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強直性脊椎炎に対するペプチド治療ワクチンの 医師主導治験を実施

図:強直性脊椎炎の病変部位

研究成果のポイント

  • 希少難病である強直性脊椎炎に対するペプチド治療ワクチン1を開発
  • 健康成人を対象にインターロイキン(IL-17A2を標的とした治療ワクチン(FPP003)の医師主導治験(第Ⅰ相試験)を開始
  • 強直性脊椎炎に代表される体軸性脊椎関節炎の新規治療選択肢となることが期待される

概要

大阪大学大学院医学系研究科の中神啓徳寄附講座教授(健康発達医学)、森ノ宮医療大学の冨田哲也教授、医療法人平心会大阪治験病院の三上洋病院長らの研究グループは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)から「難治性疾患実用化研究事業」(2019年4月から2021年3月末の3年間)の支援を受けて脊椎関節炎に対するインターロイキン(IL-17Aを標的とした治療ワクチン(FPP003)の研究開発を進めてきました。このたび、研究グループは、医療法人大阪治験病院にて、抗体誘導ペプチド「FPP003」の医師主導治験(第Ⅰ相試験)を開始しました。幅広い炎症性疾患に関与するタンパク質IL-17Aに対する抗体を誘導するペプチド治療ワクチンであり、強直性脊椎炎に代表される体軸性脊椎関節炎の新規治療選択肢となることが期待されます。本治験は、大阪大学が採択された国立研究開発法人日本医療研究開発機構の令和3年度「難治性疾患実用化研究事業(2次公募)/希少難治性疾患に対する画期的な医薬品の実用化に関する研究分野」の研究開発課題「脊椎関節炎を標的としたIL-17Aワクチン(FPP003)の臨床応用」として実施されます。

また、本治験で使用される治験薬は、AMED研究開発課題に研究分担者として参加している株式会社ファンペップが提供します。

研究の背景

近年、アルツハイマー病などを標的とした抗体産生を主眼とした治療ワクチンの開発が世界的に行われており、研究グループは、IL-17Aを標的としたペプチド治療ワクチン(FPP003)を開発しました。抗IL-17A抗体医薬品は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬に対し治療効果が認められており、本邦でも強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎に対しても2019-2020年に3製剤が承認されています。

強直性脊椎炎は、青年期に発症する脊椎と仙腸関節を主な病変部位とする慢性炎症性疾患でHLA B-27との関連が指摘されていますが、病因はいまだに不明で、2015年に指定難病に認定されております。病変部位では靭帯と骨との付着部位に炎症・骨化が起こり(右図)、疼痛、膨張、運動制限等がみられ、重症例では、体軸関節の強直をきたして日常生活能力の著しい低下をもたらします。FPP003が希少疾病である強直性脊椎炎に代表される脊椎関節炎の治療選択肢となることを期待しております。

強直性脊椎炎について

仙腸関節炎や脊椎炎による腰背部痛や臀部痛が初発症状となることが多いことが知られております。疼痛が運動により軽快し、安静や就寝により増悪するのが特徴です。アキレス腱の付着部である踵部を初め身体各所の靱帯付着部(関節周辺の骨性突出部など)の炎症徴候(疼痛、腫脹)がしばしば見られ、時に股、膝、肩など四肢の大関節の疼痛や運動制限も生じます。IL-17Aは、関節炎に特徴的な付着部炎において重要な役割を果たしていると考えられています。

ペプチド治療ワクチン(FPP003)について

FPP003は、IL-17Aに対する抗体を誘導するペプチド治療ワクチン(抗体誘導ペプチド)です。キャリアペプチドAJP001は自然免疫活性化作用とキャリアとしての機能を併せ持つ20アミノ酸からなる機能性ペプチドです。AJP001B細胞エピトープを結合させた抗体誘導ペプチドは、樹状細胞に取り込まれて自然免疫活性化作用により樹状細胞を活性化し共刺激分子を発現させます。また、AJP001自身がヘルパーT細胞エピトープとしてヘルパーT細胞に提示され、ヘルパーT細胞を活性化します。AJP001B細胞エピトープを結合させた抗体誘導ペプチドを取り込んだB細胞はAJP001を提示し、これを認識した活性化T細胞がB細胞を活性化し抗体産生を誘導します。

医師主導治験(第Ⅰ相試験)の概要

【研究課題名】 FPP003の皮下投与時の安全性及び忍容性を評価する単施設無作為化プラセボ対照二重盲検試験(第I相試験)
【目的】 健康成人を対象にFPP003(低用量、高用量)とプラセボを比較し、FPP003の安全性及び忍容性を評価する。
FPP003 は、インターロイキン17AIL-17A)に対する抗体を誘導する抗体誘導ペプチド(ペプチド治療ワクチン)であり、FPP003により産生される抗体を測定して、免疫原性の評価も行う。また、薬物動態の評価も行う。
【目標症例数】 FPP003低用量群:10症例(FPP003群:8名、プラセボ群:2名)
FPP003高用量群:10症例(FPP003群:8名、プラセボ群:2名)
【実施期間】 20224月~2022年10月
【研究デザイン】 単施設、無作為化、プラセボ対照、二重盲検試験

用語説明

1 ペプチド治療ワクチン
感染症ワクチンは、ウイルス全体や標的タンパク質(mRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン、組換えタンパク質及び不活性化ワクチン等)を抗原として用いて免疫を誘導するのに対し、ペプチドワクチンは、標的となるタンパク質のペプチド配列(エピトープ)を選択し、その部分に対する免疫を誘導するのが特徴です。また、標的を生体内の病気の原因となるタンパク質とすることで治療を目的とすることからペプチド治療ワクチンと記載しております。

2 インターロイキン(IL-17A 
IL-17Aは、炎症性サイトカインの1つであり、脊椎関節炎の病態形成に関与していると報告されており、この炎症サイトカインIL-17Aのはたらきを抑える治療法が確立され、抗体医薬品が販売されております。

特記事項

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業 希少難治性疾患に対する画期的な医薬品及び医療機器、再生医療等製品の実用化に関する研究 薬事承認を目指すシーズ探索研究 (ステップ0)「脊椎関節炎を標的としたIL-17Aワクチンの開発」の支援を受けて行われました。

ファンペップは、2013年に大阪大学大学院医学系研究科の機能性ペプチドに関する研究成果を実用化する目的で設立された創薬系ベンチャーです。機能性ペプチド「AJP001」を強みとして展開する抗体誘導ペプチドプロジェクト(ペプチド治療ワクチン)と皮膚潰瘍治療薬「SR-0379」を中心に研究開発を進めており、患者様のQOL向上へ貢献する医薬品を開発することにより社会に貢献することを目指しております。