長尾 博文、藤島 裕也≪代謝血管学≫
上原 雄平、下村 伊一郎≪内分泌・代謝内科学≫ 肥満時の血糖を保つ細胞間の仕組みを解明
~組織常在性間葉系細胞由来エクソソームが膵β細胞の増殖を支える~
2026年10月15日
掲載誌 Science Advances
図1 本研究の概要
組織常在性間葉系細胞由来エクソソームの作用
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研究成果のポイント
- 組織常在性間葉系細胞※1由来のエクソソーム※2産生が、肥満時にインスリン分泌を保ち、血糖の悪化を防ぐ役割を担うことをマウスで確認
- 膵臓内の間葉系細胞から分泌されるエクソソームが、膵β細胞※3の増殖を支えることをマウスと培養細胞の解析から明らかに
- 間葉系細胞由来エクソソームは血中を広く巡るのではなく局所組織内で働き、脂肪組織では間葉系細胞自身の恒常性にも寄与することを示唆
- 将来的には、β細胞を守るための新たな治療標的や、組織局所のエクソソーム機能を利用した治療法の探索につながることに期待
概要
大阪大学大学院医学系研究科の上原雄平さん(博士後期課程)、長尾博文 寄附講座講師(代謝血管学)、藤島裕也 寄附講座准教授(代謝血管学)、下村伊一郎 教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、組織に存在する「組織常在性間葉系細胞」が放出するエクソソーム(小型細胞外小胞)が、肥満時の膵β細胞と血糖の恒常性を支えることを明らかにしました。
間葉系細胞のうち、幹細胞性を有する間葉系幹細胞(MSC)は、組織修復や免疫調節に関わり、再生医療や細胞移植治療への応用が検討されています。MSCの作用の一部はエクソソームを介すると考えられ、当教室でも、ヒト脂肪組織由来MSCをマウスに投与した際にみられる心臓を保護する作用に、エクソソームが関与することを報告してきました。一方、生体内にはこうしたMSCを含む間葉系細胞が各組織に常在しています。これら組織常在性間葉系細胞が日常的に放出する内因性エクソソームが、生体の代謝恒常性にどのように働くかは十分に分かっていませんでした。
研究グループは、間葉系細胞でエクソソーム形成に関わるALIX※4を欠損させ、エクソソーム産生を選択的に低下させるマウスを作製しました。通常食では体重や耐糖能に大きな差はありませんでしたが、高脂肪食で肥満を誘導すると、このマウスでは体重増加と皮下脂肪の増加が抑えられる一方、耐糖能が悪化しました。糖負荷後のインスリン分泌が低下し、インスリンを分泌する膵β細胞の面積と、β細胞の集まる膵島の大きさも減少しました。さらに、エクソソーム標識マウスを用いた解析から、間葉系細胞由来エクソソームは血中にはほとんど検出されず、主に局所組織内で作用することが示唆されました。膵島近傍の血管周囲には間葉系細胞が分布し、培養実験でも、これらの細胞が放出するエクソソームが膵β細胞の増殖を支えることが確認されました(図1)。
本研究成果は、糖尿病で膵β細胞が減少・機能低下する仕組みの理解を深めるとともに、将来的にはβ細胞を守るための新たな治療標的や、組織局所のエクソソーム機能を利用した治療法の探索につながることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、10月10日(土)午前3時(日本時間)に公開されました。
研究者のコメント
<長尾博文寄附講座講師のコメント>
今回、組織に常在する間葉系細胞が、エクソソーム(小型細胞外小胞)を介して周囲の細胞を支える仕組みを生体内で示しました。とくに間葉系細胞が放出するエクソソームが、肥満時の膵β細胞の増殖とインスリン分泌を支える局所シグナルとして働くことは、新しい代謝調節の考え方につながります。今後、糖尿病で低下するβ細胞機能を守る仕組みの理解や、新たな治療標的の探索に役立つことが期待されます。
研究の背景
脂肪、骨髄、膵臓など多くの組織には間葉系細胞が存在し、その主要な細胞集団の一つである間葉系幹細胞(MSC)は、組織修復や免疫調節に重要な役割を果たします。近年、MSCを移植した際にみられる組織修復や免疫調整の作用には、MSCが分泌するエクソソームなどの小型細胞外小胞が重要であることが分かってきました。エクソソームは、細胞から放出される小さな膜小胞で、タンパク質や核酸などを運び、細胞どうしの情報伝達を担います。当教室でもこれまでに、ヒト脂肪組織由来MSCの投与による心臓を保護する作用に、エクソソームが関与することを報告しています(Molecular Therapy, 2020)。
一方、こうした移植されたMSCではなく、もともと各組織に存在する「組織常在性間葉系細胞」が生理的に放出する内因性エクソソームが、生体内でどのような役割を果たしているかは、ほとんど分かっていませんでした。特に肥満や糖尿病では、血糖値を下げるインスリンをより多く必要とするため、インスリンを分泌する膵β細胞は、量や機能を維持する必要がありますが、その適応を周囲の間葉系細胞がどのように支えているかは不明でした。そこで本研究では、組織常在性間葉系細胞由来エクソソームを生体内で選択的に減少させる仕組みを用い、肥満・糖尿病状態におけるその役割を検討しました。
研究の内容
研究グループは、Tamoxifen投与によりPDGFRα陽性の間葉系細胞でALIXを欠損させる「PDGFRα-CreERT2/ALIXfl/flマウス」を作製しました。皮下脂肪から単離したMSCではALIXのmRNA発現と培養上清中のエクソソーム量が大きく低下しており、狙い通りエクソソーム産生が抑制されていることを確認しました。通常食では体重や耐糖能に差を認めませんでしたが、高脂肪食下では、エクソソーム産生抑制マウスで体重増加率、皮下脂肪重量、脂肪細胞サイズが低下した一方、糖負荷試験では耐糖能が悪化しました。糖負荷15分後の血中インスリン濃度はコントロールマウスと比べて低く、膵臓ではβ細胞面積と膵島直径が減少しました。単離膵島のRNA-seqではインスリンシグナル関連遺伝子の発現低下がみられ、グルコース応答性のインスリン分泌も低下していました。
さらに、間葉系細胞由来エクソソームがどこで働くかを調べるため、エクソソーム表面分子CD63に発光酵素NanoLucを融合した標識系※5を用いました。全身の細胞で標識した場合には血中で発光を検出できましたが、間葉系細胞だけを標識した場合には血中発光は検出されませんでした。一方、同じマウスから単離したMSCの培養上清では発光が確認されました。このことから、間葉系細胞由来エクソソームは全身を循環するというより、産生された組織の近くで働くと考えられました。膵臓では、標識した間葉系細胞が膵島近傍の血管周囲に多く分布していました。MIN6膵β細胞をエクソソーム産生抑制マウス由来MSCの培養上清で培養すると細胞増殖が低下し、培養上清から単離したエクソソームを用いた実験でも同様の結果が得られました。
また、皮下脂肪組織由来MSCのRNA-seqでは、エクソソーム産生を抑えた細胞で炎症関連遺伝子の発現が上昇しました。脂肪細胞への分化誘導では脂肪滴の蓄積が約10%低下し、MSC自身のエクソソーム産生が、MSCの恒常性維持や正常な分化能を支えている可能性が示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、組織常在性間葉系細胞が産生するエクソソームを生体内で選択的に減らし、その機能を調べた初の解析です。肥満時には体が必要とするインスリン量が増えますが、膵島の近くに存在する間葉系細胞がエクソソームを介してβ細胞の増殖を支え、血糖恒常性を維持するという新しい局所細胞間コミュニケーションの仕組みを示しました。
また、脂肪組織ではエクソソーム産生が間葉系細胞自身の炎症状態や分化能にも関わることが分かりました。これらの知見は、糖尿病で膵β細胞が減少・機能低下する仕組みの理解を深めるとともに、将来的にはβ細胞を守るための新たな治療標的や、組織局所のエクソソーム機能を利用した治療法の探索につながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年10月10日(土)午前3時(日本時間)に米国科学誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】
“ALIX-dependent small extracellular vesicles from tissue-resident mesenchymal cells regulate pancreatic β cell proliferation in obesity”
【著者名】
Yuhei Uehara1, Hirofumi Nagao1, 2*, Aoki Tobimatsu1, Keitaro Kawada1, Shunsuke Shiode1, Emi Horitani1, Yoshinari Obata1, Shiro Fukuda1, Yuya Fujishima1, 2, Shunbun Kita1, †, Hitoshi Nishizawa1, and Iichiro Shimomura1 (*責任著者)
1 大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2 大阪大学大学院医学系研究科 代謝血管学寄附講座
† 現所属: 大阪大学経営企画オフィス
DOI:https://doi.org/10.1126/sciadv.aei1333
用語説明
※1 間葉系細胞
脂肪、骨髄、膵臓など多くの組織に存在し、細胞外基質の産生、組織修復、免疫調節などに関わる細胞群。本研究では主にPDGFRαを発現する細胞を標的として解析しました。
※2 エクソソーム
細胞が外へ放出する小さな膜小胞。タンパク質や核酸などを運び、近くの細胞や離れた細胞へ情報を伝える役割があります。本研究ではALIX依存的に産生される小型細胞外小胞を解析しました。
※3 膵β細胞
膵臓の「膵島」に存在し、血糖値の上昇に応じてインスリンを分泌する細胞。肥満ではインスリン需要が増えるため、β細胞が量と機能を保つことが血糖値の維持に重要です。
※4 ALIX
細胞内で小胞形成に関わるタンパク質の一つ。エクソソームなどの細胞外小胞の形成・放出に関与します。本研究では間葉系細胞でALIXを欠損させることで、エクソソーム産生を選択的に抑制しました。
※5 CD63に発光酵素NanoLucを融合した標識系
エクソソームに多い膜タンパク質CD63と、強い発光を生じる酵素NanoLucを組み合わせた標識法。 発光を測定することで、エクソソームの産生や体内分布を追跡できます。
【SDGs目標】
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【参考URL】
長尾博文 寄附講座講師(代謝血管学)
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/701c68ca86c9328a.html
