異種臓器移植学
- 異種臓器移植を日本の臨床へ届けるために
- 移植する心臓を長く守る、新しい臓器保存法
- 心臓の状態を確かめながら保存する還流装置の開発
- 制御性T細胞(Treg)による拒絶反応の制御
- ブタからサルへの心臓移植実験による安全性と有効性の検証
臓器保存・免疫制御・移植実験をつなぎ、異種臓器移植の国内臨床応用を目指す
心臓や腎臓などの働きが失われた患者さんにとって、臓器移植は生命をつなぐ大切な治療です。しかし日本ではドナーが不足しており、移植を受けるまで長い時間を要します。補助人工心臓などの治療が進歩した現在も、移植を待つ間に病状が悪化し、救命が難しくなる方がいます。私たちは、ブタの臓器を用いる「異種臓器移植」を、日本で患者さんに届けられる治療へと育てることを目指しています。
異種移植の実現には、拒絶反応の制御に加え、摘出した臓器を良好な状態に保ち、安全な移植手術と術後管理の方法を確立する必要があります。当講座では、心臓外科の臨床経験を基盤として、臓器保存・還流装置、免疫制御、移植実験の三つの研究を進めています。
第一は、移植する心臓を守る研究です。心臓は体から取り出されると酸素や栄養の供給が途絶え、時間とともに機能が低下します。そこで、心筋のエネルギーを保つ薬剤を用いた保存法と、体外で心臓に保存液を循環させる還流装置を開発しています。心臓の状態を評価しながら機能を維持し、移植後に十分に働く臓器を届けることが目標です。この技術は異種移植だけでなく、ヒトからヒトへの心臓移植にも役立つ可能性があります。
第二は、免疫を制御する研究です。異なる種の臓器を移植すると、受け手の免疫が強く反応して臓器を傷つけます。私たちは、免疫反応にブレーキをかける制御性T細胞(Treg)に着目しています。Tregの働きを移植に生かし、拒絶反応を抑えて移植臓器を長く機能させる方法を探ります。将来は、免疫抑制薬による患者さんの負担の軽減にもつなげたいと考えています。
第三は、ブタからサルへの心臓移植実験です。これまでに移植手術を行い、移植した心臓の働きや拒絶反応を検討してきました。今後は保存法や免疫制御の成果を組み合わせ、臓器が安定して働き続けるための条件を確かめます。感染症への対策や倫理面にも配慮しながら、基礎研究から前臨床研究へ、一段ずつ確実に進めます。免疫学、工学、獣医学などの研究者とも協力し、日本における異種臓器移植の臨床応用に必要な基盤を築いていきます。
図:ブタ臓器を用いた臓器移植治療の確立
