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  • 今井 淳裕、松井 功、猪阪 善隆≪腎臓内科学≫ \腎疾患治療薬創出への新たな足掛かり/
    腎臓の濾過フィルター細胞が脱落するメカニズムを解明
    ~接着異常と小胞輸送障害は負のループを形成する~

今井 淳裕、松井 功、猪阪 善隆≪腎臓内科学≫ \腎疾患治療薬創出への新たな足掛かり/
腎臓の濾過フィルター細胞が脱落するメカニズムを解明
~接着異常と小胞輸送障害は負のループを形成する~

2026年8月20日

掲載誌 Kidney International

図1 本研究のまとめ
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研究成果のポイント

  • 腎臓の濾過フィルター機能を担うポドサイト(糸球体上皮細胞)が何らかの原因で接着異常をきたすと、細胞内小胞輸送障害と接着能低下が負のループを形成し、ポドサイトの脱落につながることを明らかにした
  • これまで腎不全患者や高齢者ではポドサイト数が減少することが知られており、これはポドサイトの脱落が主たる原因と考えられていたが、そのメカニズムは明らかになっていなかった
  • 今後、ポドサイト障害に起因する腎疾患の治療薬創出の足掛かりとなることが期待される

概要

 大阪大学大学院医学系研究科の今井 淳裕さん(博士後期課程)、松井 功准教授、猪阪 善隆教授らの研究グループは、腎臓において濾過フィルターの役割をしているポドサイト(糸球体上皮細胞)※1が腎障害時に糸球体基底膜から剥がれ落ちるメカニズムを明らかにしました。

 これまでに腎不全患者や高齢者の腎臓ではポドサイト数が減少することが明らかとなっており、ポドサイトの数は腎機能と密接に関わっているといわれていました。一般に、ポドサイト数の減少にはポドサイトの脱落が主に関わっていると考えられていますが、ポドサイトが障害を受けた結果、脱落してしまうメカニズムについては、これまで十分には明らかになっていませんでした。

 今回、研究グループは、ポドサイトの接着異常を来たすマウスや腎不全患者の遺伝子発現データベースを用いて、障害ポドサイトでは小胞輸送に必須の因子であるNSF(N-ethylmaleimide sensitive factor)※2が減少することを明らかにしました。そして、NSFが減少した結果、細胞接着因子であるインテグリン※3の成熟が阻害され、さらなる接着能低下を来たすことを明らかにしました(図1)。

 この結果から、NSFの補充など細胞内輸送の停滞を改善させるような治療がポドサイトの脱落を予防することにつながる可能性があり、今後、ポドサイト障害が関わるような腎疾患に対する治療薬開発のきっかけとなることが期待されます。

 本研究成果は、国際科学誌「Kidney International」に、7月24日(金)に公開されました。

研究者のコメント

<松井准教授のコメント>
 ポドサイトは常に濾過圧にさらされるという過酷な環境下にありながら、腎臓の細胞の中に占める割合は数パーセントと非常に少なく、また終末分化細胞であるために増殖もしないといわれています。このことから人が何十年も生きていく中で、ポドサイトの数を維持し腎臓を守ることが、いかに難しいことかは容易に想像できます。この研究で明らかになった「接着異常と小胞輸送障害の負のループ」を断ち切ることは、ポドサイトの生存において有利に働く可能性があり、高齢化社会に伴い増加する慢性腎臓病患者を減少させることに役立つものと考えています

研究の背景

 腎臓は1日に100リットル程度の血液を濾過することで、体の老廃物を尿中へと排泄しています。この濾過機構において、血中の必要なたんぱく質が尿中に漏れ出さないようなフィルターの役割をしているのがポドサイトです。

 腎臓は糸球体といわれる構造において血液から原尿※4を生成しますが、そこでポドサイトは血管内皮細胞と基底膜とともにフィルター構造を形成しています(図2)。そのため、ポドサイトに障害が加わるとフィルター構造が破綻して血中の蛋白が尿中に漏れ出し、最終的に腎不全に至ります。このような構造を踏まえると、ポドサイトが正しく機能し続けるには、濾過による圧力に耐えながらしっかりと基底膜に接着する必要があるため、ポドサイトでは特に接着機構が重要であると考えられています。

 ポドサイトに何らかの接着障害が起きるとポドサイトが脱落してしまうことは明らかとなっていますが、どのようなメカニズムで障害が進行し脱落にいたるのかは、十分に明らかになっていませんでした。

図2 糸球体の拡大図
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研究の内容

 研究グループでは、ポドサイト障害により腎不全に至るマウスの腎臓を用いて、1細胞レベルでの遺伝子発現を網羅的に解析したところ障害ポドサイトでNSFという遺伝子の発現が減少することを明らかにしました(図3)。このNSFの減少は、ポドサイト障害を来たすことが知られている糖尿病関連腎臓病や高血圧関連腎臓病の患者のポドサイトでも同様に観察され、障害ポドサイトに共通する変化であると考えられました。

図3 障害ポドサイトでの遺伝子発現変化
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 NSFは細胞内小胞輸送に重要な分子であることから、その減少が障害ポドサイトにどのような影響を及ぼすかを検証するため、ポドサイト特異的NSF欠失マウスを作成しました。その結果、このマウスは生後数週間で多量の尿タンパクを示し、腎不全に至ることが分かりました。また、ポドサイトの接着能低下と数の減少も認められました。解析の結果、NSF欠失により小胞体-ゴルジ輸送※5が著しく遅延し、ポドサイトの接着に必須のタンパク質であるインテグリンの減少を引き起こすことが明らかとなりました。そして、インテグリンが減少したポドサイトでは、接着シグナルの低下により更なるNSFの減少を引き起こし負のループを形成すると考えられました(図4)。

図4 接着異常と小胞輸送障害の負のループ
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本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、障害ポドサイトにおける「接着異常と小胞輸送障害の負のループ」を解消することがポドサイトの生存に有効である可能性が明らかになりました。これまで糖尿病関連腎臓病や高血圧関連腎臓病では、糖尿病や高血圧症に対する治療が中心となっていましたが、細胞内小胞輸送の停滞を解消するなどのポドサイトの障害メカニズムに直接的に介入するような新たな治療戦略が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年7月24日(金)に国際科学誌「Kidney International」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】

“A vesicular trafficking pathway mediated by N-ethylmaleimide-sensitive factor governs integrin maturation and podocyte integrity”

【著者名】

Atsuhiro Imai, Kazunori Inoue, Xie Min-Jue, Natsune Tamai, Motoko Shimada, Takehito Harimoto, Hiroki Okushima, Ayumi Matsumoto, Jun Matsuda, Hideo Matsuzaki, Shuta Ishibe, Yoshitaka Isaka, and Isao Matsui

DOI:https://doi.org/10.1016/j.kint.2026.06.035

用語説明

※1 ポドサイト(糸球体上皮細胞)
腎臓の糸球体で、血液を濾過するフィルターの役割を担う細胞です。糸球体基底膜や血管内皮細胞とともに濾過膜を形成し、血液中の必要な蛋白質が原尿中へ漏れ出るのを防いでいます。ポドサイトが障害を受けて脱落すると、蛋白尿や腎機能低下の原因となります。

※2 NSF(N-ethylmaleimide-sensitive factor)
細胞内で物質を運ぶ小胞(輸送小胞)の輸送を維持するために重要な蛋白質です。SNARE蛋白の働きを繰り返し利用できるようにする役割を担い、小胞同士の融合を支えています。NSFの機能が低下すると小胞輸送が障害され、細胞の正常な機能が損なわれます。

※3 インテグリン
細胞と、基底膜などの周囲の組織をつなぐ接着蛋白です。細胞を組織に固定するだけでなく、周囲の環境を細胞内へ伝える情報伝達にも関わります。ポドサイトでは糸球体基底膜への強固な接着を維持するために不可欠です。

※4 原尿
腎臓の糸球体で血液が濾過されて最初に作られる尿のもとです。水分や電解質、糖、老廃物などを含みますが、その後、尿細管で必要な成分や水分が再吸収され、不要な成分だけが最終的な尿として排泄されます。

※5 小胞体-ゴルジ輸送
小胞体で翻訳された蛋白質はゴルジ体へと輸送されることで、脂質や糖鎖の負荷などの翻訳後の修飾や選別を受けます。この翻訳後修飾をうけることでインテグリンなどの蛋白質は正しく機能することができます。

【SDGs目標

【参考URL】

松井功 准教授 (腎臓内科学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/96444741b5ddf5a9.html