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胃カメラから漏れ出るコロナウイルスをシャットアウト ~産学連携による医療機器開発でコロナを制圧する!~

研究成果のポイント

  • 消化器内視鏡※1(胃カメラ)の処置具挿入孔(鉗子栓2)から漏れていたガスをシャットアウトする新しい鉗子栓の開発に世界で初めて成功した。
  • 特殊な光学機器を用いて内視鏡周囲のガス漏れを視覚化することにより、これまで広く使われてきた鉗子栓から感染リスクとなる多量のガス漏れが生じていることを見いだし、栓の内部構造改良に着手。数代の試作を繰り返し、このたびガス漏れをおこさない「改良型鉗子栓」の開発に成功した。
  • 新型コロナウイルスのように飛沫、エアゾル3を媒介とする感染症の対策上、非常に重要な成果物であり、がん健診や人間ドックで広く行われている内視鏡診断、治療における患者および医療従事者の安全性を飛躍的に高めるものと期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の中島清一特任教授(常勤)(次世代内視鏡治療学)と大阪府済生会富田林病院の石田智医師(元大学院生)らの研究グループは、()トップとの産学連携により、これまで消化器内視鏡(胃カメラ)の「鉗子栓」から漏れ出ていたガスをシャットアウトする新しい鉗子栓の開発に世界で初めて成功しました。

これまで、胃カメラを挿入する患者の「口まわり」から新型コロナウイルスを含む各種病原体が混入している可能性のあるガスが漏れていることは広く知られており、種々のガス漏れ対策がなされてきましたが、内視鏡の一部である鉗子栓からのガス漏れは臨床現場においてもきちんと認識されておらず、これまで具体的な対策はなされてきませんでした。

今回、中島特任教授(常勤)らは、「シュリーレン光学機器4」という特殊な計測装置を用いて、従来型鉗子栓の周囲から多量のガス漏れが発生していることを世界で初めて視覚化しました。さらに、企業と共同で鉗子栓の内部構造を改良し、新しい二重弁構造を有する改良型鉗子栓を完成させました(特願2021-153275)。同鉗子栓によりガス漏れがなくなり、内視鏡診断・処置の安全性が飛躍的に向上するものと期待されます。

研究の背景

消化器内視鏡(胃カメラ)では、観察や処置のために胃や腸にガスを送り込むため、新型コロナウイルスを含む各種病原体がエアゾル化して混入している可能性のあるガスが多量に漏れた場合は感染リスクとなります。これまで、胃カメラを挿入する患者の「口まわり」から漏れ出るガスの対策は種々なされてきましたが、胃カメラそのものである「鉗子栓」からのガス漏れはきちんと認識されておらず、具体的な対策はなされてきませんでした。ガス漏れは視覚化が非常に難しいため、定性的、定量的な評価がなされてきませんでした。

本研究の成果

 シュリーレン光学機器

今回、研究グループは、「シュリーレン光学機器」という特殊な計測装置をもちいて、内視鏡の鉗子口周囲をくわしく観察しました。その結果、臨床現場で広く使われてきた従来型鉗子栓では、処置具を抜き差しする際に多量のガスが漏れ出ることを世界で初めて視覚化しました。そこで、グループは(株)トップ(東京)との産学連携を通じて、従来型鉗子栓の内部構造をいちから見直し、複数の改良型鉗子栓を試作しました。シュリーレン機器を用いて漏れ具合の定性的、定量的評価を繰り返し、最終的にガス漏れのない、新しい二重弁構造を有する改良型鉗子栓を完成させました(特願2021-153275)。本研究グループは、慶応義塾大学消化器内科(加藤元彦専任講師)のグループとも連携し、鉗子栓内部の弁機能を強化する際に、かんじんの操作性(処置具の挿抜性)に支障を来していないことを繰り返し確認しながら慎重に開発を進めてきました。

この改良型鉗子栓により、処置具の抜き差しに際してのガス漏れをシャットアウトできることから、内視鏡診断、処置の安全性を飛躍的に向上させることができるものと期待されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、新型コロナウイルスのように飛沫、エアゾルを媒介とする様々な既知感染症、未知の感染症への対策が強化され、内視鏡診断・治療の安全性が飛躍的に向上するものと期待されます。

研究者のコメント

<中島清一特任教授>
昨年4月にスタートさせた「3Dプリンタで作れるフェイスシールドの開発」プロジェクトは、お陰様でその後クラウドファンディング等を通して多くの人びとから共感いただき、新型コロナウイルス感染症と闘う医療従事者の安全を、ひいては患者さんの安全を守る、意義深い活動となりました。私どもはその後も医療機器の研究開発者としてコツコツと新型コロナ対策に取り組んでまいりましたが、このたび胃カメラという非常に身近な医療機器に潜む感染リスクを見いだし、そのリスクを解消できる新しいデバイスを開発することができ、たいへん嬉しく思っております。

コロナとの闘いは厳しく、ともすれば希望を見失ってしまうような状況が続いていますが、この機会に、コロナの制圧をめざし、熱意をもって活動している大学の医師、研究者や企業の人びと、そしてそれらの活動を支えてくれる人びとの存在をぜひ皆さんに知っていただきたいと思います。

用語説明

1 消化器内視鏡
一般にフレキシブル(軟性)の内視鏡で、胃や腸に挿入して診断や処置を行うもの。胃カメラ、大腸カメラ

2 鉗子栓 
消化器内視鏡に診断や治療のための処置具を挿入するところ

3 エアゾル
飛沫の水分が蒸発しウイルス等を含んだ微細粒子。空気中に長く漂い感染源となるとされる

4 シュリーレン光学機器
媒質の密度の違いによる光の屈折率の違いを視覚化する計測装置

特記事項

本研究成果の一部は本年5月の米国消化器病週間(Digestive Disease Week)において発表されました。
Ishida T, Naka K, Nakajima K, et al: Gas Leaks from Biopsy Valves of Gastrointestinal Endoscopy -Its Visualization and Semi-quantification Utilizing Schlieren Optical System-

本研究の成果物「リークレスバルブ®」は、薬機法による製造承認取得を得て、近日中に()トップより市販される予定となっています。

本研究は、大阪大学大学院医学系研究科・医学部附属病院産学連携・クロスイノベーションイニシアティブ「令和2年度新型コロナウイルス対策研究開発助成事業」(試作支援)、ならびに日本医療研究開発機構「令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業」(研究開発支援)の一環として行われたものです。

参考

「大阪大学 大学院医学系研究科・医学部附属病院 産学連携・クロスイノベーションイニシアティブ」は、医療・ヘルスケアに取り組む多種多様な内外機関と、包括連携協定の締結や協働機関への参画により、組織的・戦略的連携を強化し、相互の発展と未来医療の実現、ヘルスケアの革新、社会的課題への挑戦など、大学を起点とした組織・分野を超えたクロスイノベーションの創成と中核的役割を果たすことを目的としています。

大阪大学健康・医療クロスイノベーションフォーラム、分科会、共創懇話会、各種セミナー等の開催による研究・事業化連携の推進、共同研究締結や共同研究講座設置に向けたオープンイノベーションによる研究交流活動の推進、ベンチャー設立や知財戦略の支援などにより、産学連携の深化を図っています。

令和2年度には、連携機関からの寄附金「新型コロナウイルス感染症対策助成金」を元に、新型コロナウイルス感染症に関する治療・創薬・医療機器開発・感染予防対策等の推進を促進するため、研究開発助成制度を創設し、「令和2年度新型コロナウイルス対策研究開発助成事業」を公募の上、厳正なる審査の結果、14件の研究課題を採択し、助成しています。

本件について、10月13日に大阪大学(吹田キャンパス)およびオンライン同時配信にて記者発表を行いました。