2009年

 

岩井 一宏 ≪医化学≫ 「炎症、がん化に関わる新たなNF-κB活性化機構の発見」


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2009年1月11日 発表
掲載誌 Nature Cell Biology 11,123-132, 2009

炎症、がん化に関わる新たなNF-κB活性化機構の発見

研究の背景:ユビキチン修飾系はタンパク質が出来上がった後に、ユビキチンが複数個数珠状に繋がって形成され るポリユビキチン鎖を結合させることで、多様な様式タンパク質の機能を制御する翻訳後修飾系である。発見当初はポリユビキチン化されたタンパク質はすべて 分解に導かれると考えられてきた。しかし、現在では我々の身体の中には多彩なポリユビキチン鎖が存在すること、ポリユビキチン鎖の種類によってタンパク質 の制御のされ方が異なっており、ユビキチン化されたタンパク質は必ずしも分解されるのではないことが明らかになっている。これまでに報告されていたポリユ ビキチン鎖は全て分岐鎖状であるのに対し、本研究に先立ち、我々は直鎖状ポリユビキチン鎖と呼ばれる新しいポリユビキチン鎖が生成されることを報告し、そ の役割の研究を進めていた。

今回の論文の概要:NF-κBは種々の刺激によって活性化される転写因子であり、TNF-αやIL-1β等の炎症性サイトカインや、細胞接着因子、抗アポ トーシスタンパク質群の遺伝子の転写を誘導して、免疫応答、炎症、細胞接着の誘導、抗アポトーシス作用などの多彩な生理作用を発揮する。さらに、その活性 調節異常がアレルギー、ガンを含め幾多の疾患に関与していることが知られており、創薬のターゲットとして多くの研究者が研究を進めている転写調節因子であ る。

直鎖状ポリユビキチン鎖を選択的に生成するHOIL-1LとHOIPからなるユビキチンリガーゼ複合体をすでに同定していたので、同複合体によって直鎖 状ポリユビキチン化されるタンパク質を検索した。その結果、細胞が炎症性サイトカインなどで刺激を受けたあと、同複合体はNEMOと呼ばれるNF-κBの 活性化に非常に重要な役割を果たすタンパク質と選択的に結合して、NEMO に直鎖状ポリユビキチンを付加することでNF-κBの活性化に導くことを明らかにした(図)。さらに、直鎖状ポリユビキチン鎖を生成するユビキチンリガー ゼ複合体の構成成分の1つであるHOIL-1Lを欠損しているマウス由来の肝細胞ではTNF-α依存的なNF-κBの活性化が著しく減弱することを示し た。これまでにも、ポリユビキチン化は多彩な様式でNF-κBの活性化に関与することが知られてはいたが、そのいずれもがNF-κB選択的ではないのに対 し、直鎖状ポリユビキチン鎖はNF-κBを特異的に活性化すると思われることを示した。

今後期待できる成果:前述のように、NF-κBはリウマチなどの免疫異常を伴う疾患、アレルギー、ガンなどの多彩な疾患に関わっている。さらに、直鎖状ポ リユビキチン化はこれまでのところ他の刺激伝達系には影響を及ぼさず、NF-κBを特異的に制御している。それゆえ、直鎖状ポリユビキチン化はNF-κB の活性を調節する薬剤の良いターゲットになることが期待される。

URL http://www.cellbio.med.osaka-u.ac.jp/

医化学