猪阪 善隆、坂口 悠介、新沢 真紀 ≪腎臓内科学≫ \再発を抑えることを確認!/
リツキマシブは成人の難治性ネフローゼ症候群にも新たな希望をもたらす
2025年10月30日
掲載誌 JAMA
図1: 盲検期における無再発率(カプランマイヤー曲線)
クリックで拡大表示します
研究成果のポイント
- 成人期発症の頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対する治療として、抗体製剤リツキシマブ※1が再発予防・寛解※2維持に有効かつ安全な治療法となることを無作為化二重盲検試験※3で明らかに。
- 頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群では、再発に対応するためのステロイドの長期間使用により骨粗鬆症や感染症などの合併症を併発する。これまで、小児期発症の患者に対する治療としてはリツキシマブが保険適用となっていたものの、成人期発症については保険適用取得のためのエビデンスが得られていなかった。
- 試験の結果、主要評価項目である49週間の無再発率は、リツキシマブ群では87.4%、プラセボ群では38.0%であり、リツキマシブが再発を抑えることが示された。
- 成人期発症頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼに対しても、リツキシマブが再発予防・寛解維持に有効かつ安全な治療法として保険適用されることが期待される。
概要
大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の猪阪善隆 教授、坂口悠介 助教、同大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの新沢真紀 講師(研究当時:医学系研究科腎臓内科学 特任助教)らの研究グループは、成人期に発症した頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対する治療として、リツキシマブが再発予防・寛解維持に有効かつ安全な治療法となることを無作為化二重盲検試験で明らかにしました。
本研究は、日本国内の13施設(大阪大学、名古屋大学、近畿大学、藤田医科大学、久留米大学、新潟大学、北野病院、埼玉医科大学、東京大学、金沢大学、虎の門病院、金沢医科大学、筑波大学)の医師主導治験で行われました。
リツキシマブは、リンパ球の一種であるB細胞を抑制する抗体製剤です。これまで主に小児期発症の頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対して使用されていましたが、今回の無作為化二重盲検試験では、成人期発症患者においてもその有効性と安全性が確認されました。
試験では、成人期に発症した頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ患者を対象として、リツキシマブ群(32名参加)とプラセボ群(34名参加)に分け、49週間の治療結果を比較しました。主要評価項目である49週間の「無再発率」はリツキシマブ群では87.4%、プラセボ群では38.0%という結果が得られ、リツキマシブが再発を大幅に低減することが分かりました。また、49週時点でステロイドを中止できた患者の割合もリツキシマブ群で有意に高値でした。さらに、治験中の重篤な有害事象はリツキシマブ群で3.1%、プラセボ群で2.9%と両群ともに低い割合でした。
頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群では、ステロイドの長期間使用により骨粗鬆症や感染症などの合併症を併発し、患者の生活の質と生存率、健康に悪影響を与える問題がありました。本研究成果は、このような患者に対してリツキシマブが再発予防・寛解維持に有効かつ安全な治療法となりうることを示しています。
本研究成果は、2025年11月5日に米国科学誌「JAMA」(オンライン)に掲載されます。
本研究の背景
ネフローゼ症候群は大量のたんぱく尿と低アルブミン血症を特徴とする疾患です。成人期に発症した微小変化型ネフローゼ症候群はステロイド治療により約90%で寛解しますが、その約半数がステロイド減量中に再発し、何度も再発を繰り返す患者(頻回再発型)や、ステロイド減量により再発するためステロイドを減量できない患者(ステロイド依存性)が多く、ステロイドの長期間使用により骨粗鬆症や感染症などの合併症を併発し、生活の質と生存率に悪影響を及ぼしている患者が少なくありません。
リツキシマブは小児期発症の頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ患者に対して再発予防効果が示され、保険適用となっていましたが、成人期発症のネフローゼ患者に対する適用はなく、保険適用を取得するためのエビデンスが待ち望まれていました。
本研究の内容
成人期発症頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ患者を対象とした無作為化二重盲検試験では、2020年9月1日から2022年6月28日までに72名の患者がリツキシマブ群(36名)またはプラセボ群(36名)に無作為に割り付けられました。そのうち、6名の患者が治験薬の投与前に脱落し、二重盲検期間中に治験薬を投与された患者はリツキシマブ群(32名)またはプラセボ群(34名)でした。
49週間の無再発率は、リツキシマブ群で87.4% (95%信頼区間 69.8–95.1%)、プラセボ群では38.0% (22.1–53.8%)でした(p<0.0001)。無再発期間の中央値は、リツキシマブ群(49.0週間)、プラセボ群(30.8週間)で、リツキシマブ群の再発のハザード比(HR)は0.16 (0.05–0.46)でした(図1)。49週時点でステロイド投与を中止した患者の割合は、リツキシマブ群で71.9%、プラセボ群で36.4%でした(p = 0.0061)。これらのことから、成人期発症頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ患者に対してリツキシマブが再発予防・寛解維持に有効であることが分かりました。
リツキシマブ群では、32名の患者中4名が二重盲検期間中に再発し、そのうち3名が再発後治療期に移行し、プラセボ群では、34名中22名が二重盲検期間中に再発し、そのうち20名が再発後治療期に移行しました。治療期における49週時点での無再発率は95.7% (72.9–99.4%)で、リツキシマブ群で1名再発しましたが、プラセボ群で治療期に再発した患者はいませんでした(図2)。
リツキシマブはリンパ球であるB細胞を抑制する薬剤ですが、薬剤に関連した重篤な有害事象はリツキシマブ群で3.1%、対照群で2.9%でした。また、本研究は新型コロナウイルスが猛威をふるった時期に行われ、リツキシマブ群の15.6%、プラセボ群の5.9%の患者が新型コロナウイルスに感染しましたが、重篤な症状にいたった患者はいませんでした。
図2: 盲検期および治療期における寛解維持と再発患者数
クリックで拡大表示します
本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)
成人期に発症した頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群の患者はステロイドの長期間投与による副作用が問題となっていました。リツキシマブは小児期発症の頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ患者に対して再発予防効果が示され、保険適用となっていましたが、成人期発症のネフローゼ患者に対する適用はなく、保険適用を取得するためのエビデンスが待ち望まれていました。
研究グループは、有効性および安全性を示すことができたリツキマシブについて、現在、保険適用に向けてPMDA※4とも協議しております。
研究者のコメント
< 猪阪 善隆 教授 >
成人期に発症した頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群の患者はステロイドの長期間投与による副作用が問題となっていましたが、本研究によりリツキシマブがステロイド減量・中止に伴う再発予防・寛解維持効果および安全性を示すことができました。本研究に基づいて、成人期に発症した頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対してリツキシマブが保険適用となれば、ステロイド長期間処方を受けていた患者さまにとって福音となると思われます。今後は長期的なリツキシマブ投与方法について、さらなる検討が必要と考えております。
用語説明
※1 リツキシマブ
リツキシマブは、ヒトリンパ球B細胞のみに発現しているCD20抗原に対するモノクローナル抗体で、分子標的治療薬のひとつとして抗がん剤・免疫抑制剤などとして使用されています。これまで小児の難治性ネフローゼ症候群に対する保険適用はありましたが、成人期に発症した頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対する保険適用はありませんでした。
※2 寛解
寛解とは病気の兆候や症状が軽減または消失することです。ネフローゼ症候群の場合、たんぱく尿が消失することを寛解といいます。
※3 無作為化二重盲検試験
臨床試験において、被験者をランダムにグループ分けし(無作為化)、被験者と試験担当者の両方がどのグループがどの治療を受けているかを知らない状態で行う(二重盲検)試験のことです。これにより、結果の偏りを防ぎ、より信頼性の高い結果を得ることができます。
※4 PMDA
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構。PMDAは医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して、迅速な救済を図るとともに、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査しています。また、市販後における安全性に関する情報の収集、分析、提供も行っています。
特記事項
本研究は、各施設の倫理委員会による承認を得た後に実施しております。
本研究成果は、2025年11月5日に米国科学誌「JAMA」(オンライン)に掲載されます。
【タイトル】
“Rituximab for relapsing nephrotic syndrome in adults; A Randomized Clinical Trial ”
【著者名】
猪阪 善隆 1); 坂口 悠介 1); 新沢 真紀 1);、丸山 彰一 2);、坂口 美佳 3), 林 宏樹 4), 甲斐田 裕介 5), 後藤 眞 6), 塚本 達雄 7), 前嶋 明人 8), 池田 洋一郎 9), 坂井 宣彦 10), 澤 直樹 11), 古市 賢吾 12), 山縣 邦弘 13), 和田 健彦 14), 柴垣 有吾 15), 廣村 桂樹 16)
- 大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学
- 名古屋大学 腎臓内科学
- 近畿大学 腎臓内科学
- 藤田医科大学 腎臓内科学
- 久留米医科大学 腎臓内科学
- 新潟大学 腎・膠原病内科学
- 医学研究所北野病院 腎臓内科
- 埼玉医科大学総合医療センター 腎・高血圧内科学
- 東京大学 腎臓・内分泌内科学
- 金沢大学 腎臓・リウマチ膠原病内科
- 虎の門病院分院 腎臓内科
- 金沢医科大学 腎臓内科学
- 筑波大学 腎臓内科
- 虎の門病院 腎臓内科
- 聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科
- 群馬大学 腎臓・リウマチ内科
DOI:https://doi.org/10.1001/jama.2025.19316
