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大阪大学発の膀胱がん治療薬開発に対して AMED大型助成(橋渡し研究シーズF#)決定!

2025年5月30日

図1: 亜塩素酸ナトリウムによるがん細胞の細胞死の誘導
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研究成果のポイント

  • 筋層非浸潤性膀胱がん1に対して行う経尿道的膀胱切除術2でがん組織を切除した後、再発抑制のために亜塩素酸ナトリウムを膀胱内に注入する治療法の確立を目指し、既に医師主導治験を実施中
  • 亜塩素酸ナトリウムの膀胱がん治療薬開発に対して、2025年度のAMED橋渡し研究シーズF#3の助成が決定。本助成金により2027年度まで医師主導治験の第2a相試験パートを実施し、亜塩素酸ナトリウムの有効性と安全性の評価を終え、その評価結果を以て製薬企業へ導出予定
  • 亜塩素酸ナトリウムを用いた治療法が確立されることで、既に承認されて使用されている薬剤を用いた治療法で課題となっている治療継続率の改善や、治療継続率の改善による膀胱がんの非再発率上昇に期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科 泌尿器科学の河嶋厚成 准教授らは、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)に対して行う経尿道的膀胱切除術(TURBT)でがん組織を切除した後、再発抑制のために亜塩素酸ナトリウム(開発コード: HM-001)を膀胱内に注入する治療法の確立を目指し、安全性と有効性を確認するための第1/2a相試験である医師主導治験を、20237月より大阪大学医学部附属病院をはじめ計6医療機関4で開始し(jRCT2051230033、参考:2023年7月19日プレスリリース https://www.med.osaka-u.ac.jp/archives/36443)、現在、計4医療機関5の共同で、第1相試験パートを実施しています。

本治験は、株式会社HOISTより治験薬計3ロットの無償提供、大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部とイーピーエス株式会社の支援を受けて実施しています。

今般、HM-001の膀胱がん治療薬開発に対して、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)による2025年度の「橋渡し研究シーズF#」の助成が決定しました。本助成金により2027年度まで医師主導治験の第2a相試験パートを実施し、HM-001の有効性と安全性の評価を終え、その評価結果を以て製薬企業へ導出する予定です。

本研究の背景

膀胱がんは男性に多く発症し、新たに診断される膀胱がんの約70%は筋層非浸潤性膀胱がんです。筋層非浸潤性膀胱がんは内視鏡手術による切除が可能である一方再発率が高く、再発抑制のためBCG6や抗がん剤の注入療法が行われています。膀胱内に注入するので刺激性が低く、継続して使用できる治療薬の開発が喫緊の課題です。

これまでに、大阪大学大学院薬学研究科 附属化合物ライブラリー・スクリーニングセンターの辻川和丈 特任教授(常勤)らの研究グループは、細胞および動物を用いた試験において、亜塩素酸ナトリウムが膀胱がん細胞の増殖を抑制することを明らかにしました。

この成果を大阪大学発のベンチャー企業である株式会社HOISTが引き継ぎ、動物試験での更なる有効性の確認、GLP基準※7に基づいた安全性の確認、治験薬の製造を行っています。

治験薬は、株式会社HOISTGMP基準※8に準拠して製造し、提供しています。

本研究の内容

本治験は大阪大学大学院医学系研究科 泌尿器科学の河嶋厚成 准教授が計画し、株式会社HOISTより治験薬の提供を受け、大阪大学医学部附属病院にて実施しています。

1相試験パートでは、NMIBC患者さんを対象にHM-0013つの薬剤用量を設定し、低い薬剤用量から3例ずつTURBT1週後に膀胱内へ1回注入し、4週の間隔を空けた後から週1回の膀胱内注入を6週継続します。3例毎にHM-001の安全性を第三者委員会で評価し、安全であると判断された場合には、1つ上の用量で3例の患者さんの膀胱内に注入します。治験薬に起因し、安全性に懸念が生じた場合には同じ用量で3例を追加して安全性を再度評価します。安全であると判断された場合には1つ上の用量に移ります。

この手順を繰り返し、3つの薬剤用量の安全性を評価し、将来の治療で用いる薬剤用量(推奨用量)を決定します。

2a相試験パートでは、NMIBC患者さんを対象に、第1相試験パートで推定された臨床推奨用量を、第1相試験パートと同じスケジュールで導入治療を行い、その後、維持治療として週13週間連続での膀胱内注入を13週間隔で3回繰り返し、TURBTから57週後(約1年後)の膀胱がんの非再発率を有効性指標として評価し、また、有害事象の発現状況などの安全性の評価を行います。

登録予定の患者さんは、第1相試験パートで最大18名、第2a相試験パートで30名です。

今般、HM-001の膀胱がん治療薬開発に対して、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)による2025年度の「橋渡し研究シーズF#」の助成が決定しました。本助成金により2027年度まで医師主導治験の第2a相試験パートを実施し、HM-001の有効性と安全性の評価を終え、その評価結果を以て製薬企業へ導出する予定です。

図2: 膀胱がんの深達度
がん情報サービスより:https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/treatment.html

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図3: 経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)の術式
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000255.html
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本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

膀胱がん診療ガイドラインで推奨されているTURBT後のBCGや抗がん剤の膀胱内注入療法では、膀胱内刺激が強いことから治療継続率は高くなく、非再発率も5080%程度にとどまっています。

TURBT後にHM-001を膀胱内に注入して膀胱内の刺激が弱いことが明らかになれば、従来の治療法に比べて治療継続率が高まり、更には膀胱がんの非再発率が高まることで、患者さんの予後およびQOL改善に繋がると期待されています。

研究者コメント

<河嶋厚成 准教授>

筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)に対する治療においては、膀胱温存を目指して、膀胱内視鏡を用いたがん組織の切除治療(TURBT)を行い、その後に膀胱内へ薬剤を注入することにより膀胱がんの再発・進展を抑制することが極めて重要とされています。
現在、HM-001を用いた医師主導治験を実施しており、これまでに本治験に参加された患者さんの診察を通じて、HM-001は既存の薬剤と比較して膀胱内の刺激が弱い可能性があると考えられています。この度のAMEDからの助成を有効に活用し、今後の第2a相試験パートにおいても、引き続き、患者さんの安全性を最優先に、慎重かつ着実に試験を進めてまいります。そして、大阪大学発・世界初となる、刺激の少ない膀胱がん治療薬として1日も早く実臨床で使用できるよう努めて参ります。

用語説明

※1  筋層非浸潤性膀胱がん
(NMIBC: non-muscle invasive bladder cancer)
表在性膀胱がん(粘膜上皮内にとどまっている)及び上皮内膀胱がん(粘膜上皮内で広がっている)を指します。

※2 経尿道的膀胱腫瘍切除術
(TURBT: Trans urethral resection of bladder tumor)
麻酔あるいは腰椎麻酔を行って、専用の内視鏡を用いてがん組織を電気メスで切除する方法で、診断をかねて実施されます。

※3 AMED橋渡し研究シーズF#
関連特許出願及び非臨床POC取得済み、かつ開発にあたって企業連携が確立しており、企業の参画を得て最長3年度以内に産学協働で下記の目標への到達を目指す研究開発課題が対象。
ただし、研究開発期間内に治験又は臨床試験の観察期間終了(Last Patient Out)まで終了できる研究開発課題。
・臨床 POC 取得を目指す医薬品及び医療機器等の研究開発課題
・上記に加え、医療への適応のため早期・戦略的な企業への導出を目指す研究開発課題
(公募要領P.12: https://www.amed.go.jp/content/000136305.pdf)
※AMED橋渡し研究シーズF#の対象となる研究課題(公募要領より抜粋)

※4 計6医療機関
(phase II参加施設)
大阪大学医学部附属病院
長崎大学病院
近畿大学病院
大阪府立急性期・総合医療センター
大阪国際がんセンター
順天堂大学医学部附属浦安病院

※5 計4医療機関
大阪大学医学部附属病院
長崎大学病院
大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター
大阪国際がんセンター

※6 BCG
ウシ型結核菌をもとにして作製された細菌で、BCGを利用した結核に対するワクチンが知られています。BCGには膀胱がんを死滅させる効果が確認されているので、BCGは結核の予防接種だけでなく、膀胱内注入療法に応用されていますが、副作用も多く見られます

※7 GLP基準
(Good Laboratory Practice)
医薬品等に対する各種安全性試験成績の信頼性を確保するための基準です。

※8 GMP基準
(Good Manufacturing Practice)
医薬品等の製造において、製造過程全体にわたって品質を確保するための基準です。