2023年

  • トップ
  • >
  • 研究活動
  • >
  • 主要研究成果
  • >
  • 2023年
  • >
  • 下村 伊一郎 ≪内分泌・代謝内科学≫、福原 淳範 ≪肥満脂肪病態学≫、シン ジフン ≪糖尿病病態医療学≫ 私が太りやすい理由 生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子などの影響を一つの因子で説明!

下村 伊一郎 ≪内分泌・代謝内科学≫、福原 淳範 ≪肥満脂肪病態学≫、シン ジフン ≪糖尿病病態医療学≫ 私が太りやすい理由 生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子などの影響を一つの因子で説明!

2023年11月11日
掲載誌 Nature Communications

図1: HSP47による体脂肪量を決めるメカニズム
クリックで拡大表示します

研究成果のポイント

  • ヒートショックプロテインHSP47※1 の発現は脂肪組織に高く、体脂肪量と相関する
  • HSP47は食事、運動、ホルモンなどにより制御される
  • HSP47はコラーゲンのフォールディング・分泌に必須の因子であり、HSP47の欠損や活性阻害によって細胞接着シグナルが阻害され、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体PPARγタンパクの安定性が低下することで、脂肪量が減少する

概要

大阪大学大学院医学系研究科の下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)、福原淳範寄附講座准教授(肥満脂肪病態学)、シン ジフン寄附講座助教(糖尿病病態医療学)らの研究グループは、ヒトの脂肪組織量を規定する因子としてHSP47を同定しました。ヒトやマウスのトランスクリプトームの解析から、HSP47の発現は体脂肪量と相関しており、摂食や過食、肥満など太りやすい環境では上昇し、運動や絶食、食事制限など痩せやすい環境では低下します。遺伝的に脂肪組織のHSP47発現が高いヒトは太りやすい傾向があり、脂肪細胞特異的HSP47の欠損マウスや薬剤的HSP47阻害モデルマウスでは脂肪重量が減少します。メカニズムの解析によって、HSP47の欠損や活性障害によって脂肪細胞のコラーゲンタンパクのフォールディング・分泌が障害され、細胞内FAKシグナルが低下し、PPARγタンパク分解が促進することで、脂肪細胞の機能障害によって脂肪重量が減少することが明らかとなりました。

本研究の背景

体脂肪量は個人差が大きく、生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な要因・要素が関係していましたが、それを科学的に統括して説明できる研究報告はありませんでした。本研究は様々なIn silico, In vivo, In vitro解析法を用い、脂肪組織を規定する因子を同定し、機能解析を行いました。

本研究の成果

体脂肪量は生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な要因に影響を受け、個人差が大きいことが知られています。

本研究では、脂肪組織に発現するHSP47が体脂肪量を規定する重要な因子であることを明らかにしました。HSP47の発現は摂食、過食、肥満により増加し、断食、運動、カロリー制限、バリアトリック手術※2、およびカシェキシア※3により減少することが知られています。さらに、HSP47は様々な体脂肪の指標(体脂肪量、BMI、ウエストおよびヒップの周囲径など)と有意に相関し、インスリンおよびグルココルチコイドによって調節されていました。また、SNP解析によるHSP47遺伝子発現量は、体脂肪量と相関を示しました。メカニズムとして、HSP47の欠損や阻害によってコラーゲンタンパクの動態(折りたたみ、分泌、およびインテグリンとの相互作用)が障害され、PPARγタンパクが減少することで、脂肪組織が萎縮することが分かりました。今後、体脂肪量と関連する臨床応用にも期待できます。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な背景・環境における体脂肪の個人差を科学的に説明できる重要な研究であり、今後体脂肪に関する臨床応用も期待されます。

研究者のコメント

<シン ジフン 寄附講座助教のコメント>

体脂肪量は個人差が大きく、生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な要因・要素が複雑に関与しており、科学的に説明するのが困難でした。本研究においてHSP47が体脂肪量を規定する因子であることが示され、個人の体脂肪量を一つの因子で科学的に説明できる重要な基礎知識が得られました。今後、体脂肪量と関連する臨床応用にも期待できます。

用語説明

※1 ヒートショックプロテインHSP47
細胞内小胞体に発現し、コラーゲンタンパクのフォールディングや分泌に重要なシャペロンタンパクである。

※2 バリアトリック手術 
肥満を治療するための外科的な手術の総称。これらの手術は、食事制限や吸収の変更などのメカニズムによって、体重の減少を促進し、合併症を軽減することを目的としている。主に重度の肥満患者や肥満に伴う健康リスクが高い場合に検討される

※3 カシェキシア
慢性的な疾患や悪性腫瘍(癌)などの状態において、体重や筋肉量の異常な減少、栄養不良、体力の低下などが見られる症候群。疾患によって引き起こされる全身性の炎症反応や代謝の異常が原因となり、通常の栄養補給や摂食増進の努力にもかかわらず、体重減少が持続する状態。

特記事項

本研究成果は、「Nature Communications」(オンライン)に、1111(土)に公開されました。

【タイトル】

“HSP47 levels determine the degree of body adiposity”

【著者名】

Jihoon Shin1,2,3*, Shinichiro Toyoda1, Yosuke Okuno1, Reiko Hayashi,1 Shigeki Nishitani1, Toshiharu Onodera1,4, Haruyo Sakamoto1, Shinya Ito5, Sachiko Kobayashi 1, Hirofumi Nagao1, Shunbun Kita1,6, Michio Otsuki1,7, Atsunori Fukuhara1,6, Kazuhiro Nagata8,9, and Iichiro Shimomura1 (*責任著者)

  1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
  2. 大阪大学 大学院医学系研究科 糖尿病病態医療学
  3. Division of Endocrinology, Diabetes and Metabolism, Beth Israel Deaconess Medical Center and Harvard Medical School
  4. Touchstone Diabetes Center, Department of Internal Medicine, The University of Texas Southwestern Medical Center
  5. 京都産業大学 生命科学部
  6. 大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学
  7.  東京女子医科大学 内分泌内科学
  8. 京都産業大学 タンパク質動態研究所
  9. JT生命誌研究館

【DOI番号】10.1038/s41467-023-43080-x