希少難病『TGCV』治療の扉を開く
治療薬「CNT-01」の開発を医学部附属病院にて再開
2026年1月7日
図1: 顕在患者数、死亡者数の増加(2024年度まで)と今後の増加見込み(2025年度以降)
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研究成果のポイント
- 中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)※1治療薬「CNT-01」(主成分:トリカプリン・トリスデカノイン※2)について、この度、厚生労働省による先駆け医薬品審査指定が国内製薬企業から承継され、大阪大学医学部附属病院において開発を再開。
- CNT-01の主成分を含む栄養療法の効果が顕著であることが本学の研究により明らかとなっていたことから、CNT-01の条件付き承認制度への該当性について独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談を開始。
- TGCVの治療体制が確立できれば、多くの患者の救命や予後の改善、社会復帰が可能になり、超高齢化社会における医療費の低減につながることにも期待。
概要
大阪大学大学院医学系研究科中性脂肪学共同研究講座の平野賢一特任教授(常勤)らの研究グループが医師主導で開発してきたTGCV治療薬 CNT-01(主成分:トリカプリン・トリスデカノイン)について、2025年12月18日、厚生労働省より国内製薬企業から大阪大学医学部附属病院への先駆け医薬品指定の付け替えが発出され、本学において開発を再開することになりました。これにより、成人発症の希少心臓難病である中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)について、新たな治療の可能性を示す成果が期待されます。
TGCVは、2008年に大阪大学医学部附属病院で心臓移植を待つ患者の検査中に発見された希少疾患で、診断体制が確立した現在、顕在化する患者数が増加しています(図1)。
研究グループはその治療薬「CNT-01」を開発しており、近年、その主成分を活用した食品での臨床試験において顕著な長期生命予後の改善を示しました。今回の本学における開発再開を受けて、研究チームは「条件付き承認制度」の活用についてPMDA(医薬品医療機器総合機構)と検討を進めています。これにより、早期実用化の道が開ける可能性もあります。
今後、CNT-01によるTGCVの治療体制が確立できれば、1年あたり数千人規模の患者の救命や予後の改善にとどまらず、社会復帰が可能になることで患者自身の労働生産性確保も可能になると考えられます。さらにTGCVの診断法・治療法の海外展開は、「心不全パンデミック」とも叫ばれる喫緊の国際的な健康問題の改善に寄与する可能性があります。
本研究の背景
TGCVは、2008年に大阪大学医学部附属病院で心臓移植を待っていた患者さんの調査を通じて発見された、成人がなる希少心臓難病です。本年、日本循環器学会・日本心不全学会合同心不全診療ガイドラインや欧州最大の希少疾患ネットワークOrphanetのWEBサイトに掲載されるなど、国内外における周知が進んでいます。TGCVの5年生存率は約70%(本学より2023年6月2日にプレスリリース)であり、本症の治療法開発は喫緊の課題となっています。
研究グループは、2012年から厚生労働省・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)などの難病関連予算を得て、TGCV用治療薬CNT-01(主成分は、トリカプリン・トリスデカノイン)を開発してきました(本学より2016年8月10日にプレスリリース)。そして、3度の医師主導治験の成功を経て、アカデミアでは初めて、2020年に厚生労働省より先駆け審査指定制度の医薬品に指定されましたが、その後、国内製薬企業が実施した試験が主要評価項目で未達となっています。
また、TGCVの診断体制は全国レベルで確立したことから顕在患者数が増加しているところ、承認された治療薬が存在しないため、患者は治療抵抗性の心症状に苦しみ死亡者数が増加しています(図1)。
本研究の内容
今回、研究グループが開発してきたTGCV治療薬 CNT-01について、2025年12月18日、厚生労働省より国内製薬企業から大阪大学医学部附属病院への先駆け医薬品指定の付け替えが発出され、開発を再開することになりました。
最近では、検証的試験以外でTGCV患者会と共同で実施した臨床研究により、トリカプリン・トリスデカノイン含有食品摂取患者における顕著な長期生命予後の改善が示されました(本学より2025年2月19日にプレスリリース)。これらより、CNT-01の主成分を含む栄養療法の効果が顕著であることが明らかとなりましたが、偽薬対照で心血管イベントを評価する検証的試験は被検者保護の観点から倫理的に困難であると判断し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と条件付き承認制度(図2)への該当性について相談を開始しました。
図2: 医薬品開発のロードマップ
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本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)
CNT-01を利用したTGCVの診断・治療体制が確立できれば、1年あたり数千人規模の患者の救命、予後の改善にとどまらず社会復帰が可能になることで、患者自身の労働生産性が確保できます。また、現状ではごく少数のTGCV患者が移植等の高額かつ日常生活に制約を伴う治療を受けられるのみですが、栄養成分トリカプリン/トリスデカノインを用いた治療は有効性、安全性、利便性が極めて高い治療法のため、超高齢化社会の中、爆発的に増大する医療費の低減が可能になると考えられます。さらにTGCVの診断法・治療法の海外展開は、「心不全パンデミック」とも叫ばれる喫緊の国際的な健康問題の改善に寄与できます。
研究者コメント
<平野賢一 特任教授(常勤)のコメント>
TGCVは生命予後に直結する心臓難病です。1日でも早くこの難病を克服したいと考えております。
用語説明
※1 中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)
Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy。研究グループが日本の心臓移植待機症例から見出した新規難病 (N Engl J Med. 2008)。細胞内TG分解酵素であるAdipose triglyceride lipase (ATGL)遺伝子のホモ型変異を持つ原発性とATGLには変異を認めない特発性に分類され、血清TG値や肥満度とは無関係に、冠動脈や心臓にTGが蓄積する。これまで想定されていなかったTGの生体における役割を示すモデル疾患でもある。2009年から厚生労働省や日本医療研究開発機構の難病事業として診断法、治療法開発が進められている。
※2 トリカプリン・トリスデカノイン
母乳にも含まれる栄養成分で、TGCVにおける細胞内TG分解障害を改善する。大阪大学でアカデミア開発された治療薬CNT-01(主成分はトリカプリン・トリスデカノイン)が、厚生労働省から先駆け医薬品指定/希少疾病用医薬品指定を受け、開発が続けられている。一方、医薬品開発には時間を要するため、一部のTGCV患者はトリカプリン含有サプリメントや食品を用いた栄養療法を継続している。
トリスデカノイン: トリカプリンの国際一般名 (International nonproprietary name)
世界保健機構 (WHO) が定める国際医薬品の有効成分に対する一般名称
参考URL
平野賢一 特任教授(常勤)
研究者総覧URL: https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9df4c433747552f7.html
同 特任教授(常勤)が運用するTGCVについての情報サイト
TGCV channel:https://www.youtube.com/@drhiranotgcv
TGCV Note:https://note.com/drhiranotgcv
