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神宮司 健太郎、植村 元秀≪泌尿器腫瘍標的治療学寄附講座≫、野々村 祝夫≪泌尿器科学≫ 血中を流れるナノサイズのがん細胞レプリカ「エクソソーム」から腎臓がん早期診断バイオマーカーAZU1を発見


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2017年10月4日
公益財団法人がん研究会
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

掲載誌International Journal of Cancer

研究成果のポイント

  • 腎臓がん患者様20名から提供を受けた腎組織よりエクソソームを抽出して最先端の質量分析計で解析した結果、アズロシディン(AZU1)タンパク質が著しく蓄積していることが分かりました。
  • 血清エクソソームを測定した試験では、臨床病期Ia期のごく初期の腎臓がんでもAZU1が健常者より高値を示しました。
  • 腎臓がん細胞が作るAZU1が豊富なエクソソームは血管内皮細胞シートを傷害し、がん細胞の血行性転移を誘発している可能性があることも分かりました。
  • これらの結果をもとに東ソー株式会社が世界初のエクソソーム上タンパク質を指標とした血液診断キットの開発に着手しました。実現すれば腎臓がんバイオマーカーとしても世界初となります。

 

腎臓がんは我が国で年間約2万5千人が罹患し、約9千人が死亡する悪性腫瘍です。また、他の多くのがんと同様に早期診断が生命予後に大きく影響するがんです(診断時臨床病期I期の場合5年生存率97.1%、IV期の場合16.4%)。しかし腎臓がん診断の約8割は偶発がん(他の検査で偶然発見されるがん)であるのが現状で、診断に使用可能な血液バイオマーカーが一つも発見されていないのも特徴です。

植田幸嗣プロジェクトリーダー(がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター)、辻川和丈教授(大阪大学大学院薬学系研究科)、及び野々村祝夫教授(大阪大学大学院医学系研究科泌尿器科)、神宮司健太郎助教・植村元秀准教授(泌尿器腫瘍標的治療学)らの研究チームは、がん細胞が自分自身の分子情報をコピーして細胞外に放出する直径数十ナノメートルのレプリカ「エクソソーム」に着目して、腎臓がん組織から採取したエクソソームの詳細な構成タンパク質解析を実施しました。

その結果、アズロシディン(AZU1)というタンパク質が腎臓がん細胞の作るエクソソームで非常に多く存在し(正常腎細胞エクソソーム比30倍以上)、臨床病期Ia期のごく初期の腎臓がん患者血清75%からも検出が可能であることが分かりました。血液検査でエクソソーム上のAZU1を計測可能な診断法が実用化されれば、腎臓がんの早期発見率の向上とともに死亡数の大幅な減少が期待できます。

本研究成果はUICC(国際対がん連合)の公式誌である「International Journal of Cancer」オンライン版(2017年10月4日付け)に掲載されました。

研究の背景と目的

腎臓がんは世界的にも罹患数、死亡数が年々増加の一途を辿っており、早期発見時の臨床予後は良好な一方で、発見が遅れると大変予後の悪いがんです。しかし他の主要臓器がんと異なり、診断に使用可能な血液バイオマーカーがいまだ一つも発見されていませんでした。他方、2013年のノーベル医学生理学賞で「細胞内小胞輸送機構の解明」が取り上げられて以来、その産物の一つであるエクソソームに注目が集まっていました。そこで、がん研究会・がんプレシジョン医療研究センターが保有する世界最高感度のタンパク質質量分析技術を駆使して、腎臓がん細胞が分泌するエクソソームから早期診断に利用可能なバイオマーカーを同定しようと試みました。

研究の成果

研究チームはまず、手術で切除したばかりの「生きた」組織が分泌しているエクソソームを採取する技術を開発しました。本法により腎臓がん患者様20名から提供を受けた腎組織よりエクソソームを抽出して最先端の質量分析計で解析した結果、3,871種のエクソソーム構成タンパク質が検出され、特にAZU1タンパク質が著しく蓄積していることが分かりました(p値2.85×10-3、正常腎細胞エクソソーム比31.6倍)。

さらに10名の健常者、20名の腎臓がん患者様から提供を受けた血清を測定した試験では、感度52.6%、特異度100%を示し、とりわけ最も初期の臨床病期Ia期でもエクソソーム上AZU1が健常者より高値を示しました。

また、AZU1は様々なタンパク質を分解するペプチダーゼという酵素であることが知られています。そこで人工的にAZU1タンパク質を多量に発現するエクソソームを作成して血管内皮細胞シートとの相互作用を調べたところ、AZU1が豊富なエクソソームは血管内皮細胞シートを傷害し、がん細胞の血行性転移を誘発している可能性があることも分かりました。

まとめ

腎臓がんの存在を早期に血液から検出できる可能性のあるバイオマーカー、エクソソームAZU1を見出しました。現在、総合化学大手の東ソー株式会社と共同開発契約を締結して世界初と成るエクソソームタンパク質を指標とした診断薬の開発に着手しており、早期の臨床実用化を目指しています。

原著論文タイトル

Extracellular vesicles isolated from human renal cell carcinoma tissues disrupt vascular endothelial cell morphology via azurocidin

掲載誌名

International Journal of Cancer

本研究への支援

本研究は以下の研究費支援を受けて実施されたものです。

  • 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
    次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)

著者

神宮司健太郎1,3, 植村元秀2,3, 大西なおみ4, 中田渡2, 藤田和利2, 内藤拓也1, 藤井理沙4, 最知直美4, 野々村祝夫2, 辻川和丈1, 植田幸嗣4*(*責任著者)

  1. 大阪大学大学院薬学研究科 細胞生理学分野
  2. 大阪大学大学院医学系研究科 泌尿器科学
  3. 大阪大学大学院医学系研究科 泌尿器腫瘍標的治療学
  4. がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター がんオーダーメイド医療開発プロジェクト