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在宅で受ける心臓リハビリテーション! 遠隔心臓リハビリシステムの治験を完了 薬事承認申請へ

2024年10月2日

図1: 遠隔心臓リハビリシステムのイメージ図
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概要

大阪大学大学院医学系研究科の坂田泰史教授(循環器内科学)らの研究グループは、2020年から開始したオンラインでのモニタリングを行うリハビリテーションシステムRH-01の治験を完了しました。

心疾患患者に対し有効であるとされる心臓リハビリテーション※1について、多くの患者は頻回に通院しリハビリテーションを受けることが難しいという課題を抱えていました。研究グループはその課題に対し、在宅でも心臓リハビリテーションを行うことができるよう、大阪大学発の医療機器スタートアップ企業である株式会社リモハブと共同で遠隔心臓リハビリシステムを開発しました(図1)。

現在、本治験をもとに、株式会社リモハブにて薬事承認申請を行なっています。

背景

心疾患は、日本において死亡原因第2位の疾患であり、高齢化に伴い現在も患者数が増加傾向であることが知られています。心疾患の重要な治療のひとつである心臓リハビリテーションでは、医療者が患者さんの血圧や心電波形などのデータをもとに、患者さんごとに合った負荷・頻度での運動療法を処方し、週3回以上行うことで安定した効果が得られるとされています。日米欧各国のガイドラインにおいても、推奨クラスⅠに位置付けられる治療であり、患者さんの予後や生活の質(Quality of LifeQOL)の改善につながることが知られています。

一方で、日本では心臓リハビリテーションの適応のある患者さんの多くが外来での心臓リハビリテーションを受けられていないという報告があります。その主な理由として、心疾患患者さんの多くが高齢であり、頻回の通院が困難であることが挙げられます。そのような課題に対して、医療者側には“在宅でも心臓リハビリテーションを実施してもらいたい。そのために在宅の運動状況を管理・把握したい”というニーズがありました。

上記の課題を克服するため、研究グループ、及び、株式会社リモハブは、医療者が医療機関からモニタリングし、在宅での心臓リハビリテーションを行う、遠隔心臓リハビリシステムの研究開発を行なってきました。本試験では、心疾患患者さんにとって在宅での有効かつ安全な心臓リハビリテーションを実施できる環境を構築するため、オンラインでのモニタリングを可能とするRH-01の有効性と安全性を検証しました。

治験の概要

治験の名称 心臓リハビリテーションの適応となる心疾患患者を対象としたRH-01の有効性及び安全性を検証する多施設共同無作為化並行群間比較試験
治験の目的 心臓リハビリテーションの適応となる心疾患患者を対象とし、オンライン心大血管リハビリテーションシステムRH-01の有効性及び安全性について、通院リハビリテーション群を対照として12週間の介入を多施設共同無作為化群間比較試験にて行い、RH-01群による介入が通院リハビリテーション群に対して非劣性であることを検証する。
治験の対象 心臓リハビリテーションの適応となる心不全患者及び狭心症、開心術後、大血管疾患、末梢動脈閉塞性疾患患者
責任研究者 坂田 泰史(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授)
治験実施機関 全国18施設

臨床研究等提出・公開システム(jRCT)番号:jRCT2052200064
https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2052200064

本試験は、2019年に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下「AMED」)から「医療機器開発推進研究事業2」の支援を、株式会社リモハブ3から機器提供支援を受けています。

本研究が社会に与える影響(本研究の意義)

2018年12月に制定された「脳卒中・循環器病対策基本法」に基づき策定された「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」では、IoTを活用した遠隔心臓リハビリテーションの有効性と安全性の確立が必要とされている旨が明記されています。本試験は、その政策内容に合致した研究内容となっています。遠隔心臓リハビリテーションが実現されれば、心臓リハビリテーションの実施率が向上し、これにより、患者さんのQOLの向上、ご家族の介護負担の軽減、再入院率の低下による社会保障費の削減など、様々な社会課題の解決が期待されます。

特記事項

現在、本治験をもとに、株式会社リモハブにて遠隔心臓リハビリシステムの薬事承認申請を行っています。
本治験の詳細な結果につきましては、主要関連学会での発表及び査読誌への論文投稿を行う予定です。

研究者コメント

<坂田教授のコメント>

これからの循環器医療は、病院だけで完結するのではなく、さまざまな場所で得られる情報を活用し、個々の患者に最適な治療を提供する「Hospital@Society」という新しい時代を迎えると考えています。本研究は、循環器学の未来に向けた重要な一歩を踏み出すものです。今後も得られた知見を患者の皆様に還元できるよう、引き続き尽力してまいります。

用語説明

※1 心臓リハビリテーション
心疾患の患者さんが、家庭生活や社会生活にスムーズに復帰できるように、再増悪防止を目的として行う包括的プログラム。運動療法や生活指導・カウンセリングなどを含み、運動療法は、医療者の監視のもと、適切な負荷及び時間で実施される。

※2 医療機器開発推進研究事業
アカデミアにおける基礎研究成果を用いた革新的な医療機器(医療機器プログラムを含む)の研究開発を行い、企業への導出につながる成果、または医療機器の薬機法承認につながる成果を出し、最終的に産学官連携により実用化(製品化)を目指すことを目標とした事業。

※3 株式会社リモハブ
事業内容:遠隔心臓リハビリシステムの開発・製造・販売
本社所在地:大阪府大阪市  代表取締役:谷口 達典(たにぐち たつのり)