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西出 真之、熊ノ郷 淳 ≪呼吸器・免疫内科学≫、楢﨑 雅司 ≪先端免疫臨床応用学≫ 指定難病「血管炎」の発症と悪化にかかわる「悪玉」好中球の発見 ~病気の再燃を予測可能に~

2025年4月24日
掲載誌 Nature Communications

図: 好中球の1細胞レベルの解析により、新規発症の血管炎患者さんで増加している活性化型「悪玉」好中球集団を同定することに成功した
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研究成果のポイント

  • ANCA関連血管炎※1患者の好中球※21細胞解析※3に世界で初めて成功し、一見同じように見える白血球集団の中で、とても活性化しやすい「悪玉」好中球が増えていることを発見
  • 全身の血管の炎症や内臓機能の低下などを引き起こすANCA関連血管炎は厚生労働省の指定難病だが、いまだ正確な病態がわかっていなかった
  • この「悪玉」好中球は「インターフェロンガンマ」と呼ばれる物質の刺激を受けており、血中のインターフェロンガンマ濃度を測定することで病気の再燃を事前に予測し、診療に役立てることが可能に

概要

大阪大学大学院医学系研究科の西出真之講師(呼吸器・免疫内科学)、西村桂共同研究員(免疫学フロンティア研究センター免疫創薬共同研究部門)、楢﨑雅司特任教授(常勤)(先端免疫臨床応用学共同研究講座)、熊ノ郷淳総長らの研究グループは、指定難病であるANCA(アンカ/抗好中球細胞質抗体)関連血管炎について、治療開始前の患者さんから採取した白血球を用いて、世界で初めて指定難病「血管炎」の詳細な好中球1細胞解析に成功しました。その結果、刺激によって活性化しやすく、血管炎の発症と悪化にかかわる「悪玉」好中球が増えていることを発見しました。1細胞ごとの遺伝子発現の違いに基づく病気のメカニズム解明と、実臨床での再発予測に応用できる研究成果です。

ANCA関連血管炎の一種であるMPA(顕微鏡的多発血管炎)は、全身の小型血管に炎症を生じ、内臓機能の低下など多彩な症状を引き起こします。MPAANCAによる好中球の過剰な活性化が病気の原因とされていますが、正確な病態は未知の部分が多い病気です。

今回、研究グループがMPA患者さんおよび健常な方に対し白血球の1細胞解析を行ったところ、MPA患者さんはインターフェロンガンマと呼ばれるタンパク質による刺激を多く受けている好中球が血中で著しく増加していることがわかりました。研究グループがこの好中球を試験管内で再現したところ、ANCAによる刺激にたいして強く活性化することが判明し、血管炎の悪化に関与していることが予測されました。また、この「インターフェロンガンマ」の濃度を患者さんの血中で測定すると、濃度が高い患者さんは治療後の再発率が高いことが明らかになりました。血管炎患者さんの再燃を事前に予測できるバイオマーカーとして実臨床への応用が期待されます。

本研究の背景

ANCA関連血管炎の一種であるMPAは、腎臓、肺、皮膚、神経などに分布する小型血管の血管壁に炎症を引き起こし、血流障害による内臓機能低下や、組織の壊死に繋がる病気です。多様かつ臓器横断的な症状をきたす自己免疫疾患であり、厚生労働省の指定難病となっています。ANCAによる好中球の異常な活性化が血管の炎症を引き起こすことがわかっていますが、正確な病態は未知の部分が多い病気です。

本研究の内容

今回、研究グループでは、新規発症のMPA患者さんおよび健常な方の末梢血を採取し、合計179,664個の末梢血白血球について、1細胞解析(シングルセルトランスクリプトーム解析および表面分子のプロテオーム解析)を実施しました。MPA患者さんの白血球を1細胞レベルで解析し、さらに好中球集団に深く着目することによって、1細胞ごとの遺伝子発現の違いに基づいた好中球の多様性を解明しました。

さらなる解析の結果、MPA患者さんではインターフェロンガンマ刺激によって変動する遺伝子を多く有する好中球の割合が血中で有意に増加していました。この好中球は、成熟した好中球がインターフェロンガンマによる刺激を受け、通常とは違う方向に分化したユニークな細胞集団でした。試験管内で健常な方の好中球にインターフェロンガンマを含むサイトカイン刺激を加えると、血管炎患者と同じプロフィールの「悪玉」好中球を再現することができ、この好中球はANCAによる刺激に強く反応し活性化することがわかりました。この好中球集団が「悪玉」として血管炎の発症や悪化に関わっていることが予測されるだけでなく、治療前に血中のインターフェロンガンマ濃度を測定することができれば、患者さんの再燃率を感度93パーセント(病気がある群での検査の陽性率)、特異度78パーセント(病気が無い群での検査の陰性率)で予測することができました。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

指定難病「血管炎」における好中球の1細胞レベルの遺伝子発現の違いを世界で初めて明らかにしただけでなく、血管炎の病態に関わる活性化しやすい「悪玉」好中球を発見し、血管炎患者さんの再燃を事前に予測できるバイオマーカーとして血中のインターフェロンガンマ濃度を提唱しました。

研究者のコメント

<西出 真之 講師>

好中球は扱いが難しい細胞で、これまでシングルセル解析は困難とされてきましたが、近年の技術の進化や、研究グループ内で実験手法を工夫することで多様性を明らかにすることが出来ました。今回の研究で提案した血中インターフェロンガンマ濃度は再燃予測のバイオマーカーとなる可能性があり、今後はさらに測定数を拡大して臨床に還元できるような研究を進めていきたいと思います。

用語説明

※1 ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎

抗好中球細胞質抗体(ANCA)の出現を特徴とする、全身の小血管に炎症を起こし多臓器不全に陥る免疫難病。その一種である顕微鏡的多発血管炎(MPA)は本邦の指定難病となっており、発症頻度は10万人当たり約1.9人とされる。

※2 好中球
血液中に含まれる白血球の一種で、体内に入った細菌などの異物を食べて排除する働きをもつ。体を病原体から守る免疫システムの最前線で活躍する重要な細胞であるが、ANCA関連血管炎においては過剰な活性化が病気を引き起こすとして問題視されている。

※3 1細胞解析
目的の細胞集団を1細胞ごとに分離し遺伝子発現量や特徴を網羅的に解析することにより、従来はひとまとめにされていた細胞ごとの個性や多様性を明らかにする最先端の手法。シングルセル解析とも言う。

特記事項

本研究成果は、2025年4月24日(木)18時(日本時間)に科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

【タイトル】

“Neutrophil single-cell analysis identifies a type II interferon-related subset for predicting relapse of autoimmune small vessel vasculitis”

【著者名】

Masayuki Nishide1,2,3*, Kei Nishimura3,4,5*, Hiroaki Matsushita3,4,5, Shoji Kawada1,2,3, Hiroshi Shimagami1,2,3, Shoichi Metsugi3,4,5, Yasuhiro Kato1,2,3, Takahiro Kawasaki1,2,3, Kohei Tsujimoto1,2,3, Ryuya Edahiro1,6,7, Yuya Shirai1,6, Eri Itotagawa1,2,3, Maiko Naito1,2,3, Yuji Yamamoto1,6, Kazuki Matsukawa1,2,3, Ryusuke Omiya4,5, Yukinori Okada6,7,8,9,10,11, Kunihiro Hattori4,5, Masashi Narazaki1,2,3, Atsushi Kumanogoh1,2,7,8,12,13*) 同等貢献.

  1. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
  2. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC感染病態分野
  3. 大阪大学大学院医学系研究科 先端免疫臨床応用学
  4. 大阪大学 免疫フロンティア研究センター(IFReC)免疫創薬共同研究部門
  5. 中外製薬株式会社 研究所
  6. 大阪大学 大学院医学系研究科 遺伝統計学
  7. 理化学研究所 生命医科学研究センター システム遺伝学チーム
  8. 大阪大学先導的学際研究機構(OTRI)生命医科学融合フロンティア研究部門
  9. 大阪大学 感染症総合教育研究拠点(CiDER)
  10. 大阪大学 免疫フロンティア研究センター(IFReC)免疫統計学分野
  11. 東京大学 大学院医学系研究科 遺伝情報学
  12. 日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業 AMED-CREST
  13. 大阪大学 ワクチン開発拠点 先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)

DOI:10.1038/s41467-025-58550-7

本研究は、日本学術振興会科研費、宇部学術振興財団、武田科学振興財団、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)、ムーンショットR&D、日本医療研究開発機構戦略的創造研究推進事業(AMED-CREST)事業「免疫記憶の理解とその制御に資する医療シーズの創出」の一環として行われました。また、本研究内容は中外製薬株式会社との共同研究講座である大阪大学大学院医学系研究科先端免疫臨床応用学講座との共同研究成果であり、遂行にあたり同社から研究資金の提供を受けています。

本件に関して、オンラインにて記者発表を行いました