阪大精神科の臨床

大阪大学精神科の臨床の概要

精神疾患のcommon disease(一般的な病気)の診療を通じて地域に貢献しています。同時に各疾患のエキスパートによる専門的かつ先進的な臨床も行っています。さらには未来のより良い医療を目指し、先端的な研究を行いその成果を世界に発信しています。

年間の外来新患は1,200症例を超えています。閉鎖病棟を廃止してしまった大学病院も多い中、当科には開放病棟(16床)、閉鎖病棟(36床)、隔離室(4床)があり、措置入院患者さんも含めた幅広い疾患の患者さんに対応しています。病床規模は単科精神科病院に比べると小さいですが、平均在院日数は40日以下(平成28年3月現在)と活動的な病棟であり、後述するように大学病院ならではの様々な疾患を診療しています。

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各疾患の臨床とその特徴

統合失調症 統合失調症外来・入院プログラムにおいては、地域の医療機関などから紹介を受けて、精査診断・治療方針の策定とフィードバックを行っています。統合失調症の認知機能障害をより簡便かつ正確に測定できる検査バッテリーを開発しました。この臨床応用をしており、多くの大学から見学者が訪れています。治療抵抗性統合失調症の入院治療も行っています。日本ではまだ普及が進んでいないクロザピン治療の導入を年間約5~10例行っています。

気分障害 地域の医療機関などから紹介を受けて、精査診断・治療方針の策定とフィードバックを行い、入院加療を行っています。mECTは関西ではまだ普及が進んでいるとはいえない状況ですが、当科では、統合失調症・気分障害合わせて、毎週4~6回、年間約20例を実施しています。外来では認知行動療法も行っています。橋本亮太准教授(子どものこころの分子統御機構研究センター併任)は統合失調症と気分障害の治療ガイドライン等の整備にも尽力しており、若手医師にガイドラインを普及させるための活動も行っています。

認知症 国際的にみても質の高い診断診療が行われており、他の医療機関からの相談や紹介も多くあります。池田教授や数井講師らは認知症エキスパートの育成や治療ガイドライン等の整備に尽力しています。毎週水曜日に行われる認知症症例検討会には学外からも若手からベテランまで幅広く先生方が参加されています。病院を飛び出した地域での活動もしています。行政関係者らと共に認知症に関する地域住民への教育サービス等も行っています。熱意を持って取り組めば、国内でも海外でも自信を持って通用する認知症診療を身に着けることができます。
アルツハイマー病リスク遺伝子の解析(年間約70例)やアルツハイマー病の新しい国際診断基準でもその有用性が採用されている脳脊髄液中のAβやタウ蛋白量の測定(年間約50例)も研究室内で行っています。認知症の原因として予想以上に多いことが分かりつつある水頭症については、患者負担の少ないL-Pシャント術の有効性を証明(Lancet Neurol 2015)しました。この成果は水頭症治療の国際的なガイドラインの改定につながりました。

児童思春期 思春期・青年期専門外来はわが国においてさきがけて誕生しており、開設以来50年以上の星霜を重ねています。第1・3水曜の6時半から大学研究室または中之島センターで本学保健センターと共同で大阪大学精神病理・精神療法研究会を開催しています。
児童専門外来においては、地域の医療機関などから紹介を受けて、発達障害の精査診断・治療方針の策定とフィードバックを行っています。児童精神医学領域全般をカバーし、エビデンスに基づく診療実践と特有の家族内力動や教育機関などの複雑な環境要因にもアプローチしています。子どもたちから心のこもった絵やメッセージをもらうこともあり、とてもやりがいがあります。また患者様より研究協力への同意を取得し、大学病院ならではの臨床、臨床研究及び基礎研究の包括システムの循環の中で診療を行っています。

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阪大病院の各部門と連携した臨床

高度医療を行っている阪大病院の各科と連携した診療も特徴です。阪大はわが国の臓器移植の代表的施設です。精神科も臓器移植のドナー及びレシピエントの診察を年間120例以上行っています。また阪大病院は地域がん診療連携拠点病院でもあり、オンコロジーセンターを開設しております。疼痛コントロール、認知機能の評価、せん妄コントロール、不眠、不安、抑うつ、実存的問題などにおける)心身両面からのケアが出来るよう、精神科医、緩和医療の専門医、麻酔科医、がん看護専門看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーが緩和ケアチームを組んで診療にあたっています。医療用オピオイドの使用など、通常の精神科研修では学ぶことがない領域を経験することが出来ます。総合病院における他科や他職種との連携における、精神科医の専門性を生かした、より踏み込んだ全人的医療を実践しています。

阪大病院の特殊救急部は全国の救急医療システムをけん引する存在です。大阪府委託事業としてドクターヘリも常時運航しています。精神科治療が必要な患者に対しては搬送後12時間以内に介入をしています。精神科医師重点加算の対象にもなっています。

阪大病院にはてんかんセンターもあります。当科の認知行動生理グループが共同して臨床および先進的治療や研究を行っています。脳波検査は精神科だけで年間約400例行っています。これらのレポート作成を脳波のエキスパートである教官と一緒に学ぶことができます。

脳外科の手術室でも精神科医が仕事をしています。難治性てんかんや脳腫瘍の外科切除術では手術中に当科の神経心理グループが神経心理学的検査を行い脳切除部位決定の助言をしています。

阪大には睡眠医療センターもあります。月に一度、精神科が中心となり循環器内科と老年高血圧内科と終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)症例合同カンファレンスを行っています。精神科病棟ではPSG検査入院を、精神科外来では睡眠専門外来を行っています。

未来の医療にむけた取り組み

上記のような先進的な取り組みも含めた臨床に加え、未来の医療をよりよくするための研究も行っています。幸い大変多くの患者さんに趣旨をご理解ご同意していただいており、その臨床情報、遺伝子情報、生理画像情報、血液検体、髄液検体などを研究にも使わせていただいております。多岐にわたる研究内容は各研究室の紹介ページ、研究業績、スポットライト等をご参照ください。