研究内容

神経化学研究室(生化研)について

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精神神経疾患の生化学的・薬理学的研究について全国有数の歴史を持つ研究室です。

阪大精神科は世界初の抗精神病薬であるクロルプロマジンを日本に導入し、いち早く治験を行った教室でもあります。特に老年精神医学においては、生化学的手法を世界に先駆けて導入しアルツハイマー病の脳においてタンパク質が不溶性となることを発見するなど、世界をリードする生化学研究室として長い歴史があります。

生化研では、認知症をはじめとする精神症状を呈する疾患を生化学的手法のみならず、最新の手法により多角的に分析し、その原因や治療法の探索を追及しています。 見学は随時受付中です。下記の連絡先より担当者までご連絡ください。

主なリサーチテーマ

精神神経疾患における核酸リピート伸長の病的意義の解明

新世代のシークエンサーの登場やin silicoでの解析技術の進歩により、これまで解読できなかったゲノム配列が解読可能となり、ゲノム上で特定の配列が反復して異常に伸びてしまうことでおきる病気が続々と見つかっています。

こうした反復配列のほとんどはタンパク質の設計図としての特徴をもちませんが、通常とは異なる仕組みで病気と関係するタンパク質へと翻訳されることがわかってきました。

遺伝型の前頭側頭型認知症の一部ではC9ORF72遺伝子の非翻訳領域におけるGGGGCCという6塩基反復配列の異常な伸長が病気の原因となっていますが、この反復配列を持つ方は高頻度に精神病症状を呈することが知られています。

当研究室の森康治は、この反復配列が実際には翻訳され反復配列をもつリピートタンパク質が患者脳に多量に蓄積していることを以前に明らかにしました。

同様に神経核内封入体病という病気ではNOTCH2NLCという遺伝子のGGCという3塩基の異常伸長がみられ、認知症を含む多彩な症状を呈することが知られています。

同じような反復配列の伸長は自閉スペクトラム症や統合失調症にも次々と見つかってきています。

私達はこのような異常伸長配列がどのような仕組みで精神神経疾患を引き起こすのかについて分子レベルでの研究を進めています。

精神神経疾患の血液・CSFバイオマーカー開発

現在、認知症性疾患において臨床でも有用性が認められているCSFバイオマーカーはアルツハイマー病の「Aβ42/Aβ40比」と「リン酸化(pT181)タウ」と、クロイツフェルト・ヤコブ病の「異常プリオン」だけです。他の認知症性疾患については確立されたCSFバイオマーカーがなく、血液バイオマーカーも皆無です。

しかし、研究レベルでは様々なバイオマーカー候補が生まれつつあります。その先鋒ともいえるのが血液で測定できる「ニューロフィラメント軽鎖」と「リン酸化タウ(pT181, pT217)」です。当研究室ではこれらを実際の患者サンプルで測定し、その臨床的有用性を検討しています。加えて、血液中・CSF中の細胞外小胞(一部はエクソソームとも呼ばれます)を分離・解析することで新たなバイオマーカーとするための開発研究を行っています。

更に、国内ガイドラインの「認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカー、APOE検査の適正使用指針」作成にも参画しています。

認知症の病因探索

認知症の発症には、環境要因だけでなく遺伝的要因も大きく関与すると言われています。個々の患者さんのDNAから精神神経疾患に関わる遺伝子の変異や多型を検索し、臨床表現系との関連付けをしています。また患者さん由来のiPS細胞を作出して、精神神経疾患の病態が細胞レベルでどのようになっているかを解析しています。

遺伝性認知症の病態解明・治療薬開発のための全国的コホート構築(HED-TRC)にも参画し、全国レベルで認知症病因解明に取り組んでいます。

研究室メンバー

講師
森 康治(Kohji Mori)[Researchmap]
助教
赤嶺 祥真(Shoshin Akamine)[Researchmap]
特任研究員
後藤 志帆 (Shiho Gotoh)
大学院生(博士4年)
宮本 哲愼 (Tesshin Miyamoto)
大学院生(博士3年)
魚住 亮太 (Ryota Uozumi) [Researchmap]
大学院生(博士2年)
三浦 耕人 (Koujin Miura)
青木 佑紀 (Yuki Aoki) [Researchmap]
研究助手
木原 真理子(Mariko Kihara)
近藤 志都子 (Shizuko Kondo)

生化研の強み

臨床教室でありながら基礎研究に力を入れた国内有数のグループです。

患者さんの病態を基にして疾患モデル細胞などを作出し、その分子生理学的な機序の解明を目指しています。さらに患者さんの多大な協力のもとヒトサンプルを集積し、疾患モデル単独では再現しきれない「実際の患者さんでは何が起きているのか?」を追い求めています。

特に、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症・特発正常圧水頭症など、認知症性疾患に強く、他の研究グループと協力しながら良質な検体を集積・分析しています。

認知症だけでなく、うつ病・躁うつ病・統合失調症・自閉スペクトラム症など精神疾患の病因解明にも取り組んでいます。隠れた遺伝的要因がないか、バイオマーカーとなりうるものがないか、の探索を続けています。

臨床検体の種類は多岐に渡り、血漿・脳脊髄液(CSF)・ゲノムDNA・末梢血RNAに加えて、脳組織(凍結標本)や患者由来の線維芽細胞、iPS細胞なども積極的に活用しています。

代表的な研究成果・受賞歴

  • Mori K, Shigenobu K, Beck G, Uozumi R, Satake Y, Suzuki M, Kondo S, Gotoh S, Yonenobu Y, Kawai M, Suzuki Y, Saito Y, Morii E, Hasegawa M, Mochizuki H, Murayama S, Ikeda M. A heterozygous splicing variant IVS9-7A>T in intron 9 of the MAPT gene in a patient with right-temporal variant frontotemporal dementia with atypical 4 repeat tauopathy Acta Neuropathologica Communications 11 (1), 130, 2023
  • Mori K, Gotoh S, Yamashita T, Uozumi R, Kawabe Y, Tagami S, Kamp F, Nuscher B, Edbauer D, Haass C, Nagai Y, Ikeda M The porphyrin TMPyP4 inhibits elongation during the non-canonical translation of the FTLD/ALS-associated GGGGCC repeat in the C9orf72 gene Journal of Biological Chemistry 297(4) 101120, 2021
  • Akamine S, Marutani N, Kanayama D, Gotoh S, Maruyama R, Yanagida K, Sakagami Y, Mori K, Adachi H, Kozawa J, Maeda N, Otsuki M, Matsuoka T, Iwahashi H, Shimomura I, Ikeda M, Kudo T. Renal Function is Associated with Blood Neurofilament Light Chain Level in Older Adults Scientific Reports 10:20350, 2020
  • Kawabe Y, Mori K, Yamashita T, Gotoh S, Ikeda M. The RNA exosome complex degrades expanded hexanucleotide repeat RNA in C9orf72 FTLD/ALS. The EMBO Journal 39(19):e102700, 2020
  • Mori K, Nihei Y, Arzberger T, Zhou Q, Mackenzie I.R., Herrmann A, Hanisch F, German Consortium for Frontotemporal Lobar Degeneration, Bavarian Brain Banking Alliance, Kamp F, Nuscher B, Orozco D, Edbauer D and Haass C*: Reduced hnRNPA3 increases C9orf72 repeat RNA levels and dipeptide-repeat protein deposition. EMBO Reports 17, 1314-1325, 2016.
  • Mori K, Weng SM, Arzberger T, Rentzsch K, Kremmer E, Schmid B, Kretzschmar HA, Cruts M, van Broeckhoven C, Haass C, Edbauer D: The C9orf72 GGGGCC repeat is translated into aggregating dipeptide-repeat proteins in FTLD/ALS. SCIENCE 339(6125): 1335-1338, 2013

  • 2023年11月 魚住亮太 第42回日本認知症学会学術集会・学会奨励賞「近接標識プロテオミクスによるC9orf72-GGGGCC リピート RNA 分解タンパク質の同定」

  • 2021年11月 森康治 日本認知症学会 学会賞 (基礎研究部門)「C9orf72リピート伸長による前頭側頭葉変性症の分子病態」
  • 2021年11月 森康治 日本医師会医学研究奨励賞 臨床医学部門「前頭側頭葉変性症における異常伸長リピート翻訳の研究」
  • 2021年10月 森康治 日本神経化学会 優秀賞

共同研究

難解な精神神経疾患の研究のためには多方面との協力が欠かせません。教室内の他グループと分野横断的な研究も行っています。また、国内外の大学や研究所とも共同研究を行っています。研究成果を臨床の場に届けるため、国内外の複数の製薬企業やベンチャー企業との共同研究も行っています。

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学会発表・論文発表・海外留学

大学院生にも国際学会で積極的に発表してもらっています。(最新情報はNewsをご覧ください)

これまで大学院を卒業した方のうち多くが海外(アメリカ、ドイツなど)の研究機関へ留学しています。

また、海外からの留学生受け入れも、大学院生または研究職の両方で行っています。

関連教室

見学希望者受付中

私たちの研究室に興味を持ってくれたら、遠慮なく 和風会事務局( wafukai@psy.med.osaka-u.ac.jp )に連絡してください。いつでもご連絡お待ちしています。