内で慢性的な炎症を引き起こし、さまざまな組織の「線維化」をもたらすことが知られています。脂肪組織において線維化が生じると、その機能不全からさまざまな病態が誘発されますが、現時点で線維化を直接的に抑える治療法は確立されていません。

 防風通聖散は、日本で肥満症などに広く用いられている漢方薬です。これまで、防風通聖散やその構成生薬の抗線維化作用に関する報告がありますが、防風通聖散が「加齢」という条件下で脂肪組織の線維化に対してどのような効果を発揮するかについては解明されていませんでした。

  今回、研究グループは、脂質を多く含むエサによって肥満を誘発した高齢マウスに対して防風通聖散を投与すると、脂肪組織や肝臓における線維化が抑制されることを明らかにしました。また、細胞実験によって、防風通聖散が直接的な抗線維化作用を有することや、線維化を制御する「TGF-β/Smadシグナル伝達経路※3」を介した具体的なメカニズムが示唆されました。さらに、18種類の構成生薬を個別に分析することで、強力な線維化抑制作用を有する生薬と線維促進作用を有する生薬をそれぞれ同定しました。この結果を踏まえて配合を調整することで、抗線維化作用がさらに強化されることを確認しました(図1)。

 今回の結果から、防風通聖散には、肥満症だけでなく、線維化に関連するさまざまな疾患に対する新たな治療薬としての役割も期待されます。

 本研究成果は、欧州の科学誌「Phytomedicine」に、2026年6月29日に公開されました。

研究者のコメント

<小野寺俊晴助教のコメント>
防風通聖散は抗肥満作用で知られる漢方です。肥満は糖尿病・心不全・慢性腎臓病などの要因となり、その一因が脂肪組織の線維化です。線維化で脂質の貯蔵機能が損なわれると、溢れ出た脂質が他臓器に蓄積して障害を招きますが、確立された治療法はありません。漢方の効果には個人差が大きいですが、防風通聖散の抗肥満・抗線維化作用は特に高齢者で効果が強い可能性が示され、防風通聖散の日常利用に大きなヒントを与える結果になったと考えています。

研究の背景

 現在、肥満人口の増加による健康への悪影響が世界的に問題となっています。肥満は、単なる体重の増加だけでなく、体内で慢性的な炎症を引き起こすことで、組織にコラーゲンなどの物質を過剰に蓄積させ、「線維化」をもたらすことが知られています。肥満に対しては、近年いくつかの治療薬が登場していますが、使用にあたっては身長・体重から計算されるBMI(Body Mass Index)などによる適応の制限があります。また、「加齢」も組織の線維化を加速させる要因と考えられています。肥満や加齢による線維化の進行は、心臓・肝臓・腎臓など全身の臓器においてさまざまな病気につながります。

 脂肪組織で線維化が生じると、脂肪組織の機能不全をもたらし、糖尿病や脂質異常症といった全身の代謝異常や、脂肪性肝疾患を含む異所性脂肪蓄積※4の原因となります。しかし、現時点で線維化を直接的に抑える治療法は確立されていません。

 防風通聖散は、日本で肥満症などに広く用いられている漢方薬です。近年、防風通聖散が脂質の排泄や代謝の促進といった機序で肥満を抑制する作用を有することが明らかになってきました。防風通聖散やその構成生薬が線維化を抑制する作用に関する報告もありますが、防風通聖散が「加齢」という条件下で、脂肪組織の線維化に対してどのように直接的な効果を発揮するかについては解明されていませんでした。

研究の内容

 研究グループは、脂質を多く含むエサによって肥満を誘発した高齢マウスに、防風通聖散を投与する実験を行いました。その結果、防風通聖散を投与したマウスでは、体重や皮下脂肪・内臓脂肪・肝臓の重量の減少とともに、脂肪組織や肝臓における線維化が抑制されることが判明しました。

 また、培養細胞を用いた実験によって、防風通聖散が体重減少に伴う間接的な抗線維化作用だけでなく、直接的な抗線維化作用を有することが示唆されました。さらに、具体的なメカニズムとして、防風通聖散が線維化の制御に重要な「TGF-β/Smadシグナル伝達経路」の一部であるSmad2/3のリン酸化をブロックすることも突き止めました。

 同様の実験モデルで18種類の構成生薬を個別に分析し、中でも連翹(レンギョウ)、生姜(ショウキョウ)、大黄(ダイオウ)、黄芩(オウゴン)が強力な抗線維化作用を発揮することを同定しました。一方で、芒硝(ボウショウ)などの鉱物由来成分は、培養条件下では線維化を促進する性質を持つことも分かりました。これらの結果から、芒硝などの線維化促進成分を除去しつつ、連翹などの抑制成分を増量するように構成生薬の配合を調整したところ、従来の処方よりもさらに強力に線維化を抑えることが確認されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 今回の研究結果から、防風通聖散には、肥満症に対する効果だけでなく、線維化に関連するさまざまな疾患に対する新規の治療薬としての可能性が期待されます。さらに、18種類の配合生薬それぞれについて検証したことで、有効な成分を強化するような配合調整が可能となり、抗線維化作用のさらなる強化も期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年6月29日に欧州の科学誌「Phytomedicine」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】

“Identification of anti-fibrotic components of Bofutsushosan under conditions of age-associated obesity in mice”

【著者名】

Ayano Onishia, Toshiharu Onoderaa,b, Shu Sugayac, Tetsuya Matsushitac, Masahiko Komorisoc, Jihoon Shina,d, Shigeki Nishitania, Atsunori Fukuharaa,b, Iichiro Shimomuraa

【所属】
a Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Osaka, Yamadaoka, Suita, Osaka, Japan
b Department of Adipose Management, Graduate School of Medicine, The University of Osaka, Yamadaoka, Suita, Osaka, Japan
c R&D Headquarters, Kobayashi Pharmaceutical Co., Ltd, 4-1-66 Saito Aokita, Minoh, Osaka, Japan
d Department of Molecular Metabolism, Harvard T. H. Chan School of Public Health, Boston, MA, USA

DOI:https://doi.org/10.1016/j.phymed.2026.158522

 なお、本研究は、小林製薬株式会社の協力のもと、共同研究として行われました。

 また、日本学術振興会科学研究費助成事業、興和生命科学振興財団研究助成、小林製薬株式会社奨学寄附金、花王健康科学研究会研究助成の協力を得て行われました。

用語説明

※1  防風通聖散
18種類の生薬から構成される漢方薬で、日本では肥満症などの諸症に用いられる。

※2 線維化
慢性的な炎症などの結果として、細胞外マトリックス(組織の構造を支える骨格)を形成するコラーゲンなどのタンパク質が過剰に蓄積し、組織・臓器が硬くなる変化のこと。

※3 TGF-β/Smadシグナル伝達経路
細胞内のシグナルを伝える経路のひとつで、細胞外からの刺激を受け、線維化の進行を制御する。

※4 異所性脂肪蓄積
脂肪組織以外の、本来は脂肪が溜まらない組織に脂肪が蓄積すること。たとえば肝臓の場合は、脂肪性肝疾患の原因となり、肝機能障害や発がんリスクをもたらす。

 

【参考URL】

小野寺俊晴 助教 (内分泌・代謝内科学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/8657fb0ee3d68990.html

下村伊一郎 教授 (内分泌・代謝内科学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/3e3872c137fac11b.html