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スタートアップ「株式会社ivec」を設立~脳の活動を読み取る研究成果で誰もが社会と繋がる未来を目指す~

2026年3月4日

図1: 血管内BMIのイメージビジュアル
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概要

 JSTムーンショット型研究開発事業 目標1 金井プロジェクトにおいて、大阪大学大学院医学系研究科の栁澤琢史教授らの研究グループは、開頭手術をせずに血管内から脳波を高精度に計測する技術を開発し、その社会実装を担う「株式会社ivec(アイベック)」を20251030日に設立しました。

 頭の中から脳波を計測しAIで解読することで、脳波を介して意思を伝えることは重度の運動障害がある患者の意思伝達補助や運動機能の再建への応用が期待されています。しかしこれまで高精度の脳波を計測する技術として注目されていた、脳の血管内に電極を留置して脳波を記録する「血管内脳波、固くて太い電極を要することから、脳の表面や深部などの細い血管には留置できず、重要な脳の領域から計測することできないという課題がありました 

 研究グループでは、極細かつ柔軟な血管内電極を新たに開発することで、従来は困難だった脳表静脈への電極の安全な留置を可能にしました。ブタの脳にこの技術を用いた研究では、開頭した場合と同等以上の精度で脳信号を記録できることを明らかにしました(2025年10月3日プレスリリース

 これらの研究で開発された技術により、局所麻酔下で留置可能な完全埋め込み型BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)の実現が期待されます(図1)。将来的にはALS(筋萎縮性側索硬化症)などをはじめとする重度麻痺患者の方々が、血管内脳波BMIを介して、意思伝達や機器の操作をすることで、身体的な制約に関わらず、誰もが社会と繋がる未来を目指しています。

 今後は、「株式会社ivec」(代表:栁澤琢史、本社:東京都渋谷区)が主体となり、3年後の臨床研究開始および患者の生活を取り戻す革新的な医療デバイスとしての実用化を目指します。

研究、開発の背景

 BMIALS(筋萎縮性側索硬化症)などの重度麻痺患者が、脳信号のみを用いて意思を伝達できるようにすることを目的に開発を進めています。しかしBMI適用や脳の電気活動を直接記録するために、全身麻酔下での開頭手術が必要であり、手術負担や合併症のリスクといった課題がありました

 そこで研究グループは、局所麻酔下で実施できる低侵襲な代替手段として、血管内から脳波を記録する「血管内脳波(intravascular EEG, ivEEG)」技術に着目しました。しかし、従来の血管内脳波の測定には、固くて太い電極を使用していたため、硬く太い血管(上矢状静脈洞など)にしか電極を留置できず、手や口の活動に対応する運動野などの意思や動作に関わる脳領域から信号を得ることは困難でした。

 研究グループは、高精度かつ安全な方法を目指して、血栓ができにくくかつ柔らかい材料を使用した新型電極を独自に開発しました。脳表に分布する直径2〜3mmの細い皮質静脈にも安全に留置でき、血管内から脳波を取得する技術を確立したことで、開頭手術なしで脳活動を測ることが可能となりました。

 研究では、ブタモデルを用いて、細径カテーテルを脳表静脈まで誘導し、ワイヤー状電極で脳波を記録しました。そして、得られた信号は開頭下の頭蓋内脳波と同等以上の精度を持つことが確認されました。
2025年10月3日プレスリリース)。

異分野連携によるデバイス開発の目的と社会的意義

 この技術により、将来的には局所麻酔下で留置可能な完全埋め込み型BMIシステムの実現が期待されます。そしてALS患者さんをはじめとする重度麻痺患者が、自らの「思考」で意思を伝達することやロボットやアバターなどのテクノロジーを操作することが実現、社会と再びつながることができる未来を目指します。

 この完全埋め込み型BMIシステムの実現は、さまざまな身体的な理由で社会にある障害を取り除くことが期待されます。そして、新しい選択肢を提案することでJST ムーンショット型研究開発事業 目標1が掲げる「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」に寄与し、現在社会にある課題を解決した先にある、誰もが多様な社会活動に参画できるサイバネティック・アバター基盤(図2)の創出の一助となることが期待できます

図2: サイバネティック・アバター基盤のイメージイラスト
(出展https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub1.html)
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ivec株式会社の設立〜3年後に人への臨床研究を目指して〜

 株式会社ivecは、上記の成果を基盤に、血管内電極および通信装置の開発を進め、3年後に人への臨床研究を開始することを目標としています。

 同社は、臨床医・工学者・起業家の4者が創業者として参画し、脳・神経疾患患者に新たなコミュニケーション手段を提供することを目指しています。将来的には、完全埋め込み型の血管内BMIシステムを開発し、在宅でも使用できる「低侵襲・高精度の神経インターフェース」として社会実装を目指します。

 ivecは、「血管内から脳信号を読む」という新しいアプローチで、これまでアクセスできなかった脳領域を安全に可視化する技術を確立します。3年後の臨床試験を経て、5年後には治験の開始を目指しています。患者の生活を取り戻す革新的な医療デバイスとして実用化を目指します。

 なお本研究開発は、大阪大学 産業科学研究所の関谷毅教授、大阪大学大学院 医学系研究科 脳神経外科学の中村元講師と共同で行いました。また、関谷氏、中村氏は、栁澤氏とともに「株式会社ivec」の創業者でもあります。

図3: 極細径血管内脳波BMIの概念図。脳表の細静脈を経由して、手や口の運動野近くへ留置された電極から頭蓋内脳波を計測し、胸部皮下に埋め込まれた送信機で信号を外部へ送信します。これを解読することで、CAを操作します。
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会社概要

会社名 株式会社ivec(アイベック)
設立 2025年
本社所在地 東京都渋谷区
代表者 柳澤 琢史(代表取締役)
事業内容 血管内脳波計測デバイスの研究開発、BMI技術の社会実装

用語の説明

※1 血管内脳波
血管の中に細い電極を入れて、脳の活動によって生じる電気信号を測定する方法です。頭を開く手術を行わずに脳の近くから信号を測定できるため、体への負担が比較的小さい新しい脳計測技術として研究が進められています。

※2 BMI
脳の活動を読み取り、その情報を使ってコンピュータやロボットなどの機械を操作する技術です。体を動かすことが難しい人が機器を操作できるようにするなど、医療や福祉への応用が期待されています。

関連情報

大阪大学 神経情報学講座
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/bci/

ムーンショット型研究開発事業
https://www.jst.go.jp/moonshot/

ムーンショット型研究開発事業 目標1 金井プロジェクト「Internet of Brains」
https://brains.link/

研究紹介対談動画「医×工×情報が生み出す「極低侵襲BMI」の最前線」
https://www.youtube.com/watch?v=zU7A-gKfNWo