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新型コロナ感染症の“後遺症”予防法の確立を! 医学系研究科と塩野義製薬による 「罹患後症状治療学共同研究講座」を設置

図1: COVID-19罹患後症状クリックで拡大表示します

概要

大阪大学大学院医学系研究科では、塩野義製薬株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役会長兼社長 CEO:手代木 功、以下「塩野義製薬」)と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状に対する予防の確立を目指して新たに共同研究講座(講座名:罹患後症状治療学共同研究講座)を2024年3月1日に設置します。

本講座の目的

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)に感染した人のうち、58人に1人は倦怠感、呼吸苦、脱毛、集中力低下などの罹患後症状、いわゆる「コロナ後遺症」を経験するとされます(図1)。しかし、COVID-19の治療や予防がある程度確立されたのとは対照的に、罹患後症状は「治療法や予防法が確立されていない」という課題があり、症状を訴える患者に対しては対症療法や経過観察を行うことしかできないのが現状です(以下、「背景1 COVID-19罹患後症状」参照)。塩野義製薬株式会社(以下、塩野義製薬)が製造販売するCOVID-19治療薬 フマル酸(日本での製品名:ゾコーバⓇ錠125 mg、以下「エンシトレルビル」)は重症化リスク因子の有無にかかわらず、軽症を含む幅広いCOVID-19患者にも処方可能な治療薬であり、探索的評価において罹患後症状を減少したことが報告されていますが、主要評価項目として検証的に評価されたわけではありません。そこで、本講座では、塩野義製薬との共同研究として、エンシトレルビルが罹患後症状を減少させるかどうかを前向き研究で検証することにより、COVID-19の罹患後症状に対する予防法の確立を目指します。また、本研究ではこれまでの研究実績を活かし、医療機関への来院に依存しない臨床試験(Decentralized Clinical TrialDCT)手法を用いて、パートナー医療機関にご協力いただき、日本全国の患者さんが本研究に参加いただけるようにします。原則として患者さんは一度も当院へ来院することなく、研究を完了させる予定です。

本講座の設置に至った経緯

研究グループはCOVID-19の回復者血漿の臨床研究を進める中で、脱毛や倦怠感を訴えるCOVID-19回復者が多いことに注目し、日本国内でも早くから罹患後症状の研究を行ってきました。現在は地域自治体(豊中市等)との連携によりモバイルアプリケーションを用いた罹患後症状の追跡調査を実施しています。7000 名以上のCOVID-19 罹患後の参加者が登録されており、日本国内最大のCOVID-19罹患後コホートとなっています。しかし、日本国内では前向きランダム化比較試験など高いエビデンスレベルの研究デザインに基づいた罹患後症状の臨床研究はこれまでにありませんでした。

ワクチン接種者では罹患後症状の頻度が少なくなることが明らかになりつつありますが、ワクチン接種者であっても罹患後症状を呈することもあり、よりリスクを減らすための予防法が待たれる状況です。海外における後ろ向き研究(一定の期間を経て後ろ向きにデータをとる研究)では、ニルマトレルビル/リトナビルの処方を受けたCOVID-19患者は、その後の罹患後症状を訴える頻度が26%低下したと報告されており、急性期における抗ウイルス薬の投与が罹患後症状のリスク低減につながる可能性が示唆されています。ニルマトレルビルと同じ3CL プロテアーゼ阻害薬であり、塩野義製薬が製造販売するエンシトレルビル(日本での商品名:ゾコーバ錠)は、現在、日本で重症化リスク因子の有無にかかわらず、軽症を含む幅広いCOVID-19患者にも処方可能な治療薬です。エンシトレルビルの第2/3相臨床試験の探索的評価によってエンシトレルビル125 mg投与が罹患後症状に関連した14症状の頻度を45%減少させ、罹患後症状として報告の多い4つの神経症状(課題解決力、集中力・思考力の低下、物忘れ、不眠)の頻度を33%減少させたことが報告されています。

これらは探索的な評価であることから、罹患後症状を減少させることが明らかになったわけではありません。COVID-19による社会的な負荷を軽減するためには、日本、ひいては世界がポストコロナの社会を目指す上でCOVID-19の罹患後症状に対する予防法の確立は非常に重要です。

今回、塩野義製薬が社会課題を解決し得る可能性を持った治療薬を、そして大阪大学が専門知識を持つ人材や医療体制をそれぞれ提供し、産学が連携して迅速に研究を推進させるため、その拠点として共同研究講座を開設しました。臨床研究を推進し、COVID-19の罹患後症状を減少することに対しての有用性を臨床的に実証できれば、人々の健康で快適な暮らしの実現に貢献できるものと考えております。

共同研究講座及び研究の概要

この講座では大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学の忽那賢志教授を中心に研究を進めていきます。

1.講座名 :罹患後症状治療学共同研究講座
2.設置場所:大阪大学大学院医学系研究科
3.設置期間:202431 日~ 2027228
4.研究代表者:忽那 賢志 (大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授)
5.研究内容:軽症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象として、エンシトレルビル フマル酸を5日間投与した時の罹患後症状に対する有効性及び安全性を、プラセボを対照薬として検証的に比較検討する。
6.研究実施施設:大阪大学医学部附属病院(1施設のみ)
7.研究対象者数:2,000例
8.研究手法:医療機関への来院に依存しない臨床試験(Decentralized Clinical TrialDCT)手法
(図2.「本研究で用いるDCT手法」参照)
9.パートナー医療機関数(パートナーサイト):150機関(予定)

図2: 本研究で用いるDCT手法
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